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なぜ鉛筆は六角形で、鉛筆はこれからどんな形になるのか

文房具好きです。日経新聞にも日々進化する文房具が記事になっていますね。

今月は日用品の機能やデザインがどう進化しているのかについてちょっと考えてみたいと思います。

「あたりまえ」は「あたりまえ」じゃなかった

ヘンリ・ペトロスキーというアメリカの土木工学専門の学者がいます。
僕は彼の書いた本を何冊か読んでいるのですが、彼は鉛筆、ゼムクリップ、フォークなど我々が毎日のように使うものが、なぜ今の形にたどり着いたのか、そんな研究の成果をまとめているんです。

鉛筆といえば多くの人が、黒鉛と粘土で作られた芯が六角形の木で包まれている形状を思いつくはず。誰もが「あたりまえ」に思いつく形がありますねよね。実際、世の中に流通している鉛筆の大半は、ヨーロッパでもアメリカでも日本でもその形状をしているわけです。

ゼムクリップも、アップルの絵文字で変換されるように、針金をトラック状に二重にループさせた形を誰もが「あたりまえ」に思いつくはずです。


1899年にコネチカット州のウィリアム・ミドルブルックがこのデザインで特許取得

ペトロスキーの本を読んで衝撃を受けたことは、その「あたりまえ」が、「あたりまえ」じゃなかったということ。

考えてみればあたりまえなんですが、六角形の鉛筆や、トラック状の二重ループのクリップの形を誰かが最初に思いつくわけではありません。

鉛筆やゼムクリップが今の形になるまでには、線や文字を書く、あるいは何枚かの紙を束ねる目的をかなえるため、今とは全く違う形状のモノから進化がありました。無数の人たちの無数のトライアル&エラーを経て、今日の「あたりまえ」の形に落ち着いたわけです。

5万年前に棒切れで粘土を削って線を描いていたのが鉛筆の起源だし、紙を束ねるクリップも最初は単なる一本の針でした。

ということは、まだまだ進化するってことだ

「フォークの歯はなぜ四本になったかー実用品の進化論」(平凡社)には様々な日用品の進化が記されています。


フォークも最初は単なる串でした。チンパンジーが木の枝を使ってアリの巣がらアリを取るように、尖った木の枝に肉刺すと食べやすいことに原始の時代の誰かが気づいたのでしょう。そしてある日、二本の串で刺した方が、食べ物を落とさないことに気づいた人が現れた。こんな進化をゆっくりゆっくりと積み重ね、四本の歯のフォークが安定して食事をしやすい道具だと収斂していったわけです。

今あるフォークのデザインに落ち着く過程においては、どんな調理をするのかというレシピの発展や、文化によって規定されてきた食事のマナーなども影響を及ぼしたはずです。


今の形のフォークは11世紀にイタリアの貴族が使い始めた

あ、でもここで気づくのです。つまり、今僕らが「あたりまえ」だと思っているフォークの形状は決して最終形のものではないんだと。そう、それはまだ進化の途中に過ぎないのです。ある日、無名の誰かが、こんな形の方がより便利じゃない? こんな形の方がより楽しくないか? なんてイノベーションを起こす可能性があると思うとなんだか楽しく思えてきました。

世の中に普及している多くのものを、「あたりまえ」のものだと思ってしまっている自分の感覚を疑わないと!

進化を型にはめてはいけない

ミッド・センチュリーの家具を代表するファイバーグラス製の椅子で知られるチャールズ・イームズは、日用品のデザインの進化についてとても興味深い考え方をしていました。

彼の孫のイームズ・デミトリオスが「イームズ入門 チャールズ&レイ・イームズのデザインの原風景」という本の中で、おじいちゃんとおばあちゃんのデザイン思想を解説しているのですが、その本からあるエピソードを紹介したいと思います。

1958年、チャールズとレイは、ネルー首相から招待を受けインドに半年滞在します。そして、インドの成長の可能性を探った「インドレポート」を提出しました。インド滞在中に彼らが注目したのがロータと言われる水瓶で、「インドレポート」もロータの話で結ばれています。


ロータは全インドで使われる日用品の代表選手

チャールズ・イームズは「ロータをデザインするためには何をすべきか」という問いを立てます。そして、水を入れる、水を運ぶ、水を貯めるなど、どのような機能が必要とされるのか、あるいは適切な水の量はどれくらいなのか、熱伝導率はどれくらいが適切なのか、どんな触感なのか、どんな見た目がいいのかなど、18個の検討すべき項目を挙げたんです。

でも、同時に彼は、こんなリストを作ってからロータをデザインした人はいないわけで、このリストが最初にあったとしても素敵なロータが生まれるわけではないと言ったのです。

うん、わかる。検品のためのチェックボックスには役に立つかもしれないけれど、世の中にある優れたものは、そんな項目を意図して作られたと言うよりは、長い時間の中で、日々無数の選択を経て今の形に落ち着いたんです。まさに、ペトロスキーのいう進化を経て誰もが満足する形に進化していったんですね。

今日新しく生まれた文房具たちも市井の無数のユーザーたちの選択という荒波にこれから揉まれて進化していくんですね。

チャールズ・イームズは、理論的な枠組みより、日々の実践の中にデザインの進化が生まれる機会があるという思想で、今でも世界中で愛され続けている家具を作りだしました。ついついなんでも型化してその通りに考えれば、同じようないいものが生まれると思ってしまうけど、そう簡単にいくわけがありませんね。


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