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経営学者が選ぶ2021年の人事系ニュースTOP2:メタバース元年となるか?

2021年10月28日付で、米国フェイスブックが「メタ・プラットフォームズ(略称、メタ)」に社名を変更した。長年、SNSの雄として業界をけん引してきた同社が、今後はメタバースを中心とした事業展開に舵を切ろうという意思表明だ。

メタバースとは?

メタバースとは、インターネット上の仮想空間の中で自由に行動したり、物理的に離れた場所にいる人と交流したりできるプラットフォームだ。2000年代には、セカンドライフがメタバースの先駆けとして大いに注目を集めた。しかし、セカンドライフをはじめとした同様のサービスは、一般のユーザーを惹きつけるには魅力が薄く、3D処理をするために求められる機材の性能要件が高く、十分に楽しむには多額の費用が必要となった。

メタバースを普及したいIT業界にとって、「一般ユーザーへの魅力の提示」と「導入費用の高さ」は長年の課題となっている。2010年代半ばには、VR技術の発展によるメタバースの展開が期待された。しかし、一般ユーザーが楽しむには数十万円以上の初期投資がネックとなった。最も安価にVRでメタバースを楽しめるプレイステーションVRですら、すべてをイチから揃えようとすると10万円以上の投資が必要だった。(現在は機材の価格は大幅に下がっている)

しかし、部分的にはメタバースの世界は既に私たちの生活の中に浸透している。ファイナルファンタジー14や World of Warcraft に代表されるMMORPG(多人数同時接続型オンラインロールプレイングゲーム)は、多くのプレイヤーにとって、もう1つの現実世界(メタバース)となっている。そのプレイヤー人口は億単位で膨大だ。

それでは、今回の フェイスブックの社名変更は何がこれまでと異なるのだろうか。それが、現実世界の業務が急激にメタバースによって仮想空間に置き換えられる可能性を示している。そして、それが人事トピックとして重要となる。

メタバースは労働生産性の革命となる

コロナ禍によって、世界的に業務のデジタル化(DX)は急激に進んだ。昨年、在宅勤務を推進するオンライン会議システムのZOOMが注目を集め、急激にユーザーが増えたことから問題が多発したことは記憶に新しい。そのほかにも、バーチャルオフィスのRemoやクラウドストレージによる協業、スケジューラーやタスク管理のクラウド化も一気に広まった。それまでは、デジタル化に肯定的な企業や個人だけが使っていたものが、どのような企業や職種であっても導入を検討するようになった。

この結果として、それまで対面ではないと無理だと考えられてきた多くの業務が、実はオンラインでも支障なく実行できることがわかってきた。理屈としては、ホワイトカラーのほとんどの業務内容がオンラインで代替できた。特に、米国や中国のような国土の広い国、EUやASEANのような国をまたぐ経済圏、世界規模で事業展開を行うグローバル企業で、デジタル化による業務効率化の恩恵は大きなものとなった。

業務の多くがオンラインでも完結できるようになると、メタバースの可能性が一気に広がる。ヘッドセットや業務用のPODとネット環境があれば、世界中のどこにいても業務が可能になる。フェスブックは2014年にVRベンチャーのOculusを買収し、2018年にスタンドアローン型のVRヘッドセット「Oculus Quest」と廉価版「Oculus Go」を発表した。特別な機材の必要がなくVRを楽しむことができる両製品は商業的にも大きな成功を収めた。

スタンドアローン型のVRヘッドセットは、ビジネスに応用することで大きな変化を生むことだろう。技術が進歩すると、既存のノートパソコンを代替する日が来るかもしれない。

例えば、試作品を原寸大で確認したり、3D空間にリアルタイムで描写することで海外の製造拠点の現場を目で見て確認することもできるようになる。既に今でも、外科手術の訓練や飛行機のパイロットの訓練、モータースポーツの選手など、訓練時にかかるコストが大きな職種では何度でもトライアンドエラーができるVR技術が活躍している。また、5Gの見本市では、遠隔からリアルタイムで建設機械を操作したり、生産現場の操業をするロボット技術に注目が集まった。

メタバースによる業務プロセスの変化は、労働生産性を大きく向上させ、これまでとは全く異なる組織の在り方と働き方が求められる。管理職のマネジメント行動や職場内のコミュニケーションも、仮想空間での活用を想定したものにしなくてはならない。リクルートやKDDIのように、オフィスの在り方の見直しを始めている企業もあるが、そもそもオフィスの存在意義から変わっていく。

メタバースの変化に対応できるか?

メタバースが普及する前と後では、既存のマネジメントが大きく変わるだけではなく、人事制度や人事施策もまったく新しいものになり得る。そして、その変化についていくことができないと、グローバルビジネスで急激に競争力を失うことになりかねない。しかし、世界のビジネスのデジタル化に対して、日本の現状は悲惨だ。様々な統計指標が、日本の対応が遅れている現状を示している。

例えば、レノボ社は2020年以降、テレワークの実施状況について国際調査を複数回行っている。その結果、日本を除く国や地域ではテレワークに対する評価は悪くない。日本では4分の1の企業がテレワーク対応にいまだに混乱中だと答えているが、世界ではおおむね2割未満だ。労働政策研究・研修機構がまとめたOECDの結果でも、日本の数値はOECD平均から大きく下回る。産業別にみても、製造業と公益事業を除く、ほとんどの産業でOECDの平均には達していない。

国内外のデジタル化で成果を出している企業と、なかなかデジタル化の進まない企業の双方と話をすると、発想方法に大きな違いがあることに気が付く。デジタル化で成果を出している企業は、国内外を問わずに、将来的に来るであろうデジタル化の流れを見越して、自分たちが現在やるべきことを決めている。つまり、デジタル化ありきで話を進める。しかし、デジタル化が進まない企業では、「そもそも、自社にとってデジタル化は良いことなのか?」から話を進めようとする。将来、訪れるだろう変化から逆算して発想できない。

当然、デジタル化がすべて良いことばかりではない。現状でも、長引くコロナ禍と在宅勤務によって体調を崩したり、オンラインで完結する仕事の進め方に馴染むことができずに離職する人が世界的に見ても増えている。コロナが一端の収束をみせた後は、揺り戻しでのアナログ回帰も起こるだろう。しかし、効率化した労働生産性と業務プロセスは戻らない。遠隔とのオンライン打ち合わせは継続し、クラウドベースの業務プロセスも一層進化していくことだろう。

ビジネスのメタバース化は遅かれ早かれ訪れる未来だ。特に、新興国にとってのメリットが大きく、経済成長のために力を入れて取り組むだろう。グローバルビジネスで日本企業が生き残っていくために、今から備えることは遅くはない。

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