いいぞもっとやれ!小売/卸/ブランドこれからの方向性
景気の悪さの影響をもろに受け、さらにはなんでもシェアという価値観の登場、ものの所有に対してのモチベーションが低くなってから久しく明るくない小売業界。
そういった雰囲気が当たり前になったこの数年ですが、最近これまでとは違った空気が流れ込んできているのを感じます。海外のブランドでは数年前から起こってきた流れが、日本のブランドにも確実に来て加速し始め、話題に上がることが急に増えてきました。小売/卸/ブランド業界の、今後に向けヒントになっていきそうな大小関わらずさまざまな事例を、キーワードでまとめてみたいと思います。
キーワード①透明性、すなわち信頼
・ブラックボックスの公開:米EC専門ブランド Everlane(エバーレーン)
そんな時代に支持されるブランド『エバーレーン』から学ぶべきポイントは3つある。1)徹底された透明性2)小ロット生産/売切り型3)ソーシャルコンシャス
エバーレーンはなんといっても、それまで誰も語らずブラックボックスだった情報を徹底して表すことをブランディングとして行った先駆け。
・販売している洋服の原価や製造工場を公開・材料費、縫製費、関税、輸送費の具体的な額を商品ページに掲載・トラディッショナルリテール(従来の小売り)との価格も比較表示・工場の場所や従業員の写真を公開・工場の現時刻、天気、従業員数なども公開
中でも、原価の公開、従来の価格との比較表示は、かなり衝撃的でした。
この2月、日本版が公開されましたが、なぜか原価などの表示はしていません。エバーレーンのブランド力でただのプロダクトとして展開しているのが非常に残念。日本がこういった取り組みに保守的で、欧米より4-5年遅れていることが顕著に表れています。
・エシカルへの舵きり:Tiffany(ティファニー)
ティファニーがダイヤモンドの原産地情報を公開、責任ある資源調達を確約
https://www.fashionsnap.com/article/2019-01-10/tiffany-co-diamond-source-initiative/
今後はダイヤモンド製造の透明性を高めるため、新たに調達した0.18カラット以上のダイヤモンドの原産地情報を顧客と共有していく。<中略>原産地を知るという取り組みを通して、「紛争と無関係なダイヤモンド」の調達を保証するだけではなく、同社において厳格な責任ある資源調達が行われていることを確約するという。
エシカルという言葉が登場したのは、2014年。エシカル=倫理的かどうかというのは、定量的な評価が出来ず、人それぞれの価値観によるところも多いため、エシカルと謳われていても信頼しづらいと感じる方も多いのではないでしょうか。“誰がどう見てもエシカル”であるというのは大変なことです。
しかし、ジュエリー業界の世界のトップブランドが、絶対的なエシカルに舵を切りました。それも、特にエシカルであることが難しい宝石の資源調達について。この舵切りは、業界が抱える倫理的問題解決の入り口になり、結果限りある資源である宝石は価値が高騰するでしょうが、同時に「透明性」の重要性を多くの人が認識していくことになるでしょう。
・作る人の顔出し:ジュエリーの展示販売会イベント New Jewelry(ニュージュエリー)
プロダクトデザインにおいては、「デザイナーに会える」機会はなかなかないもの。デザイナー・作家に会えるイベントとして開催している New Jewelryは、今年10周年を迎える、日本国内の新進気鋭なブランドが勢ぞろいするジュエリーの展示販売会イベント。これまで、ブランドが展示会をするところに小売店のバイヤーが買い付けにくるだけだった展示会に、C/エンドユーザーを集客し、ブランドのデザイナー本人と会えるように仕掛けたのは、スタート当初とても珍しかった。プロダクト自体だけではなく、作る人本人に会うことでファンが増え、ブランドの信頼を得るという、作る人顔出しの先駆けになった事例です。
生産者を顔を見せるのが、食の分野では当たり前になり、消費者が慣れてきてた昨今。いよいよものの分野でも、作る人だけではなく、材料含めたすべての生産者の顔出しに価値が出てくるのも、遠くはなさそうだと感じます。
キーワード②ショートカットしてビジネスリモデル
これまで当たり前だったことが、インターネットの力を使ってなんでもなく大幅にショートカットできるようになり、別のビジネスモデルになる。この流れで、活気のなくなる業種や出番がほとんどなくなる職種も。この流れは、どうやっても見逃すことはできないでしょう。
・D2C:小柄女性のためのアパレルブランド COHINA(コヒナ)
物心ついたときからSNSがあったデジタルネイティブ世代からすると、ものを作り、SNSで告知し、売るというのはあまりに当たり前すぎて、それ以外がないように逆に思ってしまうくらいのことなのでしょうが、これまでは当然、ブランドはメーカー卸として小売業者に卸す以外、販売の方法・販路がなかったわけです。それが今は、ダイレクトに顧客にアプローチすることが可能に。これにより、世界観の表現やSNSでのライブ配信などが一層重要になり、それこそが、小売業者に変わって販路を広げてくれる役割を担う。
清水:卸はあまり考えていないですね。お客さまとのコミュニケーションを重視していることもありますし、価格の面でも、卸を行わないからこそ今の価格で販売できているので。お金をかけるのであれば、細部にこだわったり、サイズ展開を増やす方に使いたいです。
彼女たちの場合は、はなから卸は考えていない。そのおかげで、価格を下げることができ、さらに、細部にこだわり、サイズを増やして展開できるよう工夫ができている。D2Cでターゲットに対して最大限スケールしたあとどうなっていくのか、注目していきたいです。
このほかにも、紹介できるものとして現象化できていないプロジェクトなど、今まで当たり前にあったものをショートカットし、効率化しビジネスリモデルをして成り立っていこうという話が多くあります。D2Cをはじめ、これからは事業をするものの頭の中にそういった考えが当たり前に存在する時代なのでしょう。
キーワード③全方位への配慮
「良い商品は2度美味しい」ものだと、インテリアショップ店長時代、スタッフに接客を教える際何度も口にしてきました。
1.直感的に良い/好きと思う
2.ストーリー/背景を聞くとさらに深く良いと思う
というもの。
ただこれからの時代、2度程度というのは、もう古いかもしれない。欧米を中心にではあるものの、2度どころか、全方位に配慮したものを作っているブランドが増えてきています。
「全方位」を定義するのであれば、
・問題解決型
・制作工程に別の価値を生む構造
・あり方が安全でクリア
・細部までデザインがいい
という点などでしょうか。例えば、
・ベルリンのアップサイクルKAFFEE FORM(カフィーフォーム)
これだけの全方位的に花丸な活動を、プロダクト数を絞って確実にトライし続ける。日本ではこういったケースをこれまであまり見かけなかったのが、D2Cでの成功事例が増えれば解決されていくことでしょうし、そうでなければいけません。そういった意味で、下記ふたつは日本の中でも、ファッションを通じて問題をリデザインする注目すべきブランドだと思います。
・ハンドメイドブランド BEYONDO THE REAF(ビヨンドザリーフ)
・おばあちゃんの雇用(とたのしみ)創出
・震災後、石巻のおばあちゃんともものづくり
・デザインがいい
・完全受注生産というポリシー
・アフリカンカラフルポップなファブリック CLOUDY(クラウディ)
・売上の一部が独自NPOの活動費に、300人の子供が通う小学校を3校設立
・制作過程でアフリカの女性や身体の不自由な方中心に雇用創出
・背景を知らなくても手に取りたくなる世界観
このように、問題解決型のブランドがデザインや世界観をきちんと表現し消費者に受け入れられるようになってくるのは素晴らしいこと。逆にいえば、デザインからはじまったブランドも、全方位を意識していかなければならない時代に向かっているのだといえるでしょう。
キーワード④ありのままで勝負する
・アクトローカルなサステナビリティ
先ほどのKAFFEE FORM 同様、思想を大事に、ありのまま、等身大で活動を日々重ねていく、それをネットでも切り売りする。これは本当に素晴らしく、愛おしく、この人たちの本気はいつか束になって大手をひっくり返すくらいのパワーを持つ勢力になるのではと期待しています。
-楽ちんオーガニック瓶詰 FARM CANNING(ファームキャニング)
-No Plastic Japan(の〜ぷら )
これはほんの一例で、こういったサステナビリティを身近なところからきちんと固めて動き出している団体の動きは、絶対に見逃せません。
・買わせようとしないオンラインストア:わざわざ
わざわざの平田さんが「買うための動線」を無視してオンラインストアを運用しているのも完全に今の流れでしょう。いわゆるネットショップはこうあるべき、に翻弄されることなく、ひたすらポリシーに忠実に展開する潔い平田さんのお店。これできちんと売れていることは、小売業界の人にとっては希望でしかない。同時に、彼女ほど自分の店のことを考え尽くすことがマストになるという、難題でもあります。
・素直な自分のまま働くレストラン:らんどね
小売とは少し違いますが、こういうレストランも。“ありのまま”をゆったり楽しめる風潮は、間違いなく最近生まれてきた流れだと感じます。
藤田さん:忙しくなっても利用者さんは変わらず寝てたりするんです(笑)。もうちょっと急ごうぜ!みたいな(笑)。それに仕事中は楽しそうにしているけど、時間になったら1分たりとも残業せずに帰ってちゃんと休む。すごいですよね。そんな姿を見ていると、ほどほどに頑張るくらいが心地よいと気づかされて。学ぶことは本当にお互いあると思ってます。
キーワード⑤共生で盛り上がっていく
ライバルの他社を出しぬきどれだけ差をつけるか考えるのではなく、低迷する業界全体で伸びていくことを共生して取り組んでいこうとする流れも。
こういった考えの経営者が現れるのは、昭和、平成を経て、令和らしい。
Minimalとmeiji THE Chocolate
/BASE FOODと日清食品All-in PASTA
実際、山下氏が手掛けるBean to Barの領域には明治が「meiji THE Chocolate」で、橋本氏が手がける完全食には、日清食品グループが「All-in PASTA」で参入してきた。ハヤカワ氏もfeastを展開する中で、大手下着メーカーが同様の商品をリリースした経緯があるという。それぞれ、その危険性をどう回避してきたのか。数年前にこの状況を経験した山下氏は、大手の参入を基本的には前向きに捉えていると語る。
山下氏「100利あって、1害なしですね。我々の場合は、大手が参入したことで市場が必然的に大きくなりました。彼らが予算を投下し、マス広告を展開してくれることで、まだまだ認知の少ないBean to Barが多くの人に広がる。入り口は大手の商品になるかも知れませんが、そこからMinimalにたどり着いてくれる方も少なからずいらっしゃるんです」
ちょうどイベントの数週間前に大手の類似商品がリリースされた橋本氏は、山下氏の話に賛同した上で、「役割分担ができるとより良いのでは」と続ける。
橋本氏「スタートアップは0→1が、大手は1→10が得意な企業体です。であれば、お互いの得意領域をいかせるよう協力して役割分担をするのが、あるべき姿ではないでしょうか。
キーワードは、
「信頼」「ショートカット」「全方位」「ありのまま」「共生」
要するに、正直者がバカを見ない時代の到来!
ただし、もちろん容易ではない。
今後はより一層中途半端な存在は消えていく時代。消費者は、本当に賢く、感度が良く、色々わかってきている。求めるものの平均値が、上がってきている。顧客を舐めているところは、本当にやばい。一方で、いいものを作っているだけ、でも淘汰されていくでしょうから、ぼやぼやしていられません。身を引き締めいつも自分に「本質的かどうか」を問うべき時代になるのだと思います。
希望的な意味も込めて、今後の小売/卸/ブランドのこれからをこう見据えてみました。皆さんは、どう思いますか?