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中国台頭を受け入れることは、中国台頭の結果を受け入れることと同義ではない

中国の台頭は必然である。

おそらく多くの人にとってそのような議論に、それほど違和感はないのではないでしょうか。

そもそも13億という世界最大の人口を擁し、世界でも最も古い文明の一つであり、19世紀の西洋の帝国主義の時代に至るまでは最も進んだ文化や技術を有していた中国。その中国が、現代の世界でアメリカと並ぶ大国となっていること自体は、ある程度予測できたことだろうと思います。

この『フィナンシャル・タイムズ』のジャナン・ガネシュ氏のコラムが論じていないのは、中国台頭の結果として現在の世界がどのようになっているか、ということだろうと思います。中国台頭をめぐる賛否を論じるよりも重要なのは、中国台頭の結果として現代の世界がどうなっているかを論じることだろうと思います。もしも中国台頭によって、世界がよりよくなっていたら、アメリカを含む国際社会は、中国台頭についてより楽観的であり、より好意的であったはず。そうはならなかったことが問題だということを、ここでは十分に論じられないのではないか。

いわば、中国が国力を増大させるという「量的な問題」ではなくて、中国がどのように国力を増大させ、その国力をどのように用いるかという「質的な問題」こそが重要なはずです。

たとえば、20世紀にわれわれは、アメリカの台頭を目撃しました。1933年以降、ナチス・ドイツが権力を掌握してから、世界がファシズムの暴力と、人種主義的なイデオロギーに基づいたホロコーストの恐怖に覆われようとしたときに、アメリカはその国力を用いてナチスに対抗した。そしてヒトラーを打倒して、自由と民主主義に基づく秩序を世界にもたらした。さらには、戦後世界で、マーシャル・プランによる欧州復興と、対日占領に基づく日本復興のために一定の貢献をした。

われわれは20世紀の歴史を学んだことによって、アメリカがその巨大な欠点や問題や、悪徳にも拘わらず、より多くの善をもたらしたことを知っています。だからこそ、どれだけ批判に溢れていても、日本も西欧諸国も、オーストラリアも、フィリピンも、アメリカとの同盟関係を否定することなく、現在でもアメリカとの友好的な関係を維持しています。

他方で、中国はその巨大な国力をもとに、国際条約を否定して香港の自由や自治を否定して、権力に基づく抑圧を実行し、また新疆ウイグルでは深刻な人権侵害を続けている。さらには、台湾、尖閣諸島、南シナ海の島嶼など、係争的な領土や地域をめぐり、平和的な解決ではなくて、その圧倒的な軍事力をもとに圧力と威嚇を増大させている。経済的な慣行としても、知的所有権の侵害や、サイバー攻撃による産業情報の奪取、いわゆる「債務の罠」など、国際経済秩序の安定と考える上でのいくつもの懸念を払拭できないでいる。

すなわち、この間の世界経済の成長への中国の貢献や、途上国に対する中国の対外援助や、技術移転、平和維持活動など、多くの中国による善行を考慮に入れながらも、国際社会はよりいっそう中国に対する批判、疑念、不満を増大させている。問題なのは、中国が台頭したというその事実ではなくて、中国台頭がよりいっそう中国政府を傲慢にさせて、よりいっそう権力政治的にさせて、よりいっそう権威主義的にさせていることであり、それが中国国内を越えて国外に伝播していることである。これは想定していなかったことではないでしょうか。

パワー・ポリティクスの観点から、中国がより大きなパワーを持つことが自明だとしても、その結果としてロシアを除く世界の主要国が中国に敵対的ないしは批判的となり、国際社会で孤立する結果となることは、戦略論的に拙劣であることは、著名なアメリカの戦略理論家のエドワード・ルトワックが繰り返し批判している点です。

ただし、問題は、外部からの力により中国の変革を促すことがきわめて難しいということです。ですので、われわれはそのような中国と今後も共存していかなければいけません。われわれが好きなように、中国を外部からコントロールすることはできない。

さらによりいっそう大きな問題として、中国がそのように権力政治に傾斜して、安全保障に固執して、自己利益に執着するのは、過去二世紀近い近現代史のなかで、中国が繰り返し欧米、さらには日本の権力政治や侵略に苦しめられて、暴力に晒されて、自国の一体性や安全、繁栄を維持できなかったという反省のうえに立っていることです。そのような近現代史の経験と教訓に基づいて、過剰に権力政治や自国中心主義に陥ったとしてもそれほど不思議なことではないのかも知れません。

確かに、国際社会、とりわけアメリカが中国台頭を押さえつけることはできなかったと思いますし、それが望ましいことでもなかったと思います。ただしそのことは、どのようなかたちで中国が台頭するかという議論を回避するべきだという結論には至らないはずです。中国は、自らの巨大な市場を背景にして、日本やアメリカ、欧州諸国の経済的な利己主義につけいるかたちで、自らの政治権力の正統性や、国内政治における不干渉主義を正当化してきました。

もしも、冷戦後の30年間で、国際社会が結束して、中国が台頭する方向性についてのより広範なコンセンサスを有していれば、その結果には少なからぬ違いがあったかも知れません。なぜならば、より国際協調主義的で、より平和的で、より安定的な中国は、中国自らにとっての利益にもなったはずだからです。


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