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「転勤」と「転勤無し」のあいだに。

転勤は必要なのか?

コロナ禍でDXが加速し、離れた場所ともリアルタイムにリモート会議が定着した中、「転勤は必要なのか?」という議論がある。まず、自分自身を振り返って、転勤の必要性を考えていきたい。
私は、大学を卒業して新卒でリクルートに入社した。いわゆる総合職なので、転勤含みである。独立起業するまで18年3か月会社員として勤めたが、ずっと新規事業企画・事業開発畑だった。むろん、この仕事が好きだというのもあったが、「転勤したくない」という動機も1つだった。新規事業企画や事業開発の職種は、東京勤務しかなかったのだ。つまり、この仕事に就いている限りは、転勤はない。なぜ私は転勤したくなかったのか?
それは仕事とは別の、自分の女性としての人生・ライフイベントにマイナスだと考えていたからだ。

女性のライフイベントと転勤

日本では、会社から転勤を命じられたら、原則として拒否できないし、何年になるか明確に明示されない(諸先輩方の実績をみて、だいたい2-3年かな、といった目安をつけることはできるが…)そして、一度転勤をすると、その後も、当たり前のように転勤が行われ、単身赴任に対しては手当や補助が出る、といった状況がある。私の勤めていた企業も例外ではなかったと思う。暗黙知ではあったが、「転勤できるか・できないか」は、雇用側の「(従業員の)使いやすさ・使いにくさ」につながり、まるで出世の踏み絵のように使われてきた、という側面もあったように思う。
これに対して、特に女性のライフイベントとは相性が悪いのだ。昔は結婚や出産、子育てといったライフイベントを機に退職した女性も多かったであろう。そのため転勤問題は顕在化しにくかったかもしれない。(既に退職してしまっている女性社員に転勤を命じようもない)
しかし最近は、結婚・出産を経ても働き続ける女性が増加し、M字カーブは解消しつつある。だからこそ、転勤が大きな壁になるのだ。

勝手に私が20代~30代女性の胸の内を想像し、転勤の内示をもらった直後の心の叫びを書いてみよう。
・転勤か…!いや、まぁ気軽な独り身だからいいんだけど、地方って出会いあるのか?都市ですらないのに?私、結婚できる?仮に相手が見つかったとして、私が戻ってくるときどうなるの?
・転勤か…!婚約者とそろそろ結婚の予定があるが、どうしよう?いきなり別居婚?まさか、彼は仕事やめて付いてきてくれるなんてことはないよね?
・転勤か…!子供の出産・教育、どうしよう?!転勤先では保育園に入れるかな?第2子は無理かな?
・転勤か…!子供が小学校にあがってマンションも買ったばかりなのに。いきなり転校なんて、可哀そうだよねえ。でも私だけ単身赴任って、子育てはどうする?
・転勤か…!と思ったら、旦那も転勤内示ですと…?!ダブル転勤って、どうすればいいのか…!

などなど。
出産・育児を男性より女性が支えがちな実態から鑑みると、女性の方がより影響が大きいと思われるが、男性社員の人生にとっても転勤は大きな変化だ。管理職を対象に「転勤回避権」を導入し、最長6年間は転勤を回避できる制度を導入すると発表した企業もある。

転勤にメリットはあるのか?

ここまで社員にとって転勤が忌み嫌われている側面ばかり書いてしまったが、働く側にとっての転勤メリットについて考えてみたい。先に書いたように私は転勤を経験せずに会社員人生を終えてしまった。しかし、「営業職も、転勤も、経験しておけばよかった。」と思うことは1度や2度ではない。同期入社の仲間で地方転勤を経験した者は皆、口をそろえて「地方勤務はとても楽しかった」と言っていた。その理由は以下のようなものである。
・地方拠点は東京本社よりも事業の規模が小さく、職種同士の距離が近い。セクショナリズムは発生しにくく、営業や編集、企画のメンバーが近い距離で相談しながら仕事を進めていける。
・地方拠点は事業規模がこぢんまりしていて、特に新人時代は事業構造の全体を把握しやすい。東京本社に戻ると分業が進んでおり、業務の全体像が見えにくい。
・地方拠点は会社内だけではなく市場となる地域規模も小さいため、人間関係が構築しやすく地域密着で温かい人間関係の中で仕事がしやすい。
などがあった。簡単にいえば「アットホームで温かい」「全体像が把握しやすく、自身の成長を感じられ、コミュニケーションも密で仕事が進めやすい」ということらしい。東京本社に戻った同期曰く「東京は冷たく、部署ごとの壁も高い」そうだ。
あくまで私の経験を元に書いたが、多様なキャリア形成の側面で、どの会社でも転勤には従業員個人のメリットもあるのではないだろうか。

今後は「転勤と転勤なしのあいだ」の多様化

リモートワークも定着し、ワーケーションという働き方も登場した今、今後は、「転勤」と「転勤なし」の間のスタイルが多様化していくのではないかと思う。実際に、WAmazingではコロナ禍以降、フルリモートワークに移行したため、今まで通勤を前提に関東近郊からしか採用できていなかった正社員採用について、日本全国からの採用に切り替えた。沖縄県、福岡県、新潟県に住んだままリモート勤務の正社員がどんどん増えている。海外居住者も対象にしたいところだが、その国に精通した社労士さんとの契約も必要になるので、まだ実現できていない。必要があるときは、上京して東京での研修や会議なども実施している。地方居住でも、東京在住と比べて待遇の差などはない。雇用する側の立場からしても人材難の今、優秀人材を全国各地から採用できるのはありがたいことだ。WAmazingは、旅行の会社だから、日本各地の魅力を社員が知ることにも意味がある。短期的な転勤というスタイルも今後、実施してみたい。コロナ禍を受けて、経費節減も兼ねてオフィスを全退去しフルリモートワークに移行したので、今後は「日本全国 旅する会社」というのも面白いと思う。従業員ではなく、会社自体が転勤する形だ。

上記コラムが日経産業新聞に掲載された後、日本各地の自治体から「ぜひ、我が町へ」という引き合いをいただいた。

「東京に本社があり、オフィスがある」…当たり前だと思いこんでいたものを手放してみると新しいアイデアも湧くし新たなスタイルも手に入れられるのかもしれない。


#日経COMEMO #転勤は本当に必要か

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