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300年後、「ブラック企業」を雲孫世代に残さぬために

僕が所属しているSmartHRでは、「well-working|労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」というコーポレートミッションを掲げています。

そんなこともあって、2年ほど前から「well-workingとは何か? well-beingとは何か?」ということをよく考えています。

そのなかでわかりやすく捉えるにはwell-workingな社会の反対にあるものとして、「ill-workingな社会」あるいは「well-workingではない社会」があると考えられますが、このような社会における存在感の強い登場人物としては、いわゆる「ブラック企業」があるかなと思います。

もちろん、コレ以外にもill-workingをもたらす要素はたくさんあるでしょうが、悪意を持つものとして「ブラック企業」にフォーカスします。

※ このnoteで使っている「ブラック企業」とは、悪意をもってそのような手段をとっている企業を指しており、単に労働条件が悪いとか、労働時間が長く環境が悪いといった企業については今回はフォーカス外としています。

言及している範囲のイメージ

※ ブラック企業(あるいはカルト教団など)にまつわる、嫌な体験、思い出がある人はもしかしたら気分を害する可能性もありますので、もし気になる方はここで離脱推奨です🙏

「宗教」の語源をたどると「再接続」という本来の優しさにたどり着く

先日、この動画を見ていたんです。

そのなかで、予防医学者の石川善樹先生がこのような話をしていたんですね。

「『宗教』とは、つまりreligionとはラテン語で『レリギオ』で『再接続する』って意味なんですね。つまり今の社会のなかではどうしても外れてしまう人がいて、その人たちと社会を再接続しようよっていうのが宗教の本来的な役割で・・・(以下略)」(37分15秒くらい)

出典まではわからなかったので、念のため語源として参考になりそうなものを引用しておきます。

『シップリー英語語源辞典』によると、ラテン語のlegere、lect-(接頭辞がつくと、-ligere、-lect-)の合成語は、非常に豊かな派生語を生み出しているとあり、英語religion(宗教)の語源についても下記のように説明がある。
ラテン語「religens(注意深い、没頭した:ラテン語で 「re-」は“再び”)」は「繰り返し繰り返しそれに戻ってくる」 ことを表し、この態度が名詞「religio、religion(献心、良心、不安、勤行、拘束力)に表され、英語religion(宗教)の語源となった。

質問:ligionという単語はあるか?その意味は? | レファレンス協同データベース

「強く(re-)結ぶ(ligo)こと(-io)、自らを信仰に縛ること、神への信仰」がこの単語のコアの語源。
古期フランス語 religion(信心深さ、捧げること、宗教的共同体)⇒ ラテン語 religio(信心深さ、神聖さ、崇拝の対象)⇒ ラテン語 religo(きつく結ぶ)+-io(~すること)⇒ ラテン語 re-(強意)+ligo(結ぶ、縛る) が語源。
英語 rely(頼る)と同じ語源をもつ。

religion 意味と語源 – 語源英和辞典

概ね石川さんと同じようなことが説明されていたので、このまま進めます。

このように見ると、「社会から外れてしまったとしても、その人たちの拠りどころとして宗教という受け皿をつくり、再び社会とつながってもらおう」というやさしさを感じます。

WHO憲章におけるwell-beingの定義のひとつに「社会的満足度」があることから見ても、マーティン・セリグマンのPERMAモデルの因子のひとつに「Relationship」があることから見ても、well-beingや幸福学研究で知られる前野隆司教授の幸せの4因子のひとつに「ありがとう因子:つながりと感謝」があることから見ても、「社会とのつながり」「人とのつながり」というのが、well-beingにとっていかに重要かが想像できます。

国内30万人、海外10万人を対象にした調査をもとに、「幸せの鍵・処方箋」を追究している鶴見哲也・藤井秀道・馬奈木俊介著『幸福の測定 ウェルビーイングを理解する』でも、以下のように解説されています。

日本は「世界幸福度ランキング」で先進国の中で最低水準が続く。同書は1位の常連、フィンランドと比べて理由を考察。日本は「人とのつながり」「仕事と生活のバランス、余暇」などの項目で、幸福感を高める活動が不足している。

読む!ヒント ウェルビーイングどう高めるか(玉利伸吾) - 日本経済新聞

「分断」そして「再接続」を図ってくる悪意あるブラック企業

「社会とのつながり」という言葉から連想したことのひとつに「カルト教団」がありました。
「再接続」を悪用しているのがカルト教団なのではないかと。

彼らの手口の特徴をChatGPTに問うてみました。

「 孤立化:カルト教団は、信者を家族や友人、社会から孤立させることで、外部からの影響を遮断します。これにより、信者は教団の教えやリーダーに依存するようになり、疑問や反論がしにくくなります。」

「時間と生活のコントロール:信者に大量の時間を教団の活動に費やさせることで、日常生活をコントロールします。これにより、信者は外部とのつながりを失い、教団内での活動が生活の中心となります。」

まさにドンピシャで「再接続」を悪用していそう。
ついでに、カルト教団とブラック企業の構造的な特徴についての共通点も問うてみました。

【心理的支配と洗脳】
・カルト教団: 繰り返し同じ教義や価値観を教え込むことで、信者に批判的思考を持たせないようにし、教団の外の世界や価値観を否定的に捉えさせます。外部との接触を制限し、教団内での価値観を唯一のものにする。
・ブラック企業: 経営者は、組織にとって都合の良い価値観や目的を強調し、社員が批判的に考えず、盲目的に組織に従うように心理的圧力をかけます。外部の仕事の機会や他の労働環境を否定し、転職を避けさせる心理的依存を生み出します。

【外部からの隔絶】
・カルト教団: 外部との接触を制限し、教団外の世界を「敵」や「悪」として描き、信者を孤立させます。これにより、教団以外の価値観を排除し、信者が教団に依存するようになります。
・ブラック企業: 経営者は、社員が外部の情報や他社の状況に触れることを阻止し、自社の「特異な価値観」を社員に信じ込ませます。他社との交流や転職活動をタブー視し、社員を企業内に閉じ込めます。

とあるように、意図して社会と分断させ、その一方で自分たちの教団や会社との「悪意ある再接続」を図ってくることが考えられる。当の本人も「この会社しかない」「他の人はわかっていない」といった具合に、ブラック企業に依存していってしまうのだろうなと想像します。
(※あくまでChatGPTの回答であることに一定の留意をする必要はあります)

排他的でなかったとしても、慢性的な長時間労働から社会とのつながりが断たれる可能性もあります。たとえば東洋経済オンラインの記事でも、精神科医の大石雅之さんによって近しい指摘がされています。

③ 外部との関係の遮断には要注意!
ブラック企業などでよく見られることですが、コントロールしている当事者が意識しているかどうかは別として、長時間労働をしていると自然と外部から遮断されていきます。外部から遮断されると「やめられない」状況に陥りやすくなります。依存から抜け出すためには何より「自分自身を客観的に見るのが大事」なのですが、外部から遮断されると自分を客観的に見ることができなくなります。

「ブラック企業に依存」してしまう人が陥る泥沼(大石 雅之 : 精神科医/大石クリニック医院長) - 東洋経済オンライン

数十年、100年単位で改革していく必要があるかも

以上のように見ていくと、たとえば「well-working」が一般的に浸透していったとしても、おそらくブラック企業に勤める人たちには届かない。届いたとしてもおそらく受け入れられない、という壁に当たるのではないかと思うのです。

こうなると、「well-being/well-working」の重要性を説くだけでなく、誰もがブラック企業とつながらないための予防行動をとれるよう、教育レベルから知識や術(すべ)を提供するような働きかけも必要になるんじゃないかと。

たとえば僕は、28歳のときにSmartHRに入社するまで36協定を結んでいなければ1分たりとも時間外労働ができないことなんて知らなかったし、有給休暇を取得するのに際して取得理由を伝える義務がないことも知りませんでした。学生時代、アルバイト先で店長に閉店作業中に勝手にタイムカードを押されていたりということもありましたが、「そんなもんなんだろうな」と特段違和感を持つことはありませんでした。このように「学生時代から知っていれば、もっと違ったかもしれないのに」と思うことがたくさんあります。

ちなみに連合(日本労働組合総連合会)の調査によると、36協定の認知率は5割に満たないようです。

労使協定である“36協定”について質問しました。
全回答者(1,000名)に、会社が労働者に残業を命じるためには、あらかじめ労働者の過半数が加入する労働組合(ない場合は、労働者の過半数を代表する者)との間で労使協定(いわゆる“36協定”)を締結する必要があることを知っているか聞いたところ、「知っている」は49.2%、「知らない」は50.8%となりました。
世代別にみると、「知っている」と回答した人の割合は、40代(55.4%)と50代(58.9%)では半数を超えました。

連合調べ 36協定の認知率は49.2%、「働き方改革」前より下降傾向 - ネットエイジア株式会社

とはいえ、教育レベルに踏み込んで「ill-working」に対して根治していくための活動は5年や10年で実現できるもんではないだろうことは想像に難くなく、少なくとも数十年、もしかしたら100年単位で働きかけ続ける必要があるのかもしれません

たとえば「新卒カードで良い企業に就職できないとレールから外れる」みたいな画一的な固定観念も打破していかないことには、「悪意ある再接続」の受け皿としてブラック企業は機能しつづけうるからです。

300年後、「雲孫」世代の教科書の片隅で

おもしろいことに、日本には「雲孫(うんそん)」という言葉があることを石川善樹さんがどこかで触れていたのを聞いたことがあります。これはどうやら、自分からみて8世代あとの子孫をさす言葉らしいです。

言葉として存在しているくらいですから、この言葉を生んだ人、使っていた人にとっては8代あとのことを考えるのが当たり前だったのでしょう。時間にしてみれば200年〜300年くらいですかね。

我々からみた「雲孫」にあたる世代が働くころには、「ブラック企業」なる言葉が歴史の教科書の片隅で軽く紹介されているテストにも出ないくらいの「よくわからん歴史用語」として廃れていくには何ができるでしょうか。

それを考えるのも、向き合うべきひとつのサステナビリティなんだと思います。

少なからず個人から始められることとして、自分としては一日一日をwell-workingに過ごしていくうえで、「つながり」を大切に歩んでいこうと思います。

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