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余りにも遠くなってしまった世界の背中~今年2度目のマイナス成長は何故なのか~

供給制約ではなく単なる需要不足でマイナスへ
11月15日に発表された日本の7~9月期GDP統計によれば、実質成長率に関し、前期比▲0.8%、前期比年率▲3.0%と市場予想を上回る落ち込みとなりました:

マイナス成長は2四半期ぶりで、今年2度目である。7~9月期のほぼ全てを緊急事態宣言で過ごしているのだから当然ですが、後述するように海外経済との格差はあまりにも大きいものです。確かに、同期のデルタ変異株拡大やインフレ高進、供給制約などは世界的問題であり、英国や米国のGDPも7~9月期に減速しています。しかし、4~6月期を見れば英国は前期比年率+22%(前期比+5.5%)、米国は同+6.7%(同+1.7%)と極めて大きな成長でした。対する日本は前期比年率+1.5%(前期比+0.4%)です。稼いできた糊代が全く違います。需要項目別に見れば、個人消費および設備投資、すなわち民間需要の弱さが際立っています:

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緊急事態宣言は社会の人流を抑制し、消費・投資意欲の抑制を暗に企図しているのだから必然の帰結でもあります。米国では部品や商品の供給制約が景気下押し要因として指摘されていましたが、今期の日本では民間在庫投資が積み上がり、+0.3%ポイントのプラス寄与を記録しています。これは制約により不足しているのが供給ではなく需要であることを明確に示しており、世界と悩みを共有できない日本経済の実情をよく表しているように思います。なお、名目ベースでは前期比年率▲2.5%(前期比▲0.6%)と名実ともにマイナスを記録しており、名目ベースでは3四半期連続のマイナスです。

また、今回の落ち込みをもって年内にコロナ前(2019年10~12月期)の水準を回復するという政府目標の実現も絶望的になりました。実質GDPの水準に関し、今期は19年10~12月期より▲2.2%低くなっています。この差をあと1四半期(21年10~12月期)で埋めるのはもはや無理でしょう。さらに言えば、日本にとってコロナ前の水準とは19年10~12月期ではなく、消費増税前の同年7~9月期と考えるのがフェアです。これと今期を比較すれば▲4%以上低くなっています。年度内の復元も難しくなっていると言えます。

成長率の差≒防疫政策の差
 以下の図表は1~3月期から7~9月期までの3四半期に関し、日米欧三極の前期比年率の成長率を平均したものです:

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もはや彼我の差に関し、詳述の必要はないでしょう。こうした実体経済の差が先進国において精彩を欠く日本株や円のパフォーマンスの現れている可能性は高く、筆者はそれが2022年以降も続くのではないかと危惧しています。その原因に関して10月のIMF「世界経済見通し」は緊急事態宣言による行動規制と指摘しましたが、その乱発に象徴される防疫政策の不味さが図表のような日本の圧倒的な劣後に繋がったことは論を待たないと思います。デルタ変異株の感染拡大、ヒト・モノに係る供給制約、資源高などは景気の下押し要因に違いありませんが、それは世界共通の話です。2019年10月の消費増税を足枷として指摘する向きも未だにありますが、2年以上にわたって成長率を引き下げるはずがないでしょう。

行動規制(≒人流抑制)による感染防止効果の多寡について筆者は詳しい知見を持ちません。だから、その是非を論じることも控えたいと思います。しかし、少なくとも成長率の格差に関しては「新規感染者数に拘泥せずに経済を走らせた欧米」と「それに一喜一憂し続けた日本」の差異が出たのは間違いないと思います。これはファクトです。世の中には「成長が全てではない」とか「命が大事ではないのか」とか誰も反論できない薄っぺらい正論も見られますが、これほど劣後した成長の背後でどれだけの困窮者そして自殺者が増えたのかに目を向けないのはもはや偽善だと思います。

例えば、7~9月期のユーロ圏はデルタ変異株の感染拡大に見舞われたフランスやスペインという大国を抱えながら前期比年率+9.1%(前期比+2.3%)と潜在成長率の4倍以上の仕上がりを実現しています。同じ時期の日本は毎日のように新規感染者数を大々的に報じ、期中のほぼ全てを緊急事態宣言で過ごしました。期中の付加価値を積み上げた結果であるGDPに差が出るのは当然です。日本は新型コロナウイルスの犠牲が世界的にも少ない先進国ですが、こと成長率に関して言えば、基本的には欧米の後塵を拝する構図が続いてきました。その理由が防疫政策でなかった何なのでしょうか。

今冬に問われる岸田政権の真価
本稿執筆時点で東京都の実効再生産数(ある期間における1人の感染者が感染させる人数の平均値)が1を優に超えており、経験則に倣えば、恐らくここから新規感染者数は底打ちの上、増勢に転じることが予見されます。従前の為政者の立ち回りを参考にすれば、新規感染者数の増加がメディアで取りざたされ始め、これにコロナ分科会が反応の上、何らかの行動規制の必要性を訴え、政府もこれに応じるという展開が大いに想定されます。既に「7名が14名になって前週倍だ」というどこまで本気なのか分からない冗談のような報道姿勢も見られており、先が思いやられます。

第5波と呼ばれた感染拡大について、人流と感染拡大の因果が相当怪しいものになったという説もあります。しかし、「事態を放置した」と言われないためにも、引き続き新規感染者数のヘッドラインこそが防疫政策のアクセルを踏む合図になる可能性は残念ながら否めないと筆者は思います。本来、英国のようなロードマップがあればそうした一喜一憂の必要性はないはずだが、今になってもそれは存在しません。

結局、従前の対応が繰り返される懸念はどうしても残ります。第二次岸田政権下の日本経済が過去3四半期と同じ轍を踏まないで済むかどうか。ワクチンパスポートの活用や病床増強といったコロナ対策に含まれる文言に期待を寄せたいところです。分配のための高成長を遂げることができるのか。その真価は今冬に問われそうです。同じことを繰り返すばかりでは世界の背中は遠くなるばかりです。

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