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最新医学:活性酸素には「善玉」もあるよ

よく「運動し過ぎると、毒物である活性酸素が大量に発生し、体に悪い」という話を目にする。しかし最新医学は、活性酸素の重要な働きをいろいろ明らかにしている。先日は、記憶の形成に活性酸素が役立っていることが明らかにされた。


活性酸素にも「悪玉」と「善玉」がある

活性酸素は脳内でも作られる。従来、悪玉としての活性酸素が脳卒中など脳に悪さをすると考えられていたが、今回、善玉として脳にいい役割がわかったわけだ。活性酸素には、悪玉と善玉がある、ということだ

本研究のイメージ図:活性酸素の機能的役割のパラダイムシフト

こちらの図は京大の発表ページより。イラストかわいい笑

そもそも「活性酸素」とは、エネルギー産出の副産物として、生体内で常に産生されている。酸素自体が毒物なので(だから原始の地球では酸素が多すぎて生物がなかなか進化できなかった)、「活性化された酸素=元気な毒物」が体内にあると、いろいろ害も起こす。この考え方は1950年代ごろに提唱された。マズロー欲求説と同じくらいに古い。

しかし最新医学では、単純な悪玉説は支持されていない。2022年に大阪公立大医学部の高杉征樹助教が書いた『老化研究をはじめる前に読む本〜450本の必読論文のエッセンス』でもそう:

(ちなみにこの本では、一部で注目されてる糖尿病薬「メトホルミン」の長寿効果についても怪しんでいる。斬新な薬に手を出すのは体をはったギャンブルだ)

「運動中に生成される骨格筋活性酸素種(ROS)は、運動の健康促進効果に不可欠」という記事も2021年、国立健康・栄養研究所のサイトで紹介されてた。これは、「運動→ 酵素NOX4増加→ 骨格筋活性酸素種ROS増加→ インスリン抵抗性強化(糖代謝改善)→ 2型糖尿病など減少」という仕組み。とくに加齢で差が出る。

最新医学でも解明されてきっていないことは多い。僕は、「運動による活性酸素」には、プラスの効果があり、とくに運動で疲れた体を修復して、健康効果を引き出すようなイメージで理解している。

活性酸素を除去しすぎないほうがいい

活性酸素の毒の要素については、体内では、悪玉活性酸素を除去する「抗酸化」の仕組みも同時に走っている。活性酸素は1 日に細胞あたり約10 億個ほど発生、抗酸化機能もすぐに働く。活性酸素により細胞内DNAは1日に細胞あたり数万〜数10 万個ほど損傷するが、すぐに修復される(wiki)

この抗酸化を助けるのがビタミンEなど抗酸化物質。サプリとしても人気だ。

運動習慣があると、この抗酸化の仕組みが鍛えられることも、これまで言われてきた。ストレスは、ある程度あったほうが、体によい「ホルミーシス仮説」だ。

今回の研究では、抗酸化物質を大量に使って活性酸素を除去しまくると、運動記憶が損なわれてしまうことがわかった。

以上まとめると、

1.運動して、活性酸素が発生し
2.活性酸素が、運動による健康効果をうみだし(善玉の効果)
3.毒になる活性酸素は、抗酸化により除去される(悪玉の処理)

ということだろう。とくに最後3.の部分で栄養(抗酸化物質ふくめて)+休養が十分必要で、ここ不十分だと「運動のやり過ぎが体に悪い」状況にも陥りそう。

つまり、運動のプラス効果を得るために、その過程で活性酸素が必要、ということ。このサイクルを回し続けることで、運動のアンチエイジング効果がうまれる。

そもそも的に、単なる毒物であれば、ここまで生物の基本的仕組みとして継承されていないように思う。「今時点の科学では見えていないだけ」ということだ。

たとえば昔「盲腸は役立たず」と言われ、予防的に切除されることすらあったが、今は役割がわかってきたように。あるいは、コレステロールに善玉と悪玉があるように。腸内細菌もそうだ。

京大のサイエンス・コミュニケーション

京大チームによる今回の論文は、は2月1日に国際学術誌「Redox Biology」にオンライン掲載: "Essential role of ROS – 8-Nitro-cGMP signaling in long-term memory of motor learning and cerebellar synaptic plasticity" 

京大が3/6にサイトで発表:

少し詳しい内容はPDFで: https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/2024-02/2403_kakizawa-612c357d78e5f9fe3e08e4b13862d658.pdf

神経細胞内で活性酸素が作られるのを画像として確認していたり、すごい研究らしい。実験はマウス使用だが、「今回明らかになった活性酸素による脳機能の制御系はヒトを含む高等生物に広く保存」、と人間の脳の記憶とも関わることが示されている。

ほっこりエピソードもあり:

「「20年来小脳長期記憶を支える分子機構を探していました。ほぼ諦めていたのですが、達人達の協力で退職前に分子機構を見つけられて、うれしく思います」

遠藤昌吾 東京都健康長寿医療センター研究部長

微笑。京大さん、科学的成果を一般人にわかりやすく伝える「サイエンス・コミュニケーション」を重視していることもわかる。

「運動嫌いな人たち向け商法」に注意しよう

世の中には、運動が嫌いな人たちが多い。病気などやむを得ない人もいるわけだが、そうでない人も多く、1つの巨大市場になっている。この人たちが喜ぶことを言えば儲かる。サプリメント類にもそういう物がものが多い。医師でも、この層に向けたクリニック経営で儲けてる人もいるだろう。

「運動嫌いな人たち向け商法」によるポジショントークに注意しよう。

もちろん、運動には運動のリスクがある。正しく把握することだ。

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トップ画像は抗酸化物質です


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八田益之(「大人のトライアスロン」日経ビジネス電子版連載中)
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