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最近のニュースから、日本のイノベーションにまつわる状況を考えてみる

東海道新幹線で保守用の車両が衝突し脱線したために、東京・新大阪間を結ぶ新幹線が終日不通になるというアクシデントがあった。

記事にもあるとおり、新幹線の保守点検に関する問題はここしばらく散発的に続いている。それ以前にはこうしたことはさほど多くはなかったのではないかと思う。

根本的な原因についてはまだ不明だが、一般的に人手不足や熟練技術者が後継者を育てられないまま引退していることに懸念を示す論者もおり、今回もそれが遠因になっている可能性はあるかもしれない。また、こうした点を克服する方法の1つとしてデジタル技術の導入が考えられるが、新幹線の保守点検の現場でこうした取り組みはどれだけ進んでいるのだろうか

これについては、昨今問題を起こしているボーイング社の航空機製造についても同じような指摘がされている。

特に問題になっているのは、ベストセラー機737の最新バージョンである737MAXでトラブルが続発し、これによって発注している航空会社への納入が遅れているばかりか、ライバルであるエアバスにシェアを奪われていることだ。

こうした問題が起きた原因として、かつては内製していた部品を別会社として切り出したことで品質が低下したことが一因であるという指摘もある。このため、一旦切り離した部品製造会社を再び買収して内製化するという。その経緯について詳細はわからないが、いわゆるコスト削減の波に乗って子会社や別会社として切り出してきた、ここしばらくの日本企業のあり方と重なる部分があるのではないか

そして、ボーイングの問題には不正が絡んでおり、適切に検査等がされなかったことについてきちんと報告されていなかったという問題がある。これも昨今の日本の自動車業界における認証不正問題を思い起こさせるものがある。不正が起きる原因に、こうした効率の追求やコスト削減が絡んでいるのではないか。

もっと言えば、ライバルのエアバス320型機と比べてもすでにかなり古い737型機を、少しずつ更新することで延命を図ってきたことに根本的なボーイングの問題があると考えることもできるのではないか。これも、抜本的な対応を先送りにしがちな日本の姿とかさなる。

新幹線やボーイングに共通する問題として、いわゆるイノベーションのジレンマという古くて新しい問題が如実に現れているように感じるのだ。

そして日本は、過去に一定以上のイノベーションが起きただけに、ここしばらくはこのジレンマ、そして、そもそもイノベーションを起すべき分野や、イノベーションに対する社会全体の向き合い方の問題で停滞が続いているという見方もできるのではないか

例えば最近、新しい紙幣が登場したが、果たして、いつまでこうした技術を盛り込む形でコストをかけて新紙幣を作り続けるのだろうか。最新の偽造防止技術などを取り入れているというが、そもそもキャッシュレスが進行すれば、偽造はなくならないとしてもそのインパクトは小さくなるのではないか。

ここには、紙幣の製造技術は進んでいるが、肝心のキャッシュレスが他の先進国に比べて進んでいないという我が国の問題がある。キャッシュレスが進まない理由の一つには、クレジットカードや電子マネーなどの手数料問題があると言われている。実際には現金を扱う場合でも、それを管理する人件費や盗難や紛失・強盗などのリスクがあり、現金であるがゆえのコストが発生している。しかし、それが目に見えないことでカード等の手数料が高く見えているのだろう。

これに対応して銀行も夜間営業を維持したり、少しずつ減っているとはいえATMの台数を劇的に減らすことができないままに銀行の高コスト体質も続いている。これはひいては私たちの預金の金利が低く抑えられたままである一つの要因にもなっているのだろう。実際に、店舗を持たず直接現金を扱わないネット銀行の方がおしなべて預金利率は高い。ここでは、イノベーションのジレンマというよりは、あるべきところにイノベーションが起きていないという問題がある。

同様のことはマイナンバーカードをめぐる問題でも感じる。なぜかわからないが、マイナンバーカードはマスコミのネガティブキャンペーンにあったせいか普及が足踏みしている。しかし、実際に使ってみれば、例えば保険証として使うことによって医療費控除の申告をする時にマイナポータルにアクセスすれば、マイナ保険証でかかった病院の費用は自動的に集計されている。また、多額の医療費がかかった場合の高額療養費についても、わざわざ保険組合等に書類を請求し、一旦自分で支払った後から立て替え分の払い戻しを受けるといった手間がなくなる。病院のマイナ保険証読み取り機で「高額療養費制度の適用を受ける」ボタンを押せば、それで自動的に自己負担額を超過した分についての請求がゼロになる利便性は大きい。しかし、マイナ保険証の利用は低迷している。ここでは、そもそもイノベーションを起こそうとする時に社会が大きくブレーキを踏んでしまっているという問題が存在している。

そして、先ほどのキャッシュレスの問題解決と絡めるなら、マイナンバーカードに少額の電子マネー機能をつけるといった方法は取れないのだろうか。既存の電子マネーやカードとの競合を避けるために金額などに一定の制限を設けるとして、いわゆる小銭入れを持ち歩かなくて良い程度の金額をマイナンバーカードで手軽に支払えるようになったら、紙幣ではないが硬貨の発行管理に関する費用が省けるはずである。その省かれたコストを原資としてマイナンバーカードでの電子マネーの手数料を無料化するといったことで、キャッシュレスの中でもコインレスを推進していくところからスタートできるのではないか。すでにそうした取り組みを行っている自治体もある。

こうしたニュースは、いずれも日本のイノベーションにまつわる、なかなか解決されない問題を表している。新幹線技術やお札の偽造防止技術などを筆頭に、我が国の技術を誇る論調が先行しがちであり、それ自体は間違いではないものの、社会全体としてあるべき方向を今一度見直し、必ずしも技術が高度でなくても、運用や社会のあり方によってイノベーションを実現している他国にも学び、日本としてあるべき姿に変えていく必要があるのだと思う。

もちろん、自国に誇りを持つことは大切であるが、一方で、それによって他国の取り組みに対する敬意を忘れてはいけない。いくら技術が素晴らしくても、それを活用するトータルとしての仕組みが整わなければ、高い技術もその意義を十分に発揮することができないということを改めて認識する必要があるだろう

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