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運用が難しい?アルツハイマー病の新薬が直面する「検査の倫理」問題

6月8日の日経新聞の記事で、興味深いものがあったのでご紹介させてください。2023年9月に日本でも承認され、注目が集まるアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」に関連する報道です。

記事で注目しているのは、APOE4という遺伝子です。この遺伝子を両親から受け継ぐ(ホモ接合体)と、アルツハイマー病の発症リスクがおよそ10倍、片親だけから受け継ぐ(ヘテロ接合体)でも3~4倍になるともいわれているとしています。

実はこのこと自体は、以前から知られていました。改めていま話題になっているのが、冒頭の「レカネマブ」との関係性です。

実はレカネマブは、このAPOE4ホモ接合体を持つ人に対して使うと、非常に副作用が出やすいことが分かっています。そこで米FDAは、レカネマブを使う場合、APOE4の検査を行うことを推奨しています。

ただ、ここで話を複雑にするのは、APOE4ホモ接合体を持つ人には、レカネマブは「効きにくい」傾向があるのではないか、という指摘がされているということです。

「アルツハイマー病の進行を抑えるという新薬が、アルツハイマー病になりやすい人には副作用が強く、しかも効きにくいかもしれない」というのは、なんだか意外な気がします。
しかし、薬とは体の複雑なバランスの中で働くものなので、往々にしてこういう事態も起きえます。

レカネマブはまだ多くの人に使われて時間がたっていない薬なので、今後もいろいろなことが分かるかもしれませんし、いま言われていることも後から違っていたということが分かるかもしれません。

検査の「倫理面の課題」をどうする

さて、ここで改めて考えてみます。
アルツハイマー病になる、もしくはリスクが高い人の中には、APOE4遺伝子ホモ接合体を持つ人が少なからず存在します(記事内では、日本人の「200人に1~2人」が持っているとされています)。

この人たちは薬を使うと副作用のリスクが大きく、もしかすると効果も出にくいので、使わないほうが良い、と言われるかもしれません。

しかし検査を受けた側からすると、たまったものではありません。「あなたは今後、アルツハイマー病になるリスクは高いけれど、薬は使えないよ」と言われてしまうからです。薬を使うために検査を受けた側としては、リスクだけを伝えられて何も手は打たれない、というのは理不尽な気がしますね。

この薬の利用を希望する人に対して、APOE4検査を行う場合は、こうした「知ることにメリットがない、もしくは少ないにも関わらず、知らなくて済んだことをわざわざ知らされる人のデメリットに対し、どのような手当てが出来るか」について検討される必要がありそうです。

新たな技術、特に遺伝に関わるものについては、このような倫理的な問題が付きまといます。今回の記事をきっかけに、改めて医療技術の進歩の難しい側面を感じさせられた気がしました。

#日経COMEMO

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