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まもなくはわれわれが直面するかもしれない武力衝突について考えてみた

空母いぶき」という映画をご覧になりましたか? 西島秀俊さん、佐々木蔵之介さん、本田翼さんらが出演した、2019年5月公開の映画です。尖閣諸島が、中国人民解放軍海軍北海艦隊により侵攻されて、占領されるという、現実にありえそうな内容の軍事情勢を扱った、かわぐちかいじ作の漫画を原作とする実写映画です。

ただし、あまりにも政治的にセンシティブで、しかも日中関係が少しばかり改善に向かっていた時期でしたので、漫画の中での中国を、架空の国家共同体「東亜連邦」の名称に変更して、また尖閣諸島を「初島」という架空の島嶼名に変えています。それにより、ちょっと観ていてわかりにくく、緊張感が薄れてしまうデメリットもあり、映画作品それ自体としては一部の専門家から批判を受けているようです。やむをえなかったのでしょうね。

ただし、映像が圧倒的です。こちらの、映画作品のウェブサイトで是非、宣伝用の短いトレーラー動画をご覧下さい。実際の海洋を、悠々と巨大な日本の「空母」(護衛艦)が航行している様子、さらには実際に敵の攻撃を受けての武器使用を行う様子は、なかなか普段見ることができない光景ですので、それなりに衝撃的です。

この映画の、タイトルにもなっている、「空母いぶき」は、いうまでもなく、日本の海上自衛隊が保有する最大の自衛艦であり、また航空母艦として転用可能ということも長らくいわれてきました護衛艦いずもがモデルとなっています。

日本政府の立場は、「攻撃型空母」はもたない、ということで、あくまでも「ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)」というのが正式な艦級となっているようです。とはいえ、2018年の防衛大綱によって、「多用途防衛型空母」とする方向で発着甲板の改修が行われることになりましたので、よりいっそう実態が「空母」に近くなりました。ステルス型戦闘機で、第5世代のきわめて高性能であるF-35Bを搭載して垂直離陸できるようになれば、日本の防衛力は相当程度に高まることが期待されています。

映画の方ではすでに「空母」となっており、また艦上にはF35らしき戦闘機が多数搭載されていました。先回りして、漫画や映画では既に日本は、空母を保有しているのですね。第二次世界大戦中にも日本は空母を保有して、そこから真珠湾攻撃を行ったわけですから、技術的には空母を保有することは難しいことではありません。ともあれ、「空母いぶき」同様に、実際の「ヘリコプター搭載護衛艦いずも」もまた、大変に高性能な艦船といえます。

私は軍事オタクではなく(国際政治学者には異常にミリオタが多い)、またかわぐちかいじ氏の漫画も読んだことがないので、あまり詳しいことは分かりませんが、こちらの映画をアマゾン・プライムでつい先日、視聴しましたら、なんとも重たい気持ちになりました。というのも、映像があまりにもリアルだからです。

新聞報道などでも報じられていますが、最近は中国の海警の艦船が多数尖閣諸島周辺に来て、領海侵犯を繰り返し、日本の漁船に接近してそれに対してハラスメントのような尾行と威嚇を行っています。2月1日の海警法改正により、中国の海警は、人民解放軍の指令系統の一部に組み込まれて、また領海外での武器使用も許可されるようになりました。これは一般的な、海上保安庁のようなCoast Guardの運用とは異なり、とりわけ日本のような「平和主義」に浸かった、「警察的」な組織である海上保安庁では、もはや対応不可能になりつつあります。量的には、数が圧倒されつつあるのですが、高性能の武器を取り付けられた海警の大型船が武力による威嚇を繰り返せば、「ゲームチェンジャー」として、尖閣諸島の日本の実効支配は失われるのでしょう。

もしも、海保がプライドをかけて、全力で日本の領土と領海を守るために、尖閣諸島周辺での警戒監視活動によりいっそうの力を入れれば、いずれ中国の海警あるいは海軍の艦船と衝突する日は、遠くはありません。そのときには、場合によっては、現場の判断で、中国の海警船が武器使用をすることもあるでしょう。さて、そのときに日本が平和主義に浸かって、なされるがままにすれば、海保の船舶は中国の大型船に体当たりをされたり、武器による攻撃を受けて沈没するか、あるいは後ろに後退せざるを得ない状態に追い込まれるでしょう。これは決して特別なことではなくて、過去20年ほど、南シナ海で中国と海洋領土を争っていたフィリピンやベトナムが経験したことです。

「空母いぶき」の映画の中では、とにかく「東亜連邦」(中国)と武力衝突になるような事態を避けたい垂水慶一郎首相が、徹底して平和主義的で、非軍事的な対処に拘ります。このあたりは、実際に起こりそうなことですよね。それ以上の内容は、是非映画を観て頂ければと思いますが、実際に海上でどのようなことが起きていて、どのようなことがこれから置き得るのかについて、「イメージトレーニング」をするのも必要なことかも知れません。

実は私は、この映画のイメージがとてもリアルに感じるのです。というのも、十年近く前になりますが、陸上自衛隊の沖縄視察のプログラムに参加して、沖縄本島から石垣島まで自衛隊輸送機CH47Jに搭乗をさせて頂き、空路での移動中に尖閣諸島を目視したからです。東シナ海の、尖閣諸島までの距離、そしてその周辺海域の様子をヘリコプターから観たその光景は、とても突き刺さるものがありました。沖縄本島からも、中国大陸からだいぶ離れた海域にある尖閣諸島。この島をめぐり、まもなく、日中間で意図せぬ、あるいは意図しないかのように見せかけた計画的な武力衝突が起こる可能性が高まっているのです。

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それについては、たとえばRAND研究所研究員で、日米安保関係が専門のジェフリー・ホーナングが最近書いた論文、「アメリカと日本は中国との戦争に備えよ(The United States and Japan Should Prepare for War with China)」でも示唆されています。また私自身も、2月7日付の読売新聞のコラム「地球を読む」で、「歴史の分岐点 分断の潮流」と題して、中国が偶発的事故を見せかけた「満州事変」型の武力行使と勢力圏拡大を間もなく実行する可能性がある、と論じました。実際に、一部の安保専門家の間では、アメリカで政権移行期となり、またコロナ感染拡大で軍事力の遠征能力が低下している現在を好機と捉えて、中国が台湾領の東沙諸島、あるいは日本領の尖閣諸島をめぐり、現状変更を試みる可能性もあることが指摘されています。今年は中国の、共産党結党100周年です。全面戦争となるような危険は冒さないでしょうが、もしもリスクなく現状変更が可能と判断した際には、南シナ海でそのようにしたように、日本の領土、そしてその実効支配、施政権が失われる可能性は少なくありません。

他方で、日本の「空母いぶき」のモデルとなった、ヘリコプター搭載護衛艦、あるいは「多目的防衛型空母」である「自衛艦いずも」に一週間ほど乗船したことがあります。これは、日本政府がASEANと防衛協力について合意したビエンチャン・ビジョンに基づく「シップライダーズ・プログラム」という日・ASEAN防衛交流の一環としての、ASEAN諸国の軍関係者の乗船プログラムであり、一週間ほど南シナ海を航行しました。ホテルのような巨大な護衛艦。特に甲板は圧巻です。島々を眺めながら、日が沈む太陽を眺めながらの南シナ海航海はなかなか感動的でした。ASEAN諸国の軍の士官の方々も、日本の自衛隊の規律、装備の近代性、そして人びとの優しさに感激していました。私は、関係者に国際情勢の講義をしたり、あるいはASEANの軍関係者の方々との意見交換会に参加したりしました。当時の関連メディアの記事は、こちらでご覧頂けます。フェイスブックの関連の投稿もあります。米中の狭間で、戦略的に重要な位置にあるASEAN諸国の軍関係者とこのようなかたちで交流と相互信頼が深まることは、とても高い評価を受けました。


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陸軍や陸自の活動は、報道機関などを通じて目にする機会もあると思いますが、洋上勤務の場合は、われわれはその実態をなかなか目にすることができません。ですので、尖閣諸島周辺で、今何が起こっているのか、新聞の活字だけを追っていてもなかなか実感が湧きにくいのではないでしょうか。そういったときに、映像が持つ迫力はなにものにも代えがたいリアリティーがあり、映画などはそういった迫力を簡単に体験できます。

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今、東シナ海の現場で日本の領土や領海を守るために活動をしている海保と海事の船舶は、つねに危険と隣り合わせて、ギリギリの限界のところで毎日、警戒監視活動を行っています。それも、時間の経過とともに、日本がどんどんと不利になっていき、「体力勝負」では厳しさがましているのが現状です。近いうちに、「空母いぶき」の映画作品の中で起こったような現状変更を試みる行動が起こる可能性は高まっています。自衛隊法76条の防衛出動を行うためには、「計画的かつ組織的な侵攻」である必要があり、満州事変のような偶発的な事故を装った、また偽装漁民の様相で武器を用いて行動を起こされた場合には、それが中国という国家による組織的な軍事行動と認定しにくい状況となり、したがって自衛隊の防衛出動による武器使用ができないことを意味します。防衛出動に伴う自衛権発動がなければ、アメリカもまた集団的自衛権の発動による同盟国日本の領土を守るための軍事行動を起こせない可能性が高いと思います。

そうなれば、日本の領土は、どさくさに紛れて、失われることになるのです。

ぜひ、菅政権が、戦後はじめて防衛力を用いて領土を守ることができずに、領土が失われた政権となるようなことがないように、十分な「備え」と「抑止力」を示して欲しいと願っています。

※こちらで掲載した写真は、いずれも海上自衛隊護衛艦いずもの広報担当の方から許可されたものです。

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