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未来予測が難しい5つの理由。「未来を予測すること」ではなく、「あらゆるシナリオに備え、描く未来を作り出すこと」に意味がある。

皆さん、こんにちは。今回は「未来予測」について書かせていただきます。

これまでの常識が通用しないVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代がきたと言われて数年が経ちました。

世界規模で異常気象が発生し、大規模な自然災害が増加するなど、気候変動問題も深刻化する中、カーボンニュートラルの実現に向けて世界的に脱炭素の機運も高まっています。ロシアのウクライナ侵攻などの地政学リスクに加え、エネルギー安定供給確保に向けた対策の強化などGX(グリーントランスフォーメーション)に向けた脱炭素投資の成否が、国や企業の競争力を左右する時代になっています。さらに、人的資本などの非財務情報に注目が集まる中、長期視点での企業のレジリエンスが重要視されてきていることは明らかです。

2024年、新年早々、能登半島地震や羽田空港での航空機衝突事故など不運な自然災害や事故も続きました。

このように不確実性が高まる中で「未来をしっかり予測すること」の重要性はますます高まっています。未来を先読みしていれば、変化に柔軟に対応していく力も高まるため、様々な事象が現実的に間近で起こる可能性を常に頭に入れておくべきなのです。

不確実性に翻弄されることなくリスクや変化を常に想定しておくことや、未来を想像した上で戦略設計に反映しておくことが必要不可欠になっている今、どのように未来を洞察し、予測を立て、中長期の経営計画を立てていくべきなのでしょうか。

未来の予測や洞察に取り組む企業が増えている。未来社会を先読みする活動を通じて、事業のアイデアを出したり、会社組織を変化に強くしたりする狙いだ。これまでのやり方がすぐに陳腐化してしまうVUCA(ブーカ=変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代が到来し、経営者の問題意識が高まっていることが背景にある。

■なぜ未来予測が難しいのか

そもそも、未来を予測する理由としては、

  • リスクを低減させたい

  • 利益を最大化させたい

という2点です。未来にどのようなことが可能性として起こり得るかを知っておけば、リスクを最低限に抑えることができ、かつ、未来の状況を見通していれば、いち早く潜在的に存在するマーケットニーズを把握し新規事業や新規プロダクト開発に生かせるからです。
ただ、実際には未来を予測することは非常に難しいことです。その理由として、以下のようなものが考えられます。

①今の延長線上に未来があると考えている人が多いから。
→未来を予測する際、今の延長線上で想定されることを複数パターン考えているケースが圧倒的に多いです。ただ実際には全く描いていなかった想定外の出来事が起こることが度々あります。それが、未来予測が難しい大きな理由の一つではないかと思います。
 
②未来を予測するだけの全ての情報を把握するのが難しいから。
→自社、競合他社、同業界、他業界、日本、世界など、複雑で膨大な情報を把握し、それぞれの分野における専門的な知識や知見をもとに分析するには、量的にもリソース的にも能力的も難しいことが多いというのが実態です。
 
③短期的に都合の良い情報ばかりにヒントを求めてしまうから。
→通常は、既にある事業計画やロードマップに沿って思考することが多いため、そこから外れた知識や情報は無意識的に排除してしまう癖がついてしまっています。誰もが自分にとって都合の良い情報を正しいと思ってしまいがちです。
 
④どうしても「こうなってほしい」という願望が先に来てしまうから。
→社内メンバーで長期戦略を立てると、メンバーの多くは責任感や当事者意識から、既存の枠組みに捉われない自由な発想がしにくいことが多々あります。こうなってほしい、こうなるべきといった、顧客や上司などの期待に沿えるような方向性で未来を予測してしまいがちです。
 
⑤一度策定した戦略に固執してしまうから。
→苦労して立てた長期計画や戦略を「あとは実行していくだけ」というフェーズの時に、改めて未来を予測し新規の戦略に落とすことは、なかなか気が重い作業です。完璧な未来予測はできないので、仮に10年間の計画を立てたとしても、毎年継続的に見直していくことが大事であって、過去の戦略に固執し過ぎないように注意しなければなりません。


このように、「未来予測をうまくできない」「未来への備えが仕組みとして機能していない」という悩みを抱えている企業は多いと思いますが、具体的にどのようなステップやプロセスを踏めば良いか、考えていきます。

■未来を予測するために必要なステップとは

引用した記事には、以下のような方法論が紹介されていました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1163J0R11C23A2000000/


不確実な未来に対して戦略的に対応するためには、「情報収集」→「分析」→「シナリオ作成」→「戦略立案」→「戦略実行」というサイクルを迅速に回す必要があります。

こちらの図のプロセスに当てはめると、

①   情報収集=「変化を収集する」
②   分析=「変化の影響を想定する」
③   シナリオ作成=「代替的未来を探索する」
④   戦略立案=「ありうる未来を描く」
⑤   戦略実行=「変化に向けた行動を起こす」


というようなイメージです。①と②においては、現在の大きな潮流を捉え、どのような要因によってそれが形成されているかを知ることから始まります。テクノロジーの変化や国際情勢なども踏まえながら、多角的にあらゆる個々の要素を把握し、自社の外部環境の考察から始めなくてはなりません。「なぜその事象が起きているのか」「今後どのような変化を遂げていくのか」、仮設を立て、ファクトを集め、それを検証していく作業が大事なのです。

そして④の戦略立案に向けて、③にある通り、起こり得る複数の未来のシナリオを作成し、それを環境の変化に応じて軌道修正しながら、それぞれに対する戦略を策定していきます。(※シナリオの修正に応じて戦略も連動させて修正することが大事。)

未来のシナリオを作成する際には、従来の、過去や現在から未来を予測する「フォアキャスト型」の発想ではなく、まだ現実になっていない未来から今を振り返る「バックキャスト型」の発想で思考する方法が良いとされています。知らない、または気づいていない未来から強制的に発想し、未来の可能性を“探索”していくのです。

未来のイメージを持ち、そこから逆算して戦略を立てることの最大のメリットは、現在の延長線上ではない戦略を立てられる点です。
変化は確実に起こります。過去の経験や実績だけをベースに戦略を立てていると、不連続で急激な変化には対応することができません。

10年後や20年後の遠い未来像を描き、そこから、では2年後はどうなるのか、5年後はどうなるのかを予測していくことが極めて有効です。

■重要なのは未来予測を立てて終わりにしないこと

前述した通り、未来予測をする際、

  • 「トレンドの分析」・・・政治、経済、技術、社会、環境など様々な領域における現在のトレンドを理解し、それがどの方向に向かっているのかを把握する。

  • 「過去のパターンの考察」・・・歴史的な事例や過去の出来事からパターンを研究し、類似の状況が起こる可能性や、それらが未来にどのような影響を与えるかを想像しておく。

  • 「データの活用」・・・利用可能なデータを分析して傾向を把握することはもちろん、あらゆる外部要因がどのように変化していくかを予測に組み込む。

  • 「社外のエキスパートの意見の有効活用」・・・各業界に精通した経営者や専門家の意見を参考に、様々な意見を集約した上で自社の向かっていく方向付けを行う。

  • 「複数シナリオに対しての準備」・・・起こり得る複数のシナリオに対して、どのようなアクションを取るべきか準備をしておく。

  • 「継続的な学習と情報収集」・・・一度予測して終わりではなく、継続して新しい情報や変化をキャッチアップし、精度を常に高めておく。

などのポイントを抑えることが重要です。

あらゆる規制や地政学リスク、市場展望や人口動態、テクノロジーの変化、競合企業の動向などを織り込み未来を予測する必要がありますが、大事なことは未来を的確に予測し、見事的中させることではありません長期的な視点を持って自社の立ち位置や世の中に提供できる価値を考えた時に、人材をどのように生かし、今からどのような対策をしていくべきか具体的なアクションを決め、粛々と遂行していくことが何より重要です。

記事には、

日本企業が陥りがちなのは、作って満足し、作ったら終わりになってしまうことだ。

とあります。未来予測や未来洞察をして終わりにするのではなく、その後に立てたアクションプランを企業全体で推進することが重要なのです。

未来予測は確定的なものではなく、不確実性が伴います。より深い洞察ができるようになるコツはあるかもしれませんが、絶対的な正確さを追求することに大きな意味はないと理解しておくこともまた大事です。

また、事業環境変化の不確実性や複雑性が増大する中、企業経営を行う上での「想定外」をできるだけなくすことも重要です。長期のシナリオからの中期のとるべきアクションを考えることは、想定外を潰し込みつつアクションに落とし込む上では欠かせません。特に、テクノロジーの指数関数的な変化を5年10年のスパンで予測することは非常に困難なため、社会、経済、技術などのメガトレンドをベースに未来予測しながら、大きな事業環境の変化を健全な危機意識をもとに「経営課題」だと認識することから始めるべきだと思います。


中には、未来予測にそんなに手間はかけられないと感じる経営者も多いかもしれません。しかし、未来を読み違えることは、経営戦略も根本から誤ってしまうことにつながります。その誤った戦略をそのまま実行していくことで、会社の存続すら危ぶまれてしまうのです。

あらゆる変化に直面してから解決策を模索するのではなく、世の中の変化と流れを読み解き、その一歩先の打ち手を示すとともに、先んじてリスクに対処する仕組みを構築する必要があります。
「これまでの成功モデルが続かなくなるとしたら」「競合が価格競争を仕掛けてきたら」など、もしこうなったらどうするかという発想を持ち、経営にインパクトがあるものを洗い出す習慣や仕組みを持つことが大事であることは明白です。

未来予測や洞察、データ収集や定期的なモニタリングを行う専門部署を設置している企業もありますが、うまくいっている企業は、未来予測に纏わる情報を部門横断でブリッジさせることができています。データをもとに緻密に未来の変化を察知し、次なるトレンドを捉え、それがもたらす影響度を予測するような枠組みを持っているだけでなく、事業戦略やシナリオ策定を継続的に行うことで、大きな変化に動じずに対応していくことが可能となるのです。その際、これから来るであろう未来を予測する能力するだけでなく、自ら望む未来を作り出す能力こそが問われていくはずです。

よく「先見の明がある」とか「洞察力がある」と評価される人がいますが、それは「未来を予測できる」こととイコールではないと思います。未来予測には、世の中を眺めて見えてくることやあらゆる情報を見聞きしたことに加えて、こんな未来にしたい、こんな未来がくるのではないかという“意思”が必要です。

「見えてくるものをそのまま見る」ことにも一定の価値がありますが、「見えてきたことをもとに意思を持って未来を作り出す」ことにこそ、“予測”の意味があるのではないでしょうか

テクノロジーの急速な発展によって広範な分野でイノベーションが期待されている今、新しい技術やプロダクトが次々と生まれ、トレンドが度々変わっていきますが、自らがどの分野に身を置くべきなのか、産業の方向性を決めるような動きを自発的に起こしていけるような人材を育成していくことが、各企業に求められているのではないかと思います。



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