強い賃金上昇圧力が金融政策にも影響
ユーロ圏では、経済環境が悪化しているにもかかわらず、賃金上昇圧力は引き続き強くなる可能性が大きい。実質所得の低下とインフレ期待の上昇、労働力不足が融合し、企業には従業員の賃金引き上げを迫る圧力がかかり続けることになろう。
とはいえ、賃金・物価スパイラルが進むばかりではない。これまでの賃金交渉では賃上げよりも一時金支給が選好される傾向が見られる。通常、ECBの妥結賃金データから除外されるものであること、今後景気が減速すると労働市場のひっ迫がやや緩和される可能性が大きいこと、さらに、需要が弱まる中、賃金上昇分のパススルーがさほど進まない可能性もある。
しかし、その一時金支給についても、団体交渉で妥結されたものについてはECBデータに含まれる。国別にみた上昇率は平均2%前後と比較的低い水準にとどまっているものの、賃金が一貫して上昇基調にあることは言えるであろう。妥結賃金が実際のインフレ率へ転嫁するのが9か月程かかるとも言われており、インフレ率の上昇要因となる。さらに、スペインで見られるようなインフレ率に応じて給与が自動的に変動する物価連動条項が組み込まれるケースが増えると、高止まりするインフレから賃金への直接的な波及が一段と加速し、それがインフレ率を押し上げる動きを強めることになる。賃金からインフレへのパススルー効果は高インフレ環境で一段と強くなる傾向が見られることを踏まえると、賃金・物価スパイラルのリスクを完全に排除することはできないのである。
そう考えると、景気悪化に陥るスタグフレーションの中で、持続性の強い賃金上昇は続きそうである。それが欧州の金融政策に影響することも避けようがなさそうだ。