「Z世代と米大統領選」を語る際に考慮すべき象徴的課題とは
「Z世代」をテーマとして扱う際に
「Z世代」にまつわる記事を最近多く見かけます。変化を求め、実際に声を上げ行動を起こし、上の世代の大人たちよりネットも活用し、「社会問題に関心が高い」と表現されるような場合がほとんどです。
しかし実際には、多様性、環境問題、ネット上で声を上げること、権力を疑うこと、メンタルヘルスを気遣うこと、これら「Z世代の特徴」と呼ばれるものは実はZ世代だけが持つ特権や特殊な価値観ではありません。大人たちは社会問題をZ世代に押し付け、Z世代をヒーロー扱いするのではなく、実際にこれらの価値観を取り入れて、行動することこそが必要なのです。
Z世代と政治について
さらに、「アメリカの政治とZ世代についての意見が聞きたいです」というお声掛けをいただくことが最近増えました。とてもありがたいことですし、ぜひ自分の感覚や経験をお話できたらと思いますが、「大統領選に対するZ世代の意見」というのはかなり対象層が広く、具体性に欠けた一般化をしてしまうことで個人が見えなくなる危険性があります。
「投票」という行為自体に多くの多様性や障壁がある上に今回の大統領選ではすでに大規模な不正が予想されていることより、「個人の声」を聞いて取り上げない限り、なかなか予測をしたり結果からZ世代の投票の動向を推測することは難しいです。現実的な感覚として、(1)バイデンにもトランプにも投票したくない(2)バイデンを支持しているわけではないがトランプを再選したくない(3)トランプの支持者 という3パターンに分かれているうち、Z世代は(2)がマジョリティでありながらも一定数の過激な(1)と(3)が同数くらいに存在している印象で、(1)はいわゆる「Z世代的価値観」に当てはまるのですが(3)は南部の保守派コミュニティに多く、世代はあまり関係ありません。
「Z世代と選挙」というと(1)ばかりが注目されますが、実際にはなかなか投票に行くモチベーションのない人が多いということも報じられており、社会構造上の「ブーマーやミレニアルのせいでツケが全てZ世代に回ってくる」という気持ちで選挙と向き合っているムードを感じます。
Z世代の象徴的課題とは何か
さらに、LGBTQや女性の権利、人種の多様性が祝福されるような社会になって来ているという風に見える一方で、マイノリティに対するヘイトクライムや差別、不平等な処遇はまだまだ残っているし、むしろトランプの大統領就任によってそれら差別や抑圧は今までより強く浮き彫りになりました。
SNSによって「声を上げ、社会を変える若者」が増えたように見えるけど、一方では若者のメンタルヘルス問題も深刻化しているし、陰謀論や保守的な思想を広める人も増えた。
コロナによって社会は大きく変化し、たくさんの試行錯誤の末のイノベーションが生まれたが、それらは社会を「平等」なものにはしてくれなかった。
広く、遠くまで繋がれたインターネットは虚無なものとなり、実際の人間の肌の触れ合いと言葉の交わし合いを欲するようになった。
個人主義だったアメリカの分裂は強く可視化され、「どのような社会に住みたいのか」という価値観を共有できる人々でコミュニティを形成するようになった。
経済危機の際にも、テロリズムの際にも、大人は助けてくれなかった。教育格差は広がり、質素な暮らしさえもできなくなった若者たちは、ウィルスに対して何もできない大人たちに対してもはや何の期待も抱かなくなった。
自分たちが信じるもの、自分たちにとって大切なものを守るために何ができるのか、どのようにしたら自分たちの声が届けられるのか、社会をどのように「変化」させ、社会の中でどのように個人が「変化」できるのか、ということが米国大統領選において、そして今後のZ世代の象徴的課題になりそうです。
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