遺品整理のゴミ問題とエステートセール市場の開拓
日本国内では、65歳以上の高齢者単身と夫婦のみの世帯が1500万世帯以上あり、20年前との比較では約2倍に増えている。これらの世帯は、将来的に家主が居なくなる可能性が高く、生前整理や遺品整理の市場が今後は急成長していくことは間違いない。
遺品整理の市場には、廃棄物処理業、ハウスクリーニング、リサイクルショップ、引越運送業、便利屋などが参入しているが、法律による直接的な規制は無いため個人の起業者にとっても新規開業がしやすい業界になっている。終活としての生前整理や、相続人による遺品整理はメンタル面でも負担が重い作業となるため、専門業者によるサポートが求められている分野だ。
遺品整理の料金体系は、片付けの作業料+ゴミの処分代がベースとなり、そこからリユースが可能な物品の買い取り額を減額して請求する方式だ。ブックオフが、2022年5月から新規事業として展開している、遺品整理の「ブックオフおかたづけサービス」による、一般的な戸建住宅のモデルケースでは、1軒あたりの片付けにかかる総費用が47万円、そこからリユース可能品の買い取り額として4万円を差し引いた、43万円が請求額となっている。
日本の遺品整理では、故人が残した家財道具のうち、数万円以上の価値で売却できるモノは、ほんの一部に過ぎず、タダ同然でリサイクルショップに引き取られるか、ゴミとして廃棄されているのが実態である。しかも、家庭から出るゴミの搬送するには、一般廃棄物収集運搬業の許可が必要になるが、国内の自治体では、新規の許可をほとんど出していない。そのため、遺品ゴミの廃棄費用は1件あたりで10~20万円近くかかっている。
この問題を解決するには、故人の遺品を「捨てる」のではなく、できるだけ多く売却できる仕組みを作っていく必要がある。その手本として、米国で普及しているエステートセールの仕組みが参考になる。
【米国エステートセールの仕組み】
米国で行われるエステートセール(Estate sale)は、故人の私物を売却するガレージセールのことを指し、相続人からの委託を受けたエステートセールの代行会社によって開催されるケースが多い。最近では、高齢者が大きな家から小さな家にダウンサイズしたり、介護施設に入居するために家財道具を整理するためのセールも増えている。
裕福だった家からは、高級な家具食器、美術品、ブランド古着などが多数出品されるため、リサイクルショップや ebayセラーの仕入ルートとしても活用されている。エステートセールは、自宅に来訪者を集めて家財道具を展示して売るスタイルが基本になるが、故人のプライベートを公開するのに抵抗が少ないのは、米国流の文化ともいえる。
エステートセール代行会社は、許認可が必要なく開業できることから、米国内では、15,000件以上の業者が存在するとみられている。彼らのビジネスは、自宅を会場としたガレージセールの開催と、高価なアイテムはオークション出品をして売却に成功した物品の総売上に対して、20~40%の手数料報酬を受け取る方式となっている。そのため、高額で売却するほど実収入も高くなり、依頼者(高齢者本人や相続人)との利害関係が一致する。
バージニア州を営業エリアとしている「Myk-Beth's」は、海兵隊を退役したマイケル・オーテン氏が起業したエステートセール業者で、故人の自宅や、ダウンサイジングで不要となった家財道具を高値で売却するための代行をしている。
売却方法は、自宅を会場として1~3日間のセールをすることが基本だが、各商品に適正な価格設定をすることと、ネットと新聞への広告掲載、買いたくなるようなセール会場の演出をすることで、過去の実績では9割の家財道具を売却することに成功している。準備期間を含めると、およそ1週間で1件のエステートセールを完結させており、年間では100件を超す依頼がある。
セールの売上高に対して35%を同社の報酬、65%を依頼者の取り分としているが、売上が4000ドル未満の場合には、報酬率が50%になる。事前の査定で、どの程度の売上が見込めるかはわかるため、依頼者と相談した上で報酬率の契約がされている。また、セールで売れ残った物については寄付をすることで、廃棄するゴミは最小限に減らして、空になった家を売却するための清掃作業にも別料金で対応している。
日本の遺品整理は大半がゴミとして処分されるのとは異なり、米国のエステートセールは故人の遺品をできるだけ高く売却することを目的としているが、最近では、遺品専門のオンラインオークションによって更に売却価値を高められるようになっている。故人の遺品がゴミにならずに、必要としている人達の元で役に立つのであれば嬉しいという遺族の気持ちもあり、寄付や遺贈を受け付けている団体との提携も、遺品整理サービスの付加価値になっている。
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