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「定性データの定量分析」ではインサイトは見つからない

このnoteで言いたいことを冒頭に書きます。

定性データを定量的に分析しても、それは定性分析とは言いません。定量分析です。

ましてや、文字などの定性データを定量分析にかけても、全体の傾向が分かるだけで、消費者のインサイトは見えません。「1万行のコメントを調べると、タレより塩の登場回数が2.3倍多いので、タンは塩派が多いです」とか言われましても「で?(so what?)」って感じです。

それはインサイトでは無いのです。ファクトなのです。

なぜ見つからないのか。理由はシンプルです。消費者のインサイトは1万件に1件紛れ込んでいる貴重なデータであり、定量的に評価すると少数過ぎて「無かったも同然」と見なされるからです。

消費者のインサイトは民主主義ではありません。消費者のインサイトは、常に少数に潜んでいます。1万行のコメントのうち、たった1行だけ「焼肉には水塩が合う」というコメントがあったとして、そこがインサイトの入り口なんです。

消費者のインサイトに辿り着きたいなら1万件読みましょう。楽をするな、と言っているのではありません。定性データの定性的な評価には決まった手法があり、定量的な評価では辿り着けない価値があるのです。

後の文は蛇足です。


市場調査における定量調査と定性調査はどう違うか?

カインズがデータ収集のために独自開発商品を置いていたのが米シリコンバレー発の売らない店舗「b8ta(ベータ)」だ。2020年に上陸したベータの日本法人にカインズは出資している。
カインズにとって魅力的だったのが、ベータが集積するデータだ。ベータの店舗では商品の前で立ち止まった人や触った人を捉える「定量データ」と、なぜ顧客が買わなかったのかなどをスタッフが聞き取る「定性データ」を集めている。

「市場調査における定量調査と定性調査はどう違うか?」と聞かれると、皆さんはどう答えますか?

田中洋編著「課題解決!マーケティング・リサーチ入門」では「定量調査は調査結果を数値化する調査、定性調査は調査結果などを言葉で表す調査」と表現しています。

さらに言えば「定量調査とは数字によって消費者を分析する手法」「定性調査とは数字ではなく、言葉とその意味によって消費者を理解・分析しようとする調査のことで、なぜ?を明らかにする調査」とも書かれています。

消費者を分析する手法の違いが、定量分析と定性分析の違いだと言えます。したがってメリット・デメリット、得意・不得意は分かれます。

梅津順江「心理マーケティングの基本」では「定性調査が得意なのは、潜在ニーズの顕在化や仮説が明確ではない部分が多い時の探索的なアプローチ」「不得意なのは量的な検証」と表現しています。一方で定量調査は、この逆だと考えれば良いでしょう。

例えば、少子化が進んでいるので自治体が「結婚しない理由」を調査するとします。自由記述にしたいところですが、それでは「なんとなく」ばかりになりそうです。そこで選択肢として「相手がいない」「時期じゃない」「親が反対している」などを列挙して、選んでもらうことにします。

「相手がいない」… 34%
「時期じゃない」… 25%
「親が反対している」… 18%

こうした結果が量的な検証であり定量分析です。

一方で、列挙すべき選択肢を0から考えるのが定性分析です。10代・20代を調査して「恋愛が面倒」「結婚自体が古臭い」「子供がいると自分の自由が無くなる」などの価値観を発見し、筋の良さそうな選択肢を見つけます。

こうした背景から「市場調査における定量調査と定性調査はどう違うか?」と聞かれると、私なら「定量調査は仮説検証、定性調査は仮説構築」と答えます。仮説検証ですから「どれくらい?」を知れるのが定量の良いところ、仮説構築ですから「なぜ?」を知れるのが定性の良いところです。

仮説=インサイトと置き換え、インサイトの発見が定性調査、インサイトの検証が定量調査とも言えますね。

長くなりますが、数をかぞえるか、文字を読み込むか、やっていることは全く違うし、だからこそ「分かること」も自ずと違ってくるのです。


現実の消費者は無意識にウソをつく

定性調査について考えてみましょう。

定性調査の手法として、エスノグラフィー、MROC、デプスインタビュー、グループインタビュー…など様々あります。が、いずれも有償で、かつ実施するなら比較的お値段は高めです。まずは、自分の周囲に「ちょっとだけ聞いてみる」のが良いでしょう。これなら無償です。

また、これらの手法はAsking(質問)ですが、Listening(傾聴)も欠かせません。Kristin Bushさん(P&G Consumer & Market Knowledge)の資料はすごく参考になります。

Consumers in reality often do things differently than what they say they do.
(現実の消費者は、言っていることとは違うことをすることが多い。)

まさにその通りで、消費者は自分を良く見せようと、無意識のうちに「人から好かれる行動」「人から良く思われる行動」を多く見せ、「人から嫌われる行動」「人から良く思われない行動」を少なく見せます。

例えば「ミスタードーナツは箱袋から全て取り出し、いったん皿に載せてから家族でシェアする」「台所のまな板は、キッチンハイターで週に2回除菌する」などが典型例です。そんな丁寧な暮らし、実際には言うほど実践できていないものです。

だからこそ行動観察(エスノグラフィー)に価値があるのですが、そこまで時間も金も無い企業が大半です。

そこで、この10年来ずーっと注目を集めている定性分析がソーシャルリスニングです。消費者に「聞きたいこと」を聞くのがAskingなら、消費者の自然な会話にこっそり参加するのがListeningです。Social Listeningですから、聴く対象がSocialとなるでしょうか。

SNS上での態度、ライフスタイル、ニーズを理解するため、ごく自然に起こる消費者の行動を観察し、自分なりに解釈するのがSocial Listeningです。これらの分析を通じて「インサイトに出会う」と表現しても良いでしょう。

では、国内外問わず、Social Listeningなサービスが「定性的な分析を可能としたか?」と考えれば答えはNOでしょう。

理由は2つあります。

1つ目。例えばマクドナルドをSocial Listeningするとき、消費者の声以外にもネットニュース、アフィリエイト、無関係な話題を拾います。私自身も経験がありますが、これらのデータクレンジングが面倒です。

2つ目。丁寧に除去したとしても、分析する手法が「定量的な評価」に留まっています。別にワードクラウドを作りたいわけじゃない。どれだけデータクレンジングをしても、そのデータを活かす方法に限りがあるので、だから「面倒」だと感じるのです。

UGCの登場回数を知ることは重要です。しかし、それは定性分析ではありません。定量分析です。登場頻度も、ワードクラウドも、言葉の係り受けも、すべて定量分析です。

定性分析ができるSocial Listeningとは、SNSなどの投稿を読み「なぜ?」に辿り着くことです。


「なぜ?」から始まる

JX通信社では、21年4月から「消費者理会」というイベントを開催しています。すごいマーケターやリサーチャーをお呼びして 「どうして消費者を理解する必要があるのか、理解すると何が変わるのか?」を聞く会です。

様々なマーケティングフレームワークが登場したおかげで「現場でどう実践するか」は共通言語化されつつありますが、肝心の「消費者の解像度をどのように高めるか」については、マーケター独自の判断になっている気がしています。

だからこそ、仕事においては「なぜ、と考えることが重要ですよ」と言われてきました。観察力と洞察力を磨き、違和感に気付き、なぜ消費者はこのような行動をしているのか考えなさい、と指導を受けてきました。

しかし、それでは一子相伝の剣術のようでもあります。それでは、それぞれの流派がさらに枝分かれしていくだけで、これから先にマーケターに就こうとする方は困ってしまうでしょう。

そこで、毎回すごいマーケターを1人お招きして、ちなみにどのようにして消費者の解像度を高めているんですか、とお聞きしています。ちなみに次回は6月29日(火)20時〜21時です。(ウェビナー申込はこちらから)

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僕は、他諸先輩と比べればそう長くないマーケターとしてのキャリアを歩むなかで、なぜ?と考えることが重要だと理解しています。トヨタの「なぜなぜ分析」は、体系化された定性分析だと考えます。

消費者の行動は「なぜ?」と突き詰めると、理由が無いのではなく、無意識であり無自覚であり、習慣が支配していると考えます。これはB2Bビジネスも同様で「なぜこういうマーケティングが必要なのか?」と自らに問えば、3回目ぐらいで説明にならない説明を述べる場面に遭遇します。

消費者の行動を「なぜ?」と考える調査、消費者の行動を「どれくらい?」と数える調査、その両方が大事なのですが、やはり私は「なぜ?」に時間をかけねばならぬと思うのです。

なぜなら、「なぜ?」を解いた分だけ選ばれる回数が高まり、単価が上がり、市場のパイが大きくなるからです。(ここは異論無いはず)

とは言え、マーケティングリサーチにおいて定性調査は定量調査の3分の1程度の市場規模なのです。なおかつ、日本におけるマーケティングリサーチの市場規模は、諸外国と比べて広告費比で考えても人口比で考えてもGDP比で考えても低い。

そもそも「定量調査しましょうよ」と言っても「必要ですか?」「有名な某社長がリサーチで将来のことなんて分からないから無意味って言ってますよね」とか煽られるわけで。

高岡め…。

蛇足でした。以上、お手数ですがよろしくお願いします。

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