改めて確認する外貨準備のドル離れ~史上最低だった20年Q4のドル比率~
4月のnoteでは以下のように外貨準備に運用多様化の兆しがはっきり見て取れることを議論させて頂きました:
当時、これは話題になったテーマで以下のように記事にもなりました:
6月30日、IMFは四半期に一度のデータ改訂を行っており、2021年3月末までのデータが明らかになっています。今回はこれを議論してみたいと思います。
実は過去最低だった20年12月末のドル比率
6月30日にIMFから公表された外貨準備の構成通貨データ(COFER)は引き続き世界の金融当局における運用が「ドル離れ」に直面している事実を示唆するものでした。世界の外貨準備は2021年3月末で12兆5706億ドルと前期比▲1282億ドルと4期ぶりに減少しています。今年1~3月期と言えば、米金利とドルの騰勢が猛威を振るっていた時期で、期末と期初を比較すると米10年金利は0.90%から1.70%へ、名目実効ドル相場(NEER)は+1.8%と大幅に上昇していました。その分、非ドル通貨建ての外貨準備は価格効果もあって目減りした可能性が推測されます。なお、以下の記事は上半期の為替相場を上手くまとめてくれています。筆者もコメントさせて頂きました:
前期(2020年12月末)はドル比率が59.02%と1995年12月末 の58.96%以来、25年ぶりの低水準をつけたことが大いに話題となりました。これは冒頭のnoteでも議論した通りです。しかし、今回の発表によると2020年12月末の59.02%は58.94%へ下方修正されています。つまり、統計開始以来最低だったという話です。今期のドル比率はそこから+0.60%ポイントの59.54%まで戻していますが、それでも2020年12月末、1995年12月末に次いで過去3番目に低い水準にとどまっています。
今期のドル比率上昇はほぼユーロ比率下落と裏表です。今期のユーロ比率は前期比▲0.71%ポイントの20.57%まで落ち込んでいます(図表):
この間、ユーロ/ドル相場は1.22から1.18まで▲3%以上下落しているため、ユーロを積極的に売却するという数量要因ではなく、価格要因だけで比率が動いた可能性が疑われます。次に低下幅が大きかったのが円比率であり同▲0.15%ポイントの5.89%まで低下しています。ユーロ同様、この間のドル/円相場は+7%以上上昇(円は下落)しているので、やはり価格要因で比率が動いた可能性が高いでしょう。
片や、今回、比率を伸ばしているのは人民元とカナダドルでそれぞれ2.45%と2.11%で共に過去最高でした。この2通貨は今でこそ対ドルで上昇している通貨の代表格(年初~6月30日でそれぞれ+1.1%、+2.8%)ですが、1~3月期の人民元は対ドルで+0.3%とほぼ横ばいで、カナダドルは対ドルで▲1.3%と下落していました。つまり、これらの通貨は純粋に数量要因として買われた可能性があります。その後、4~6月期にこの2通貨は大幅上昇していることを考えると、中銀や財務省、政府系ファンド(SWF)といったリザーブプレーヤーの買いがその端緒になった可能性もあるでしょう。
明確に多様化しているリザーブマネーの配分先
とはいえ、上述はあくまで3か月間の話であって、四半世紀にわたってドル比率が低下してきたことは厳然たる事実です。リザーブマネーの運用多様化はやはり新たな潮流として認める必要があります。図はユーロ誕生以降の各通貨の比率を一覧したものですが、ドル比率は▲11%ポイント以上も低下しています。この低下はユーロ(+2.45%ポイント)、円(▲0.14%ポイント)、英ポンド(+1.96%ポイント)、スイスフラン(▲0.06%ポイント)といった伝統的な主要通貨の動きでは説明できず、最も比率を伸ばしている「その他」(+7.44%ポイント)の動きを考える必要があります:
ここで「その他」には1999年3月末時点では未公表だった豪ドル、カナダドル、人民元を含めていますが、2021年3月末時点でこの3通貨を合計すると6.38%ポイントです。これで説明できない2.74%ポイントはこの3通貨以外に配分されており、恐らくは1999年3月末時点ではゼロに近い比率だったと推測します。リザーブマネーの配分先は明確に多様化していると言えます。
着々と増える「ドル離れ」を助長しそうな動き
こうした動きを多様化と表せば前向きですが、要は「ドル離れ」です。これを予見させる動きは足許でも着々と増えています。例えば中国やユーロ圏、英国など中銀デジタル通貨(CBDC)の開発・発行を進めようとする動きは頻繁に報じられています。国際化への野望を感じます:
とりわけ中国がデジタル人民元の開発・導入を急ぐ背景には、依然として国際決済網が米国(ドル)に支配され、いざとなればそこから締め出す(資産凍結など)という切り札を米国が有していることへの対抗策とも言われます。これまで進められてきた「一帯一路」構想の参加国にデジタル人民元の利用を促すという報道も見られており、それに伴う「デジタル人民元経済圏」の構築、その先にある人民元国際化までを見据えた姿勢が伺えます。その道のりは平坦ではないでしょうが、やはりCOFERにおけるドル比率低下に寄与する可能性は相応にあるでしょう。
一方、ユーロ圏もデジタルユーロ開発に着手しており、それもドル比率低下に寄与する動きとして注目ですが、なんと言っても6月から発行・調達が始まった欧州復興債やそれを叩き台として恒久化が期待されるユーロ圏共同債の動きが世界の外貨準備運用にとって重要な話です。この点に関しては最近noteでも議論させて頂きました:
世界における「低金利の常態化」は「安全資産の不足」の結果でもあり、世界経済の成長が爆発的な伸びをここから実現できないのならば、そのような運用環境も大きく変わらない公算が大きいと言えます。そこまで展望した場合、欧州委員会が発行する債券への需要はやはり根強いと予想されます。「外貨準備としてのドル」は実質的に米国債を意味しますが、「外貨準備としてのユーロ」は唯一最高格付けを誇るドイツ国債とそれに準じるフランス国債くらいしかないのが現状です。詰まるところ、「外貨準備としてユーロを運用するにも受け皿がない」という状況が長らく続いてきたことを思えば、復興債やその延長線上に実現が期待されるユーロ圏共同債の誕生は四半世紀続く「ドル離れ」を助長するものとなりかねないように思います。
こうした目立つ動き以外にも、世界経済における米国経済のシェアが緩やかながら相対的に落ちることにともなって、「ドル以外の通貨建て資産でも保有しておこう」という動機は当然生まれやすいと考えられます。外貨準備資産の運用多様化はまだ始まったばかりだと思います。