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転職と起業の中間を行くハイブリッドな働き方

 厚生労働省の調査によると、日本のサラリーマン男性は、定年を迎える60代までの転職回数が多くて1回という人が全体の6割を占めており、その半数は1度も転職をせずに定年を迎えている。転職をして年収がアップした人の割合はおよそ3割に過ぎず、年収が下がった、または変わらないという人が7割近くになる。

日本では転職を繰り返すほど、年収がダウンしていく確率が高くなるため、いまの職場が自分に合わないと感じても、ストレスを抱えながら働き続けている人が多いのが実情だろう。

一方、米国では転職を繰り返すことでキャリアアップすることが常識的に行われている。米国労働統計局の調査によると、1957年から1964年に生まれた人が、18~54歳までに行った転職は、男性が平均12.6回、女性も平均12.3回となっている。 これら転職のおよそ半分は24歳までに行われて、35~44歳までにも平均2.9回の転職をしている。

年齢が高くなるほど、就業年数は長くなる傾向があるものの、自分に合わない仕事は短期で辞める確率が高く、30代、40代の労働者でも、1年以内に辞める割合が26%、5年以内に辞める割合が61%となっている。転職による給与の上昇率は高学歴者のほうが高く、18歳~24歳までの高卒者は年間上昇率が+2.8%であるのに対して、学士以上の大卒者は+9.2%となっている。しかし、45~54歳になると、高卒者の給与は年率0.7%のダウン、大卒者でも年率0.5%の上昇に留まる。

これは、高齢になるほど、健康や体力の衰えにより、選択できる仕事の種類や、働ける時間数に制約が生じるためと説明されている。そのため米国でも、転職による年収アップを狙うのであれば40歳前後がタイミリミットと言われている。

さらに、コロナ以降の働き方としては、雇用関係によって拘束される時間をできるだけ減らして、空いた時間を副業や投資の勉強に使うほうが生涯年収は高くなるという考え方が浸透するようになり、サラリーマンは続けながらも、必要以上には働かない「Quiet Quitting((静かな退職))」や、職場の従業員が一斉退職する「Great Resignation(大辞職)」のムーブメントと重なっている。

こうした労働市場の変化に伴い、企業は労働者との新たな関係を築くことが急務の課題となってきた。そこでの解決策として浮上しているのが、フリーランス人材の立場や権利を向上させて長期的な関係を築くことである。

【勤務医に広がるハイブリッドな働き方】

どんなに給料が高い仕事でも、連日のハードワークで体調を壊してしまうような働き方では元も子もない。かとって、脱サラをして起業することにはリスクが伴う。そこで、リスクを抑えながら、ワークライブバランスも良好で、高年収が狙える働き方はないものだろうか。そうした視点から、近年人気が高まっているのが、ハイブリッド型の働き方である。

同じ会社の中で、通勤と在宅勤務を併用するハイブリッドワークはコロナ禍以降に普及してきた。週5日の通勤をするよりも体力的には楽になると好評だが、給与面の上昇は期待できず、逆に年収ダウンの要因になることが欠点として指摘されている。

海外では、Googleがリモートで働く社員の給料を最大で25%カットしていることがロイターによって報じられている。Googleの給与体系は勤務地を基準に算定されているため、これまで長距離通勤をしていた社員が、リモートワークによって「自宅」を勤務地にすると、給与が下がってしまう構造になっている。

社内の昇進でも、在宅勤務者が通勤者よりも不利になることがあり、雇用型のリモートワークが理想的な働き方とは言えないことも露呈してきた。そこで、雇用される時間とフリーで仕事をする時間を使い分けたハイブリッドワークが注目されている。

具体的な変化として出てきているのが、病院に勤務する医師達の働き方である。 勤務医の平均年収は、サラリーマンの中では最上位にランキングされているが、週あたりの勤務が60時間を超している医師は4割を超しており、ワークライフバランスの面では幸福度の低い職場といえる。

そこから抜け出すには、自分のクリニックを開業する選択肢があるが、必要資金の調達や失敗した時のリスクを考えると、なかなか踏み切れるものではない。そこで、勤務医としての仕事は一定の範囲に収めながら、副業や投資で収入を伸ばそうとする「ハイブリッド勤務医」が増えてきている。医師の副業については、オンラインドクターや医療記事の監修など、選択肢は多いことから手掛けやすく、そこで稼いだ資金を投資で運用することにより、生涯資産を増やしていくスタイルだ。

《医師が手掛ける副業例》

・オンデマンドの遠隔診療
・企業や学校などの健康診断
・レントゲン写真の読影
・医療や健康についての記事執筆、監修
・健康食品などの製品監修
・非常勤の在宅診療サービス
・セミナー講師
・不動産賃貸業

海外でも、医師が副業として第二の収入源を作ることは進んでいる。医療系情報サイトの Medscapeが 2500人の米国医師に行った調査では、およそ4割の医師が副業を実行しており、平均で年間25,300ドルの収入を得ている。米国勤務医の平均年収は約20万ドルで、日本(約1300万円)よりも高いが、本職のプレッシャーやストレスから解放されるためにも、年間3万ドル程度の副収入を稼ぎたいと考えている。

米国の医師にとって、年間3万ドルの副収入というのは決して大きな額ではないが、日常の仕事に対する精神的な負担が軽減される効果は、金額以上に大きなものになっている。

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