見出し画像

2020年に中国が描くスマート医療の方向性と影響力

 中国では、2025年までに65歳以上の人口が3億人以上増加する見通しだが、医師の数は「人口1千人あたり1.5人」と、米国(1千人あたり2.4人)や日本(1千人あたり2.3人)」と比べても不足している。そのため、医療費を軽減しながらな診療ができるスマート医療を早期に普及させる必要があり、中国政府は規制緩和と資金提供、研究に協力する病院の仲介などをしながら、関連テクノロジーの育成を急ピッチで進めている。

具体的な目標の1つとして、2020年までには、一般的な疾患を、AIが95%以上の精度で自動診断できるようにすることを目指している。そのスピード感は、世界でも群を抜いている。

中国北京を拠点とする新興企業「PereDoc」では、レントゲンやCTの画像を自動診断するAIシステムを2017年に発表したが、既に中国内で200以上の病院に導入されている。このシステムには、CT画像1枚につき20ミリ秒、1日に 600万枚の画像を自動診断できる性能がある。たとえば、胸部の検査画像からは、腫瘍、肺炎、肺水腫、気管支炎、肋骨の骨折や損傷など、20種類以上の症状を診断することが可能だ。

北京の病院には1ヶ月に1万人以上の患者が訪れるが、AIシステムに検査画像をスキャンさせて、陽性の判定が出た患者のデータのみを医師がチェックすることで、読影作業の負担を軽減させている。

画像1

米国や日本でも、人工知能による画像診断システムは研究開発されているが、検査精度を高めるために臨床データを蓄積して、国の承認を受けるまでには長い時間がかかる。中国では人口13億人から収集できる膨大なデータ量と、規制の緩和により、実用化までの工程を短縮化できることが強みになっている。

【中国が目指す世界の遺伝子解析工場】

 中国が人工知能と並んで、スマート医療の重点項目に掲げているのが遺伝子解析の分野である。人間の体には約25,000の遺伝子があり、その中で癌の発症に関係する遺伝子は約500あると言われている。その変異を調べることが、癌の早期予防や治療に役立つ。

遺伝子検査の方法は、「DNAシーケンサー」と呼ばれる解析装置を使うが、従来は1回の検査で1つの遺伝子しか調べることができなかった。しかし、次世代型のシーケンサーでは、1度に多種類の遺伝子を調べられるようになり、体内の遺伝子情報をすべて読み取るフルゲノム分析が、近年の主流になってきている。

15年前には、ヒトのフルゲノム解析を行うのに 3,000億円以上の予算を投じる必要があったが、現在ではシーケンサー装置の進化により、1検体あたり10万円前後で解析することができる。さらに装置を高性能化させて、1検体につき数千円の費用でフルゲノム分析が行えるようになれば、数百万人、数千万人規模の遺伝子データベースを構築して、様々な治療や新薬の開発に役立てることができる。

1999年に中国の公的機関として設立された北京ゲノム研究所(BGI)は、当時最速のシーケンサー装置を、米国から大量に購入して、遺伝子解析の事業を進めてきたが、最近では、次世代シーケンサーの独自開発にも着手している。それにより、世界で最も安い遺伝子解析の受託サービスを、世界を対象に提供することを目論んでいる。

これが実現することは、製造業の分野で中国が“世界の工場”としてノウハウを築いたように、遺伝子治療の分野でも、「世界一の遺伝子データベース」を持つことを意味している。ちなみに、日本の遺伝子解析能力は中国の1/10程度しかなく、遺伝子検査の大半は海外の機関(主に中国)に発注されている。

また、一般の消費者向けにも遺伝子分析サービスも身近な存在となっており、10年前と比べると検査にかかる費用は100分の1以下に下がっている。検査キットとして自宅に送付される綿棒で、頬の内側をこする方法で採取したDNAのサンプルを返送することで、基本的な体質診断や、ガンなど特定疾患の発症リスクを知ることができる。保険会社の中でも、この検査キットを導入する動きがあり、重病疾患の発症リスクが低い保険加入者に対しては、保険料の設定を安くするプランも、今後は登場してくるかもしれない。

AIによるスマート医療の進化は、人材不足に陥っている医療の現場で即戦力となる高度な働きをする一方で、、個人情報(医療情報)が患者本人の知らないうちに、中国側のデータベースに蓄積されていく懸念も指摘されている。

■関連情報
学習効果を高めて医療ミスを軽減するAIロボット
医業現場で求められるメディカルAIエージェントの役割
単純作業をロボット化するデジタルレイバー導入モデル
健康関連ビジネス事例集テクノロジー4.0のビジネスモデル

JNEWSはネット草創期の1996年から、海外・国内のビジネス事例を精力的に取材、会員向けレポート(JNEWS LETTER)として配信しています。また、JNEWS会員読者には、副業ビジネスの立ち上げ、独立起業までの相談サポートも行っています。詳細は公式サイトをご覧ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?