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グローバル化とダイバーシティの「必然」を考える

第23回日経フォーラム世界経営者会議で、武田薬品工業—クリストフ・ウェバー社長兼CEOと資生堂—魚谷雅彦社長の対談に接する機会を得た。どちらも、日本を代表する「日本発グローバル企業」として知られる。

「グローバル企業」とは、実は厄介な言葉だ。海外売上比率が一定以上であれば、自動的にグローバル企業と認定されるわけではない。では、何が本当のグローバル企業を定義するのだろうか?魚谷社長から「今までのグローバル化は日本で作って世界で売る」だったというコメントがあった。これが「世界で作って世界へ売る」に変わると、真のグローバル企業という説だ。

もう少し詳しく見ると、日本企業のグローバル化には3段階があると考えられる。まず、確かに伝統的な輸出モデルがある。まさに「日本で作って世界で売る」。しかし、製造業が海外へ生産を移すにしたがい、この「グローバル化1.0」モデルは退潮気味だ。

その次に来るグローバル化の形態は、日本を中心とするハブ&スポークモデルだ。輸出モデルで関係を培った現地代理店を買収する場合もあるし、海外支社を立ち上げるケースも多いだろう。いずれにせよ、絶対的なハブの存在がこのモデルの特徴で、司令塔は日本の本社であることが前提だ。海外の要職は駐在員が勤め、日本との連携を保証する。ひと昔まで、総合商社もこの「グローバル化2.0」モデルが主流だった。輸出モデルからハブ&スポークモデルへは、比較的スムースに移ることができる。

ところが、2010年代以降、ハブ&スポークモデルでは立ち行かない、「不都合な真実」が見えてきた。世界が変わる速度に対して意思決定が遅すぎる、日本人の常識では海外の事情を、判断はおろか掌握さえしきれない、などだ。この課題に対処するには、思い切った手術が必要になる。日本にこだわることが問題の根源ならば、ハブをなくして世界各拠点をつなぐネットワークモデルへ切り替えるという判断が正しい場合がある。このとき、世界本社は日本以外にする覚悟が必要だ。「グローバル化3.0」だ。

荒療治が伴うこの転換が出来ている企業は、まだ少ない。日本が出自のまま、日本が世界の一市場になることに心理的障壁は大きいし、日本人幹部を中心とする意思決定で「脱・日本」が生まれることは難しいことは想像に難くない。日本中心の見方を、安倍元首相風に言えば「地球儀を俯瞰する」見方に変えなければいけない―天動説が地動説になるような大きな転換だ。

しかし、日本たばこ産業が日本を含める世界のたばこ事業の統括をジュネーブに集結する決断をしたように、日本企業でも「グローバル化3.0」の動きは出てきている。例えば、R&Dを世界体制に移した武田製薬もこのモデルの一例と言える。

さて、グローバル化3.0を行うためには、本社機能の移転のみならず、会社を動かすハードとソフト両方の仕組みを変える必要がある。人材に関して言えば、日本人用の王道キャリアコースとそれ以外の「お手伝いさん」コースといった併用は、もはや通用しない。世界中から適材適所で優秀な人材を育て、配置するためには、必然的にフレキシブルな人事インフラが求められる。結果、幹部を含めて国籍、出自、性別などが多様性に富んだ組織が出来上がる。現在、武田薬品工業では、役員の40%が女性、国籍は10に上るという。

このように考えれば、グローバル化3.0という文脈では、多様性は必然の結果だ。ウェバー社長が「多様性は企業の存続に欠かせない」というコメントをされていたが、それは、「海外で成長する日本企業は、世界を俯瞰するネットワーク型のオペレーションに切り替えなければならない。このモデルをうまく運営するために、多様性は必要条件だ」と言い換えることができるのではないか?

魚谷社長の言及にあった通り、日本では多様性がジェンダー軸で語られることが多い。さらに、コーポレートガバナンスの文脈が強調されすぎたためか、ときには「女性役員が1-2名いればいいんでしょ」というやらされ感まで感じられる。

しかし、成長のために真のグローバル化を目指すならば、幅広い軸での多様性が必要なことは明らかだ。「日本中心」の天動説から「世界を俯瞰する」地動説へ、コペルニクス的な頭の転換ができるかどうかで、ダイバーシティ腹落ちの度合は、まったく違うものになる。

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