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禁止令や罰することしかできない為政者は下の下

新型コロナウイルス対策として、特別措置法の改正案や感染症法の改正案が自民党の総務会で了承されたそうだ。政府は、週内にも法案を閣議決定し、今の国会で成立を図る方針とのこと。

罰則の内容は、上記日経の図表がわかりやすいが、医療機関や患者に対する罰則規定は別にして、特に問題にしたいのは、飲食店に対する罰則規定だ。緊急事態宣言下であれば、時短や休業の命令に従わない場合、50万円の過料という行政罰が課せられることになる。

百歩譲って、緊急事態宣言下ではそういうのもやむを得ないという意見もあろう。しかし、今回の改正は、緊急事態宣言じゃなくても、時短や休業の命令を出せるし、それに従わない場合罰金30万円の行政罰が課せられることだ。どういうこと?

言ってしまえば、緊急事態宣言とかいらないじゃん。という話。

以下は、NHKのニュースで報道されたことだが、

自民党の二階幹事長は、記者会見で「国民を信頼しないわけではないが、国をあげて直ちに対応するということだ。罰則でみんな縛ってしまうわけではなく『しっかりやりましょう』ということで罰則も用意するということなので、誤解のないようにしてもらいたい」

誤解?なんの誤解があるというのか?誤解しているとしたら、この二階なる老人こそ政治を誤解しているといえるだろう。昔の金丸信のような闇将軍気取りで調子に乗っているのかもしれないが、いわせていただければ、あんたは人間というものをまったく理解していない。

そもそも近世(江戸時代以降)の日本は、世界に稀な暴力的な紛争がなかった国である。まだまだ戦国のきな臭さが残っていた島原の乱までは別にすれば、それ以降幕末まで、百姓一揆は1430件あったが、そのうち武器を携行したいわゆる暴力的一揆はたったの15件しかなかった。1%しかない。

一揆の99%は、基本的にお上に対して自分達の窮状を訴え、そのお救いを求めるものだったのだ。そして、お上はその訴えを聞き入れ、救ったからこそ百姓はお上に従ったわけです。

勘違いしないでほしいのは、身分制度があったから、百姓は武士に従ったのではない。暴力で脅されていたから従ったわけではもない。武士に服従したような顔をしていたのは、あくまで表面的な話。身分の上下を甘受していたのは、そういう暗黙の利害損得関係に基づいている。

暴力的一揆が幕末以降急激に増えたのは、まさに幕府が誰も救わなくなったからだ。それは明治政府になってからも同様で、明治政府は「西洋に追いつけ」ばかり優先し、困窮する国民を振り返ろうとしなかった。だから明治が始まって以降、全国いたるところで暴力的な新政府反対一揆が続いた。明治の乱は、佐賀の乱、萩の乱、西南戦争などの士族の反乱だけではなかった。

「あれをやるな、これをやるな」と言う禁止令しか出せないのは為政者としては下の下である。ましてや、「これをやったら罰するぞ」なんて脅しをやり出したら、20世紀のどこぞの国と同じだ。為政者とは、いざという時に民を救えるか否か、だ。もちろん、救うとははした金を渡すから黙れということではない。


こうした罰則規定に対する世論調査を読売新聞が報じている。

反対が過半数。当たり前だと思う。

法律による罰則というものはある種、国による暴力行為の容認である。慎重にするのは当然である。そもそも、罰則さえつければ人は従うとでも思っているのだとしたら大きな間違いだし、こうした法律によって、警察などが強引な態度や上から目線で命令強制などしようものなら、あの日比谷焼き打ち事件の二の舞になりかねないのではと危惧する。

1905年の日比谷焼き打ち事件。あれは最初「日露戦争の条約反対」という国民大会だったのに、集まった群衆を黙らせようと警官がサーベルを抜いたことから暴動に発展した。その後、焼き打ちされたのはすべて交番や派出所である。条約反対の政治的なデモが、警察に対する恨みの暴動に転換したのがあの事件。

1/19のNHKのニュースで二階幹事長はこう言い放った。

「いちいちケチをつけるもんじゃない」

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この言葉、日比谷公園の警官のサーベル抜きと変わらないと思うんですよ。


繰り返すが、日本人がお上に従うのは別に規範や道徳によってではない。普段はともかく、いざという時は寄り添って助けてくれるという損得勘定によるもの。それなのに、いざという時に「法を守れ!守れない奴は斬る!」とか偉そうに上から目線で言われたら、今までの鬱憤が倍増して噴火するに決まっている。

誰も好き好んで暴動なんて起こさない。誰も幸せにならない。そんな暴動を起こさないようにするために、政治家の言葉はあるもんなんじゃないでしょうかねえ。

そもそも論として、飲食店への時短要請自体が大間違いなのである。

何度も言うように、「問題なのは会食であって、外食ではない」。一人で黙って食う分には、満員電車で一切クラスターが発生しないかったのと同様、何の問題もないのだ。

逆に、8時までの時短をすれば何をやってもいいのか?会食や宴会をしてしまったら、そっちの方が感染拡大につながるのは自明の理だ。

「ソロ外食」について、政府が頑なに取り上げないのは「一人で飯を食うという行動自体が想像できないお爺さんばかりだから」なのかな、とは思うが、不思議なのはメディア側すら、これを頑固に報道しない。

なぜなんですかね?


飲食店側は、何も補償金をくれと言いたいのではない。どうすれば店を開ける許可が出るのか、それを示してくれと言っているのです。彼らや店の従業員だけの話ではなく、そこに納入する業者や生産者も一蓮托生です。それぞれに家族や子供もいることでしょう。はした金の協力金の多寡の話ではなく、商売を続けさせてくれ、というのが彼ら全員の本音である。それがなぜわからないのだろうか。


飲食店への時短・休業罰金はこのままなら成立してしまうでしょう。僕は、この50万円の罰則自体が、今必死で店の為、従業員の為、頑張っている多くの飲食店経営者たちの最後の一縷の望みを断ち切る刃になってしまう気がしてなりません。真面目な人ほど追い詰められる。ただ美味しいご飯をみんなに食べてもらって、喜んでもらいたいだけの誠実な飲食店の人たちが苦しめられるのです。



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