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「スタートアップ倍増」施策の目的は?

政府は先日の統合イノベーション戦略推進会議の中で、国内スタートアップの企業数を倍増させる方針を示した。2024年までの5年で、現在の倍の2800社にするという計画だ。

政府が発表した資料類は下記のページにまとめられている。

その中で、スタートアップに関する計画の詳細が記された「資料4 Beyond Limits. Unlock Our Potential.」と題するPDFは下記にある。

こうした取り組みを政府が示すこと自体は良いことだと思うし、その点は素直に評価したい。その上で、いくつか気になったことを書いておきたい。

スタートアップを倍増させる目的は何か?

もちろん、スタートアップ企業が増え、日本の経済社会が活性化することには大賛成だ。ただ、その目的が政府の資料からははっきりとは見えてこない。

この戦略の目的、言い換えれば何を目指してこの戦略を遂行するのか、というところが少なくても資料からは抜け落ちていて、表紙の次にはいきなり「7つの戦略」が示されている。

我が国の、硬直化し生産性が落ちた既存産業のスクラップ&ビルドを図るのか、そういう企業の新陳代謝の中で人材の流動性を高めることなのか、あるいは優秀な人材に働きがいと大きなチャンスを用意して若年層の海外流失を防ぐのか、はたまた他の何かなのか。目的が明確であればこそ、何をすべきなのかがはっきりするのだが、それがないためにバスワードを並べた作文に見えてしまうのだとしたら、作成した官僚も浮かばれないだろう。

目的をはっきりさせたくないという意図でもあるのかと思ってしまうが、それゆえに、この戦略が玉虫色でシャープさを欠くものになってしまっていることは残念だ。

国内完結の施策なのか?

スタートアップを育成する国内拠点都市を応募から選抜する、という手法がとられるようだが、これは「SDG's 未来都市」の選抜でも用いられたやり方で、地方創生、ないしは生き残り自治体の選別に用いるのだろうか、という印象もなくはない。ユニコーンを5社以上排出するという目標が掲げられているが、もしそれが主眼であり主要KPIであるのなら、応募された複数の都市にリソースを分散して育成するよりも、1都市に集中して育成を図るべきであるように感じる。何しろ、日本ではこれまでに1社しかユニコーンが生まれておらず、そのノウハウもリソースも十分でない中で、それを分散させることとの整合性が、よく理解できない。


ユニコーンが生まれるために必要な「多産多死」と資金調達の問題

未上場で企業評価額が10億米ドルを超えるのが「ユニコーン」企業だが、これについては、少し前にも触れた。

資金調達額と企業評価額は別なものだが、ユニコーンになるということは通常相応の資金調達を伴うことになる。

この記事によれば、CVCを含むVCに流入する資金が増える一方、VCで出資を担当するベンチャーキャピタリストの供給が追いつかない中で、出資を受けたスタートアップ1社当たりの調達額が上がる一方、出資を受けるスタートアップの社数は減少するという事態が起きている。

一見、これは大型の資金調達を実現し、ユニコーン企業を生み出すことの可能性を開くようにも思える。しかし、スタートアップのエコシステムは「多産多死」型のモデルであり、まず数を産むことが重要だ。少数の企業を大きく育てることは最終段階でそこでユニコーンを生むことになるが、その前提として多くの企業が生まれ、ユニコーンにまで至らなくても準ユニコーンとでも言えるレベルに達する企業も一定の規模感を持つ、ピラミッド型の構成となるのが自然だ。その時に、ユニコーンに至る前の段階で出資を受けられるスタートアップの数が限られることは、中間に位置するスタートアップを細らせることになり、結果的にユニコーンの誕生を阻むことになるのではないか、ということが懸念される。誕生するスタートアップを倍増させる、ということは理にかなっているのだが、その先のユニコーン誕生に至る道が途中で途切れているように感じてしまう。Gap Fundの記述などはあるが技術開発型のスタートアップに関するもので、全体としてはこうした課題への対応も十分ではないように見える。

何より「英語でビジネス」するスキルの問題

そして、何より足りない、と思ったのが、英語への対応強化だ。この資料4のタイトルだけが他の資料と違って英語になっているが、内容において、どのように日本のスタートアップエコシステムを国際的に通用するものにするか、という視点が弱いのではないか。日本のスタートアップエコシステムに最も欠けていると感じるのは、英語を使ったビジネススキルなのだ。

海外から著名なアクセラレーターを呼んでくる、ということは含まれているが、そのプログラムを英語でやるのか、呼んでくるといっても「看板」だけで、そのスタッフが全員「現地(=日本)採用」の日本人ばかり、プログラムに参加するスタートアップも英語を使ってビジネスができない、ということになってしまうのか。それでは、ビジネスを海外にも展開して世界から資金を集め、(その是非はともかくとしても)ユニコーンを目指す、ということはおぼつかない。ビジネスに英語が通用しない今の日本の一般的な状況では、投資家がどんどん日本にやってくるということは考えにくく、必然的にスタートアップ側が外に出て行き資金調達をしていかなければならないだろうし、ビジネス自体も日本だけに閉じたものでユニコーンクラスの評価を受ける事業を生み出すより、世界の市場を相手にした方が選択肢は広がる。

ただ、言葉の問題である以上、数年で何かが劇的に改善する、ということは期待しにくい。そこが、政治家や官僚の任期とミスマッチを起こしていて、本当は必要だとわかっていても、自分の「手柄」にならないし、成果も目に見えにくいため、スタートアップに限らず「グローバル」という言葉だけは言われ続けた「失われた20年」に、失ったチャンスの一つが英語のスキルを伸ばすことだった。

翻って、20年前にはパリのちょっとした店ですらロクに英語が通じなかったフランスが、今では全て英語でスタートアップイベント「VIVA Technology」を開催している。

また、近いところでは韓国と並んで外国語教育に熱心と言われる台湾でも、英語でのスタートアップイベント「InnoVEX」が開催されて4年目を迎えた。

一方で、日本には、日本オリジナルで国際的に開かれた、つまりは英語をベースとして開催されるスタートアップイベントが存在しない。長らくスタートアップの世界に関わっている中で、違和感を覚え、残念に思っているのがそれだ。

日本でも、英語を使って世界中からスタートアップ人材はもとより投資家やアクセラレータなどエコシステム関わる全ての人を呼びこみつつ、日本の独自性・強みを活かした国際的なスタートアップイベントの開催を目指す。少し時間が足りないかもしれないが、それを2024年までに一定の規模とすることを目指すのも、野心的だが良い目標になるのではないだろうか。

そういう取り組みこそが「世界に伍するスタートアップ・エコシステム」を形成することになるし、その開催地が「拠点」となるなら、素晴らしいことではないか。

ともあれ、この政府の施策が日本にスタートアップが一層定着するきっかけの一つになるなら、とても好ましい。

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川端 康夫(アクティブビジョン株式会社 代表取締役)

アクティブビジョン株式会社 代表取締役。大手企業とスタートアップ企業双方の事業創造・成長のサポートを手がけ、短期的な戦略コンサルティングの後に必要となる、地に足のついた伴走型の戦術コンサルティングを手がける。 http://www.aktivevision.com

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