「少子化対策」の財源を考える
自民党・甘利明氏、政府保有のNTT株「20年など長期で売却」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
各種報道資料等に基づけば、少子化対策に必要な規模は年3兆円台半ばとなっています。そして、その財源は、歳出改革などによる確保を原則として2028年度までに捻出としながら、その不足分はこども特例公債や社会保険料上乗せの「支援金」制度が検討されることになっています。
しかし、少子化対策として子育て支援を充実させても、その財源ねん出のために一方で国民に過度な負担増を強いれば、子育て世帯以外の可処分所得抑制→生涯未婚率の更なる上昇→出生率の更なる低下、といった悪循環により、むしろ少子化に拍車がかかり、本末転倒になるとの見方もあります。
少子化対策の財源を考える上では、2017年の「骨太の方針」のテーマの一つに掲げられた教育無償化の議論が参考になります。というのも、当時の自民党内では「恒久的な教育財源確保に関する特命チーム」が発足し、その中では、「国債発行」「増税」「消費税率引き上げ分の財源化」「こども保険」の4案が議論されていたからです。
そこで以下では、それぞれを少子化対策の財源として考えた場合の課題について検討してみましょう。
まず、「国債発行」については、将来への負担先送りを通じて財政規律が緩むことが課題とされます。しかし、国債購入して資金を出すのは現存世代であり、国債発行による資金調達は世代間の貸し借りではなく同一世代の資金移転となります。このため、特例法の制定を経ずに発行が認められる建設国債と同等の扱いが可能となるような「こども国債」的なものが発行できれば「国債発行」は最も有効な財源の一つとなるでしょう。
また、消費税率5%→10%に引き上げられた際に、財政健全化に充当することになった部分からの捻出も有効でしょう。これに対しても財政規律が緩むことが課題とされますが、当初の想定を上回る消費税収上振れを勘案すれば、財政規律が緩むことにはならず、消費増税の財政赤字削減分も有効な財源の一つとなるでしょう。
ただ、経済が長期停滞から脱して、金融政策によって生産活動を潜在水準に維持できるような状況になった段階で政府債務が依然として大きければ、政府債務の縮小を重視した純粋財政アプローチが望ましくなり、「増税」や「社会保険料負担増」による財源確保が正当化されることになるでしょう。
しかし、日本経済が長期停滞から脱して金融緩和の余地が作れるような状況、すなわちGDPギャップが+4%程度になるまでは、政府は機能的財政アプローチにより未来への投資的経費としての国債発行や、消費増税の財政赤字削減分を少子化対策の財源とすべきでしょう。そして、金融緩和が機能する状況になった暁には、純粋財政アプローチにより、マクロ経済の安定化に十分配慮した上で、少子化対策の財源を「増税」や「社会保険料負担増」に徐々にシフトしていくというのが最も現実的な対応といえるでしょう。