「地元には働きたいと思える会社がない」問題をどうするか?

地方創生と若者の流出問題:根本的な解決策を探る

地方創生を掲げる政府の施策は、これまでにも多くの議論を呼んできた。しかし、地方からの若者の流出は依然として深刻な問題である。若者が地元を離れるタイミングとしては、高校卒業時の進学、地元大学卒業後の就職、さらには地元企業で働いた後のキャリアアップを求めた転職の三つが挙げられる。この課題を本質的に解決するには、地方が持つ現状の限界を認識し、根本から魅力を再構築する必要がある。

地方の高等教育機関と進学問題

地方の大学への進学促進の現実は厳しい。多くの地方大学が定員充足に苦しみ、特に国立大学においては財政難が深刻化している。旧帝大ですら赤字経営に陥る例があり、現状の体制で学生をさらに受け入れる余裕はほとんどない。この状況では、若者が進学先として地方の大学を選ぶ可能性を大きく高めることは難しい。魅力的な教育環境の提供が必要だが、それには根本的な資源の再配分や政策の再設計が求められる。

就職環境の課題と支店経済の影響

地方における就職環境もまた、若者を引き留める上での大きな障壁となっている。多くの地方都市では、主要な産業が首都圏に本社を持つ企業の支社や代理店、下請けで構成されている。いわゆる「支店経済」である。この構造下では、仕事の魅力や給与水準は首都圏の親会社に軍配が上がり、地元でキャリアを築く魅力が薄れる傾向が強い。

一方で、地方にもグローバル規模の本社機能を持つ企業が存在する。例えば、トヨタやヤマハ、TOTOなどは地元に深く根付きながら、世界的な競争力を持つ企業として人材を全国、さらには世界から引き寄せている。しかし、こうした事例は少数派であり、地方全体に広がるわけではない。

地域ブランドの力と高付加価値ビジネス

若者を地方に定着させるためには、単なる大企業の誘致ではなく、地域発の高付加価値ブランドを創出することが不可欠である。たとえば、イタリアの新興ピアノブランド「ファツィオリ」は、世界中のピアニストが憧れるトップブランドであり、その本社は人口2万人の小さな町サチーレにある。こうした例は、大企業でなくとも高付加価値を生み出すビジネスが人を惹きつける力を持つことを示している。

九州においても、TSMCの半導体工場誘致で一時的に注目を集めているが、長期的な視点で見ると、大企業に依存した体質のままでは若者にとっての魅力ある都市にはなり得ない。地方発の独自ブランドや技術が求められる。

本質的な地方創生の方向性

地方が本当に若者にとって魅力的な場所となるためには、以下のポイントが重要だ。

教育機関の魅力化:財政支援や地域に根ざした独自の教育プログラムを開発し、地元で学ぶメリットを明確化する。
就職環境の改善:支店経済から脱却し、地元発の企業を育成する。地域の中小企業でも、高付加価値を生み出すビジネスができれば全国から人材を集めることが可能である。
地域ブランドの創出:小規模であっても、世界に誇れる製品やサービスを生み出す企業を支援し、地域全体の魅力を高める。

終わりに

政府が掲げる「地方創生2.0」は、単なる予算の増額だけではなく、本質的な施策の実行が求められる。地方で暮らし働くことが、単なる選択肢の一つではなく、魅力的な生き方と認識される未来を目指すべきだ。そのためには、地域が自らの強みを再認識し、世界規模のブランド創出に挑戦する努力が欠かせない。若者が「ここで生きたい」と思える地方の実現こそが、真の地方創生への道筋となるだろう。

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