日本の「こだわり」は商機になる
日本人の自己評価に、「こだわりが強い」は入るだろうか?各国比較可能な「こだわりインデックス」があれば便利だが、肌感覚からすると、確かに日本人には、良くも悪くも我が道を究めるタイプが多いような気はする。
サードウェーブと呼ばれる海外の高価格コーヒーブランドを、国内で展開する日本支社長を務めた知人が、日本での展開は「本家よりもこだわって」、「まるで宗教」と語っていた。コーヒーの神髄を守るために、採算度外視でとことん働いてしまうのだという。
一方で、こだわる対象の起源には「こだわらない」のが日本流だ。世界で一番おいしいイタリアンが食べられるのは東京だと言われる。また、和製ウイスキーの地位は、海外の本家と並んで、堂々と認められている。
食を超えても、日本人の「こだわり」ぶりは発揮されている。15年連続で日本人受賞者が出ているイグ・ノーベル賞の事務局は、「他国では軽蔑される奇人、変人を、日本は誇る文化があるのでは」と分析しているそうだ。こだわる人に対する周囲の理解があるからこそ、こだわり文化が継承されるのかもしれない。
この日本発「こだわり」が、ビジネスでも花開く素地が整った。特に中小企業が「こだわり」のものづくりをしている場合、これまではOEM供給のコスト圧力にさらされて、汲々とする場合が多かった。しかし、ネットにより顧客開拓のコストが急激に下がり、場合によっては消費者まで直接届けるDirect-to-Consumerも可能になったことで、新しい販路を見出す会社が増えている。
例えば、奈良の靴下メーカーニット・ウィンは、OEM供給に加え2017年から自社ブランドで海外市場を開拓している。新旧の機械を活かしたこだわりの品質が評判をよび、海外での単価は国内の1.6倍だという。
また、浜松市のオーナー企業である鳥居食品は、先代までは業務用ソースを主力としていたものの、4年間をかけて開発した無添加ソースを14年より家庭用に売り出した。結果、売上高の1割だった家庭用をいまでは7割まで伸ばしている。生野菜を自社でカットし、煮込むという手間暇をかけた「こだわり」が評価されたケースだ。
共通しているのは、販路の開拓だけではない。国内でも海外でも、消費者の目が肥えて、プレミアムを払ってでも自分の「こだわり」を満たしたい層が受け皿になっていることが背景だ。このような消費者がSNSで情報を拡散することにより、「こだわり」が勝手に伝播してくれる。
もともと「こだわり」の意味合いには両面性がある。否定的に捉えれば、無駄に高コスト。肯定的に捉えれば、高付加価値だ。結局「誰にとって」という枕詞をつけることにより、どちらの意味が強く出てくるかが異なる。
消費者の成熟と情報の容易な拡散という時代の特性を利用し、「分かってくれるあなた」を見つけることで、こだわりを高付加価値に変換する。その視点こそが、日本の特徴を強さに変えるだろう。