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新しい「あたりまえ」がたくさん必要

エスカレーターの合意形成

タイトル画像がエスカレーターなのですが、なんで?と思われたかたも多いかと。転倒事故防止のために、エスカレーターでは歩かず止まって利用すべきという条例を来年10月めどに制定しようという名古屋市の動きがニュースになったことを覚えているみなさんも多いかもしれません。現実にはエスカレーターで歩いてもいいと思う人と、やはり事故防止が大事だと思う人は、それぞれいるんじゃないかと思います。エスカレーターでいえば、止まる人が右側に寄るべきか、左側に寄るべきかの議論もありますよね。関東は左側によるけど、関西は反対なんて地域による違いもあったりします。いろんな議論がある中で、円滑に朝の忙しい時間を皆さんが気持ちよくエスカレーターを利用でき、事故がないようにするために、それを社会的なモラルとして定着させる方法もあるし、今回のニュースは強制力を伴う条例でルール化をするケースが取り上げられたということでしょう。いずれにしろ、異なる意見のあるなかで、それなりに多くの人たちが納得いくであろう着地点を見出すのが「合意形成」と言われるプロセスです。

「合意形成」がPRの仕事なんです

ところで、この「合意形成」をお仕事にしているのがPRパーソンです。PRパーソンと聞くと多くの皆さんは、企業の情報をメディアに、記者会見やプレスリリースの形で提供し、それを記事化・番組化してもらう、いわゆる「パブリシティ」という活動をしている人だと思うかもしれません。もちろん、PRパーソンにとって「パブリシティ」は大事な仕事の一つではありますが、それはPRパーソンにとっての手段の一つであって、PRの仕事というは、世の中における「合意形成」をする仕事なんです。たとえば、社会的な合意形成であれば、子育ては女性がやるのがあたりまえだった昭和の時代のの既成概念に対して、いやいや男性も育児参加すべきであるという「男女共同参画」というような新しい概念を発信し、世の中に定着させる。つまり子育てに関して新しい「合意を形成する」動きをより円滑に効果的に進める仕事を担うのがPRパーソンの仕事です。

マーケティングPRでいえば、キャンプというものは今までワイルドなのがいいよねという既成概念だったのに対して、キャンプもラグジュアリーな体験でいいじゃないという新しい「グランピング」という概念を広げたり、朝は通勤や通学のための準備でいそがしい時間だと多くの人が思っているところに、いやいや朝こそ勉強したり自分を高める時間でしょうという新しい「朝活」という概念を広げたりする。こんな活動も社会におけるあらたな「合意形成」と捉えられるということです。

ラグジュアリー なキャンプって概念の同意形成

二つの波が、きてます!きてます!

僕は今、世の中には二つの「合意形成」の波が来ていると思っています。

一つはデジタル化がもたらす新しい生活に関する合意形成。例えば、もう現金は使わないでこれからはキャッシュレスで買い物しようとか、会議は面着でやるのではなくてzoomでリモートで済まそうよ!というように、テクノロジーを使うことで生まれる新しいライフスタイルでこれからはやっていきましょうっていう合意ですね。ここにくっつけた日経新聞のコラム「春秋」は新しい合意形成の浸透する景色をとらえたものですね。合意の普及にもいろいろハードルもあったりするわけですが。

自動運転や、ライドシェアサービス、あるいは民泊のようなマッチングサービスもテクノロジーが生み出す新しいライフスタイルですが、ここには法律も含めて既存のルールとは異なる新しいルールが必要になってきます。ライドシェアは今までの運送業法が想定していなかった領域のルールも決めなきゃいけないし、民泊は旅館業法がカバーしない領域のルールも決めなくてはなりません。

極端な話、メタバース空間で殺人事件が起きたら、この行為は罰することができるのか?なんてこともテクノロジーの進化によって必要になってくる合意形成です。

もう一つ動きは、サステナブルな社会を求める人々の欲求が求める合意形成。例えば、新しい働き方のルールや、セクシャリティをどう扱うかの社会や職場や学校でのルールなどがこの領域ですね。地球環境を守るために、どんな生活がのぞましいかという議論も新しい合意形成を必要としています。

小学校の健康診断で上半身裸になるのは昭和時代にあたりまえだとみんなが思っていたわけですが、今の世の中ではあたりまえじゃなくなってきている。そのためにはこんな形で今後は健康診断を進めましょうというなんらかの「合意形成」が必要になってきているわけですね。ブラック校則をどうするかという問題もまさにこれ!

PublicRelationsの複数形のsってのがとても大事!

いわずもがなPRというのはPublic Relationsの略です。大事なのはrelationが複数形になっていることだと僕はずっと話してきました。企業なりNPOなり政府なり自治体なりなんらかの行動主体がなんらかの活動をしていく上で、さまざまな関係先、ステークホルダーといいますね、とよりよい関係性、よりよい理解をつくっていくという基本思想がPRにはあります。

マーケティング活動の中心が主に消費者と、その周辺であるポテンシャルのある購買が期待される層に注力されるのに対して、PRパーソンは企業が直接関係する消費者だけでなく(これが自治体だと行政サービスをうける市民だけでなくってことですね)、株主、行政、学会、NPO、近隣住民など事業を進める上で関係する様々なステークホルダーとの関係性を考えていかなければなりません。

この複数の関係を同時に考えていかなければならないのがPRパーソンの辛いところでもあり、仕事の醍醐味でもあります。だから、Public Relationsは複数形なんです。

この複数の、かつそれぞれ立ち位置やバックグラウンド、そして思惑の異なるステークホルダーとの関係性を考える仕事こそが、利害関係や考え方が異なる人たちがいる中で、「合意形成」を生み出す技術を生み出してきたわけです。

マーケティングは消費者中心で考えるけど、
PRはいろんなステークホルダーについて考えなきゃいけない

あ、でもこの記事はPRパーソンのポジショントーク的に書いているわけじゃないんです。そういうPR的発想がいま、課題解決をやってる人にとって大事だなということがいいたいんです。

スタートアップの経営者は自分の技術が最高だと思っているけど、実際それが市場に受け入れられるかと言うとなかなかうまくいかないこともあります。前回も書きましたが、PRがアメリカで広まった一つの理由は、鉄道の利便性を人々に伝えたから。後の歴史が鉄道は便利だと証明したとしても、新しい技術を恐る人たちがいたわけです。鉄道を使うという一つのライフスタイルを定着するために、「合意形成」をうながすことが必要だったんですね。事業変革やサステナブルな社会への変革が求められる今、担当者には多分にこのPRパーソン的な思考が必要とされるのではと思うのです。

例えば民泊に対して、「隣に見も知らずの人が、知らない間に泊まっているのは怖い」という反応をする人が出てくるのは、まったくもってその通りだと思うのです。そういう、感情を抱く人もいる中で、民泊の価値を評価するファクトを積み上げ、説明しくのがPRの仕事だったはずです。

エンパシーを意識してみよう

僕はPRパーソンのこのスキルは「エンパシー」なんだと思うんです。

シンパシーとエンパシーはともに、「共感」というように訳されますが、シンパシーはどっちかといえば、表現や感情にちかい共感。

エンパシーは感情ではなく能力、スキルなんですよね。価値観やバックグラウンドが異なる人とどう手を握れるか考えて着地をする力とえいやと言い切ってしまってもいいかもしれません。それって、まさに「合意形成」で必要とされるスキルそのもので、PRパーソンが本来持つべきコンピタンシーですよね。

自分が推したい商品、サービス、テクノロジー、あるいは新しい考え方(男女共同参画とか)について、いいところをアピールするマーケティングや広告はとても大事。同時に、そのモノやサービスや概念について、どうかな?って疑問を持つ相手に対して、どう握れるところを作れるのかが、合意形成ラッシュ時代に、事業・サービス開発をしたり、課題解決を進める人にとって重要なことになるなと考えている今日この頃です。


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