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「バイアスの中和neutralize」 〜行動経済学や心理学を学ぶメリット

お疲れさまです。若宮です。

今日は「バイアスの中和」という話について書きたいとおもいます。


「バイアス」は、ジェンダーの問題でもよく話題になりますよね。その中でもとくに「アンコンシャスバイアス」は見えなくなっているため、とても難しい問題です。そんなバイアスを「中和」するにはどうしたらよいのでしょうか。


行動経済学のナッジ

「行動経済学」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?

行動経済学には「ナッジ」(ひじでつつく)という考え方があるのですが、小さな仕掛けで人の行動を変えることができるというので、最近注目されています。


以前、友人である行動経済学の専門家、竹林正樹博士がテレビ番組に出演した際の動画で、「夫婦円満のためのナッジ」というお話をされていました。(↓1分くらいの短い動画なのでぜひご覧になってから読み進めてください)

これは、夫婦間で大事な話をする際、いつもの食卓ではなく、ランチタイムにフランス料理を食べに行ってその場で話すことで、円満に話が進むというナッジです。僕はこのナッジの解説を聞いて、行動経済学や心理学の捉え方が少し変わりました。


「ナッジ」は人の気持ちや行動を操るマインドコントロール?

このナッジの一つの捉え方として、フランス料理のランチのような非日常の場所に行くことで、相手をテンションを上げてうまく乗せるというような印象もあります。

プロポーズなんかもよく「夜景の見える高級レストラン」とかフラッシュモブみたいなサプライズを仕掛けられたりすると思うのですが、個人的にはちょっとこの手のが苦手です(笑)

そういう感じにみると、行動経済学や心理学って人の心や行動を操る技術のようにも思えます。

例えばインターネットサービスやスマホアプリでも、行動経済学や心理学的なアプローチを用いて、人を引き付けたりエンゲージする仕掛けやデザインが日々試行錯誤されています。CTAボタンの工夫ひとつでクリック率が変わり売上が変わるからです。SNSのショート動画やソシャゲは中毒になるような工夫がめちゃくちゃ盛り込まれているので、子どもたちが依存症のようになってしまったりします。

(自分もSNSやサービスで日々何かしらこうした工夫をやってはいる身ではありますが)どことなく人が機械やサービスに支配される感じもあり、なんかモヤモヤします。

行動経済学は確かに便利かもしれませんが、「人の行動を誘導する」ことで本人の気持ちとはちがう行動をさせてしまう、マインドコントロールのようなところがあるのではとちょっと抵抗も感じていたんですよね。でもこの竹林さんの解説を聞いて、少し考えが変わりました。


ナッジで既存のバイアスを中和する

フレンチレストランでランチをする理由について、竹林さんはこんな風に解説しています。

何か変化が起こるような大事な話や新しいチャレンジについて相談したい時に普段の食卓で話をしがちです。しかし、仕事から疲れて帰ってきたあとで理性が働かなくなっている状態で、子供が寝静まった薄暗いリビングで、一人分だけ夕飯を温め直して話すと、変化やチャレンジをポジティブに受け止めるのはなかなか難しいところがあります。

疲れ切った状態でいつもの場所で話すと「現状維持」的なバイアスにとらわれてしまい、新しい変化やチャレンジに対して基本的に否定的になってしまう。

そこで、日常の食卓ではなくランチでフレンチレストランに行くことで、非日常的な状況に身を置くことができます。日常の環境からあえて出ることで「現状維持」のバイアスをキャンセルし、客観的な判断にできるようになるわけです。日常の食卓とフレンチレストランを比べると、前者の方が作為的でなくニュートラルな判断ができると考えがちですが、実際には日常にすでにバイアスがかかっている


気づかないバイアスが一番危険

こうしたこともアンコンシャスバイアスの典型だと思いますが、日常僕らは自分はニュートラルに判断できていると思い込んでいることが多いですよね。しかし実際には、バイアスがかかっている。

ジェンダーやダイバーシティに関してもこうしたことが結構あります。

よく「バイアスがない人はいない」という話をあえてするのですが、それは「私には偏見がない」と思っている人ほど、実は危険だったりするからです。無意識に偏見をもち、時に正義だと信じて差別を行ってしまっていたりする。どれだけ客観的に話しているつもりでも、環境や過去の経験・価値観によって人は何らかのバイアスを持っています。いわばベースが傾いている状態なので、そこで「ニュートラル」にいようとすると、かえってバイアスを追認したり再生産したりしてしまう。

(↓こんな感じですね)

↓のコラムより抜粋


なので、「中立neutral」というのはそのままにあればよい、という消極的態度だけではなく、環境を積極的に「中和neutrize」することも時には必要です。「いつもの食卓」のように元々バイアスがかかってしまう状況では、自らの考えや判断をしているつもりでも、バイアスに囚われてしまっているので、バイアスを中和する意識を持つことではじめて、フラットに思考や判断や行動ができるようになります。

ジェンダーやダイバーシティ、能力主義などでも「公平」とか「平等」について話される時、こうしたバイアスに囚われていることが多いように思います。本人はそれに気づかず「客観的」に「中立」に話しているつもりで、実はバイアスに無意識に支配されてしまっていてちゃんとした思考や判断ができていないケースがあります。


行動経済学や心理学はもちろん、誰かを洗脳する使い方もできるでしょう。毒にも薬にもなるというか、扱い方次第で、包丁のように便利にも使えますし、人を傷つけることもできるわけですね。

だからこそ大事なのは、包丁を使う時の危険性を理解し、正しい対処ができるようになることです。行動経済学や心理学を学び人間が陥りがちなバイアスを知ることで、それに気をつけることができ「バイアスを中和」することができます。また、マインドコントロールのように既存の価値観や「空気」につい操られたり支配されてしまわないためにも、その仕掛けやリスクを知っておくことは有効でしょう。

操るためではなく、操られたり囚われたりせずに思考したり行動できるように「バイアスを中和」するためのスキルとして行動経済学や心理学の知識を生かすのがよいのではないでしょうか。


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告知:
今回の記事もVoicyの配信を元にしていますが、Voicyではちょっと「バイアス」に関する連載を開始しました。一日ひとつバイアスを取り上げ、その理論を紹介しつつ日常に起こりそうな罠や対処法について考えていく連載です。↓が第一回なのでよかったら聴いてみていただき、番組フォローしてください!


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