2022年のアニメイベントの行方をドイツから考える
ドイツで日本マンガの翻訳出版を手掛ける出版社Tokyopopはこのほど、3月に開催されるマンガ・コミック・コンベンション(MCC)への出展中止を発表しました。
ドイツのアニメ・漫画ファンにとってライプツィヒ書籍見本市と併催されるMCCは例年10万人近く(のべ)の参加者を集め、1年のイベントシーズンの幕開けにも位置づけられる大事なイベントです。
2022年の最初の投稿ということもあり、ドイツのアニメ漫画ファンが集まるイベントの動向を展望してみます。海外の他の国のアニメイベントや他の業界のイベントについて考えるヒントになればと思います。
現状の整理(国内の状況と渡航制限)
コロナ禍も3年目に突入したということもあり、世界各地でワクチン接種を条件にするなど感染予防対策を実施ながらですがイベントは再開しつつあります。
日本国内でもイベントは徐々にですがリアル開催が復活しつつあります。年末には「コミックマーケット」(コミケ)も開催されましたし、3月にはアニメ業界の大型イベント「アニメジャパン2022」もリアル開催を予定しています。
一方で、日本から国外のイベントに個人として参加、または企業として出展する場合の大きな足かせとなっているのは、帰国時の隔離期間などを定めた水際対策ではないでしょうか。といっても、世界的には緩和の傾向があるとされ、少なくとも現在の感染の波もいずれはピークアウトすることを考えると、春の終わりから初夏にかけては渡航制限が現実的なレベルまで緩和される可能性もありえるのではと筆者は見ています。日経新聞では先日、各国の水際対策をまとめた記事がありました。
さて、話しをドイツに戻しましょう。コロナ前のドイツではアニメ・漫画ファンが集まる大型イベント(数千人から数万人規模)は、ほぼ毎月どこかの都市で開催されていました。そして、コロナ前では各イベントの違いはわかりにくい部分もありましたが、コロナ禍で見えてきた対応の違いもあります。そのあたりも含めて紹介してみたいと思います。
<マンガ・コミック・コンベンション>(ライプツィヒ)
ドイツの書籍見本市といえば秋のフランクフルトと春のライプツィヒです。そのライプツィヒ書籍見本市との併催で実施されるのが冒頭でも触れたMCCです。2020年3月のMCCは、直近まで開催が検討されるも急遽中止になり、行き場を失った一部の来場者たちが付近の公園に集まり小規模なイベントを開催し批判されるなど、その後の混乱と動揺を印象づけたイベントでもあります。2021年3月に1年ぶりに開催を目指しましたが再びの断念。このときは出展/出店の申込みが殺到していたといった情報も漏れ聞こえてきましたが、2022年は冒頭の出版社Tokyopopの出展見合わせに見られるように、ブースの販売は伸び悩んでいるのかもしれません。(開催日程:3月17日~20日、公式サイト)
<ドコミ>(デュッセルドルフ)
コロナ禍にあって一度もリアル開催を中止していないのがドコミです。ステージ、パネル発表、各種ブースが立ち並ぶエリアで構成されるいわゆるアニメコンベンションとして欧州屈指の規模を誇るイベントです。
筆者も何度も取り上げているドコミですが、日本の国際オタクイベント協会は『オタクイベントカタログ2021』でドコミの主催者にインタビューを実施し、リアル開催を可能にした手法に迫っています。
コロナ禍のドコミの対応で特に注目するべき点は、オンラインイベントとなるデジタル版ドコミ「ディギコミ」の開催です。昨今メタバースが注目されていますが、「VRChat」などの仮想空間プラットフォームを取り入れ、オンラインの大型トレンドでもあるVtuberにフォーカスしました。そしてさらにリアル開催されたドコミでのVtuberのキャスティングにつなげ、一連の活動は、コロナ禍で逆に成長したリアルイベントという稀有な例としてもっと認知されるべきでしょう。(開催日程:6月4日、5日、公式サイト)
(参考:VTuber・小鳥遊キアラさんがドイツのリアルイベントに初参加 「DoKomi」現地レポート)
<アニマジック>(マンハイム)
主要なドイツのアニメ販売会社、マンガ出版社が勢揃いするのが、アニメコンベンションのアニマジックです。唯一の商業イベントと同時にイベント黎明期から続く老舗でもあります。近年はボンからマンハイムに会場を移し、約3万人を動員しています。
アニマジックの特徴はなんといっても、日本から大量に招待されるアニメ・漫画業界のクリエーターの面々です。アニメスタジオが監督、アニメーター、歌手等々を引き連れて作品をプロモーションする場でもあります。
ファンにとっても現場の生の声が聞ける注目のイベントですが、コロナ禍による渡航制限は大きな足かせになっていると思われます。過去2年は中止、今年は開催予定ですが、渡航制限の内容次第では日本からの名誉ゲストが参加できず開催しても魅力に欠ける可能性があります。(開催日程:8月5日~7日、公式サイト)
<コンニチ>(カッセル)
アニマジックと並ぶ老舗イベントのひとつですが、こちらは有志による非営利の運営です。2020年と2021年はオンライン開催で乗り切ったわけですが、デジタルイベントの開発に注力したドコミと比べると盛り上がり感には欠ける内容でした。両年とも早々にリアル開催の中止を決定したあたりも、開催への熱意が伝わりにくいと言わざる得ないでしょう。もちろん、リスクを考慮した大人な対応だと評価もできます。
ただ、原因を考えていて気になったのは「有志による非営利の運営」という点が影響しているのではないかということです。つまり、実行委員会の人たちは別に本業があったりするわけです。そういったなかで生きがいのためのボランティア活動の優先順位が下がり、新しい企画を立ち上げるような熱意も高まりにくい環境があるのかもしれません。
その意味で2020年9月は象徴的でもありました。当月開催のコンニチは中止された一方で、5月から延期されたドコミは同月に開催にこぎつけています。(開催日程:10月7日~9日、公式サイト)
「ドイツ」の「アニメイベント」ですら多種多様
以上、ドイツのアニメイベントをいくつか見てきました。アニメイベントにもいろいろな違いがある点が少しでも伝わればと思います。コロナ禍の対応も3年目です。
MCC、アニマジック、コンニチは2年ぶりのリアル開催に臨むわけですが、過去2回実施しなかったことによる人員の流出以上に感染予防対策も初の実施となります。うまく機能させることができるのか未知の分野になってしまうわけですが、一度も中止しなかったドコミはすでに2回経験しているわけです。感染予防対策の実施経験の有無も今年は多かれ少なかれ運営上の懸念事項になりそうです。
ドイツのアニメイベントという狭い分野の事例ですが、世界的にイベントが再開しつつある今、特定の国の特定のイベントに注目した場合、重点分野の違いも大事ですが、それを踏まえてコロナ禍にどう対応してきたのかといった点も考慮したほうがよいのかもしれません。
以上、これから海外のイベントに参加/出展を検討されている方の参考になれば幸いです。
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タイトル画像:ドコミのクリエーターブースのエリア。盛況に見えますが、通路は広く取られ、参加者同士の間隔も十分に確保されています。(2021年筆者撮影。)