女性の就業率があがると出生率があがるなんて嘘はもういい加減やめてほしい
女性活躍と少子化対策は表裏一体だ。ともに実現させるためにはもっと横断的で一貫した施策が要る。より構造的な問題にまで踏み込んでこそ解決の道筋が見える。
なんか、それこそまるで政治家の答弁みたいで、何か言っているようで実は何も言っていないのではないか?
ここで言う女性活躍的なものと少子化対策とは果たして本当に両立できることなのだろうか?
よく言われるのが、女性の就業率の向上と出生率とは正の相関があり、よって女性がより多く就業した方が子どもの数を増えるという論法だ。
これ、まさに「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」というものそのものだと思う。ここでの高い就業率の地方というのは、未だに農業が多く、農業はそれこそ夫婦共に稼ぐものだからだ。しかも、ここで示されている就業率は、子どもが産める年齢を考慮しない全年齢層だろう。当然、東北地方は高齢農家が多いので、それはこういうグラフになるだろうと思う。
そもそも、専業主婦(無業の妻の世帯)が多いのは東京はじめとした都市部エリアです。当然、都市部の方が圧倒的に人口が多いので、都道府県別に比較しても全国規模にすれば地方の率は吸収されます。都道府県で比較してもあまり意味はないのです。
以下のグラフのバブルの大きさは人数の多さです。
また、これも何度も言っているが、合計特殊出生率があまり意味がない指標になりつつあるということを忘れないでほしい。合計特殊出生率とは、一人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子供の数の平均を示すが、この分母には有配偶も未婚も区別しないで合算している。つまり、今の日本のように、未婚女性が増えれば増えるほど合計特殊出生率は下がるのですよ。追記すれば、一人当たりの母親が産む子どもの数は、第二次ベビーブーム時代と変わっていません。
東京は全国的に合計特殊出生率が最下位といわれているが、それは出生が少ないのではなく、未婚者が多いからだ。その証拠に人口千対の粗出生率においては、東京はむしろ上位に位置するし、絶対人口比からして、東京の出生数が日本の全出生の12%を占めているわけで、むしろ東京の出生こそが今の日本の出生を支えていると言っても過言ではない。
政府の言う女性活躍の本音というのは、有配偶女性の非正規雇用の拡大であって、フルタイム就業女性の増大ではないだろう。そして、実際その通りになっている。就業率が大幅に増えたのは、子育てが一段落した45歳以上の妻の就業率だからだ。
女性の就業と出生との関係を見るなら、平均初婚年齢周辺の25-34歳の女性の就業率と出生率との関係を見た方がわかりやすい。
出生率との相関係数でいえば、25-29歳は▲0.8743、30-34歳でも▲0.6738と強い負の相関がある。つまり、当該年齢の女性の就業率があがるほど出生率は下がるといえるのです。
女性活躍は、何も女性就業率率の向上だけを指しているわけではないことは承知しているが、だとしても、女性活躍と出生数増加とは明らかに相対立するものであり、両立できるという考え自体無理があると言わざるを得ない。
何か言っているようで、何も言っていないと批判したのはそういう点である。
もうひとつ。女性の就業率の増加は、明らかに女性の平均初婚年齢の高齢化とリンクしています。女性就業率があがれば晩婚化になるのは今に始まったことではなく、江戸時代でも同様のことが起きています。
何も「女性は働くべきではない」などとくだらないことを言ってるのではありません。相対立する女性活躍と少子化対策とを両立しようとする矛盾を指摘しているだけです。
それとこういうこと書くと必ず「私はちゃんと働いて、出産も子育ても両立している! 」と文句を言ってくる人もいるのですが、あなたはそうなんでしょう。でもあなたのようなスーパー能力のある人や恵まれた人ばかりではないので、残念ながら。文句言うなら統計くらい見ろよ。
女性活躍とか1億総活躍という言葉の裏に見え隠れするのは、1億総自助体制への布石なんだと思います。もう年金払えないです、社会保障無理です、配偶者控除もできません、生活保護も打ち切ります、自分の生活は自分たちでなんとかしてください的な本音が隠されているのでは?
夫婦共働き促進とか、家事育児の分担とか、女性にとって耳触りのいいことを言うのは、男女問わず非正規での社会進出を促進するためのものでしかないような気がします。
そもそも政府は、少子化対策なんて本気でできると思っていません。人口動態の基本的な知識があれば、本来第三次ベビーブームが起きるはずだった1990年代に何も起こらなかった歴史的事実だけで、もう二度と日本の出生率が2.0どころか希望出生率の1.8を超えることは理論上不可能だからです(厳密には、率の問題ではなく、出産可能女性の絶対人口の減少で出生の絶対人数が減るという意味です)。
官僚はバカじゃない。そんなことはわかってるし、政治家も承知している。しかし、その不都合な真実を国民の前に堂々と発表したら選挙の結果に影響するから言えないだけです。女性活躍も少子化対策もすべて茶番なんです。
批判ばっかりしてるけど、じゃあどうすんだよ?という声が聞こえてきますが、僕は政治家じゃないので知らないです、正直。だって、そもそも改善なんかされないのが現実なんだから。
ただ少なくともできもしない嘘を吐き続けて、問題を先送りするより、何ともならないことは何ともならないと認識したうえで、現実に即した対応をする方がよっぽど意味があると思っているだけです。
それは、少なくとも今生まれてきている子どもたちを、高齢者も含めた大勢の大人たちで支える社会を作るという視点転換です。もう高齢者は支えられる立場ではありません。支える側にならないといけない。存在しない未来の生産人口を当てにしないで、今いる人間で経済はまわしていかないといけない。そして、実際、65歳までの生産人口なんて概念から脱却して、年齢性別に限らず働ける人が働けない人を支えるという視点に変えれば、案外とやっていけるものです。試算した詳細はこちら。
その意味では、この記事にある池本美香氏の言葉の方が賛同できる。
「出生数ではなくどんな家庭環境の子どもでも幸せにするという目標が要る」
パートのおばちゃんの人口を増やして女性就業率があがったとか、お金をばらまいて地方の小さな町の出生率が少しあがりました、なんてマヤカシの施策はどうでもいいので、政府がやるべきはそういう個別最適化ではなく、国全体の経済や景気を上げることであり、人々がそれぞれの幸せのためにたくさん消費をするようになる世の中の空気を作ることです。経済が安定して、未来に不安を感じなくなれば、結婚したい若者は今よりは結婚できるようになるし、結婚した夫婦は今よりは子を産むようになるでしょう(結婚したくない人はそれはそれで一人の生活を楽しめばいい)。
30年間も平均給与があがっていない先進国なんて日本だけです。そっちの方がよっぽどおかしい。