「副業・兼業ガイドラインQ&A」を読んで浮かんだ疑問

こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

涼しくなってきてまた剣道を再開したいなと思う今日この頃です。

さて、日経新聞で以下のような記事が出ています。

私はかねてから「元々兼業・副業は自由なのだから『副業解禁!』というのはおかしい」と主張していますが、それはともかく、このように兼業・副業を認める会社が増えてくることは良いことだと思います。

このように企業の慣行もすこしづつ変化しているなか、今年の7月に厚生労働省が副業・兼業ガイドラインQ&Aの改定版を公表しています。

ただ、この副業・兼業ガイドラインQ&Aについては「??」な記述が多く、法的に多くの疑問が残ります。

副業・兼業ガイドラインQ&Aに対しては色々思うところがありますが、そこは抑えて、今回は評価ではなく、純粋に「??」なところ挙げてみます。

労働時間を“仮定”する??

まず、かねてより疑問が呈されていたフレックスタイム制をとっている場合の通算の考え方について、一応の考え方が示されています(Q1-2)。
そこでは以下のように書かれています。

フレックスタイム制でない事業場(B事業場)においては、…フレックスタイム制の事業場(A事業場)における日々の労働時間は固定的なものがなく予見可能性がないことから、… フレックスタイム制の事業場(A事業場)における1日・1週間の所定労働時間を、(1日8時間・1週40時間)であると仮定して、…

言葉は「仮定」と言っていますが、「これって実質的な労働時間みなしと同じなのでは?」と思います。
この実質的な労働時間みなしという意味では、管理モデルも、以下の記述のとおり、実質的な労働時間みなしといえるように思います(Q1―13)。

各々の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定し、それぞれ他社の実際の労働時間の長さにかかわらず割増賃金を支払うこととするものであり、これにより、それぞれ他社の実労働時間を逐一把握することなく労働基準法を遵守することを可能とするものです。

労働時間の「みなし」という言葉には慎重なのに、「仮定する」とか「逐一把握しなくてOK」という言葉にすればOKなのでしょうか?

管理モデルを使うことを兼業・副業の要件にできる??

管理モデルを兼業・副業の条件とすることについては、以下のように記述されています(Q1-21)

副業・兼業を認めるに当たって、管理モデルによる副業・兼業を原則とすることは差し支えありません。

ところが、そのすぐ上にあるQ1-20では、「副業・兼業を禁止又は制限できるのは、例えば、①労務提供上の支障がある場合 ②業務上の秘密が漏洩する場合 ③競業により自社の利益が害される場合 ④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合 に該当する場合」と書かれており、管理モデルを要件とすることが、これらのどれに当たるかは不明です。「例えば」だから、例示だということなのでしょうか。

そもそも兼業・副業が原則として自由であることは、管理モデルができる前の裁判例から定着していた考え方であるのに、最近できた(しかも法律ではない)管理モデルによって禁止・制限できるというのは「??」です。

管理モデルは、労働時間把握の負担を軽減する趣旨であるので、これを認めてしまうと「労務管理が大変だから禁止・制限できる」という流れにもなりかねないように思います。

三者間合意で通算の順序を変えられる??

さらに、Q1-19では、以下のように記述されております。
労働時間通算の順序は、使用者Aと労働者、使用者Bと労働者の間で合意され、 三者の合意が形成されることにより、変更することは可能です。

これは2つの意味で「??」です。
まず、この方法だと使用者Aと使用者Bの間に合意はないので、普通は「三者間合意」とは呼ばないように思います。

次に、そもそも合意によって通算の順序を変えられるというのは、労働時間制度の強行法規性からして「??」です。労基法38条1項の規定は任意規定という趣旨なのでしょうか。

結局36協定はどう書く??

Q1-15では、通算の結果法定外が発生する場合、36協定には、「副業・兼業」と記載すればよいかとの問いに対して、以下のように回答しています。

「時間外労働・休日労働に関する協定」の締結に当たっては、時間外労働をさせる必要があるのが副業・兼業を行う労働者であるかどうかにかかわらず、自社において「時間外労働をさせる必要のある具体的事由」として、具体的な時間外労働の事由を記載していただく必要があります。

これは回答になっているのでしょうか。通算の結果、”普通の”所定労働時間についても法定外と扱われるのに、どうやって「具体的な時間外の事由」を書くのでしょうか。

私はかねてからこの点が実務上のネックの一つと思っており、なんらかの指針を期待したのですが、結局は明確な回答はありませんでした。

全体的に説明が不足している印象

改定副業・兼業ガイドラインQ&Aでは、かねてから懸念とされていた特定の労働時間制度を採っている場合についても一応考え方は示されたものの、理屈上「??」なところは多い印象であり、説明が欲しいところです(どなたか私に教えてください。)。

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