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景気回復を阻む過剰な不安や感染対策 安心材料には何が必要か?

 新型コロナウイルスが日本に上陸してはや9ヶ月が経過しました。当初はコロナウイルスは風邪の原因ウイルスの一つであり、重症度もSARSやMERSと比べて低かったことから、感染症専門医は一般的な呼吸器感染症としての概念と対策を予想していたことは確かであったと思います。しかしながら様々な症例が報告されるにつれて専門知識と経験を次々と覆すような新たな事実もわかってきました。まだまだ解明されていないことが多く、感染者が収束に向かう兆しがみられない状況下で明確な方向性を予測することは困難ではありますが、景気刺激策を打ち出すにはやはり「過剰に恐れず正しく恐れる」「過剰な感染対策は最小限にとどめる」ことの重要性はますます問われてくるのではないかと考えます。そんな時にこのような記事を見つけ、賛同するところが多々ありましたので私も自論を記事にしてみようと思いました。

国内でコロナによる感染症は、ほかの肺炎と同じように「治せる病気」になってきた。国立国際医療研究センターの調査によると、6月6日から9月4日までの2276の入院症例中、死亡したケースは33例で、70歳未満に限ると1例しかない。ならば、感染者ゼロはもう目指さない。足元で全国の感染者数は1日500人前後で推移しており、これを一定数以下にコントロールできているとし、よしとする。あくまでゼロを目指すなら、人々はまだ対策が十分でないと不安に駆られ、それによってまた、失われかねない命もでてくるだろう。

 私のところは無床診療所ですので入院するような重症の方は来られませんが、3月頃から東京都認定医療機関として多くの患者さんを拝見してきました。当初はどのような症状があるのか、どの程度の感染力があるのかなどわからないことだらけの中での診療でしたので、自らの感染やスタッフへの感染にはとても気を遣いました。この頃は現在のように、国民の間で手指衛生やユニバーサルマスキングがほとんど習慣化されていない状況でしたのと、夜の街での感染が大々的に報道されたこともあり、問診で確かなことをお話しいただけない方も多く、どこで感染したのかわからない場合も多かったように思います。しかしその後のフォローも含めて重症事例はなく、定期的に受診して下さるようになった方もおられます。

 しかし最近では、多くの方が手指衛生とユニバーサルマスキングを習慣化していることから、検査で陽性となった患者さんの聞き取りでは、ほぼすべての方がマスクなしでの会話の機会(ほとんどが会食)があったと回答されます。また保健所から濃厚接触者としてご紹介されてこられる無症状の方も同様のエピソードがあり、そのうちの半数程度の方が陽性となっています。これはアメリカ・トランプ大統領の報道映像をご覧になればよくおわかりになると思いますが、感染するリスク、させるリスクは、感染者とのお互いマスクなしでの会話によるもの、すなわち至近距離での飛沫感染であることがほとんどであることがわかってきました(それに加え、性交渉などで唾液を介するような濃厚接触による感染リスクについては検証が少ない現状ですが、私見ではその可能性は大いにあると考えていますし、当たり前ですが報道されることも全くありません)。その一方で「満員電車に乗って咳をしている人がいた」「近くで咳をしている人がいた」「面会した人が感染者だった」「同じ職場に陽性者がいた」などの理由で保健所からは濃厚接触者に当たらないと言われたが検査を希望されてこられる方も何人もおられますが、濃厚接触者には当たらないと考えられる自らの心配で来られた方でこれまで陽性になった方は一人もおられません。従って例外はあるにしても、基本的な対策がしっかりと取れていれば感染するリスクはきわめて低いと考えられます。もしマスクをしていても感染リスクが高いのであれば、毎日至近距離で感染者と接している私はとっくに感染しているようにも思います(ちなみに抗体検査は陰性です)。

景気刺激策にもかかわらず、経済の先行きが見通せないのは、コロナに対する底知れぬ不安を抱く人が今なお、たくさんいるからだ。日本総合研究所チーフエコノミストの松村秀樹氏は「過度な恐怖が国民心理の萎縮を招き、経済に大きなダメージになっている」とみる。

 「過度な恐怖からくる経済活動再開への弊害」を打破するために検査の拡充を提言するという意見も少なくはありません。私はグローバル化に向けての水際対策や大規模イベント再開に対しての検査の拡充は大いに行うべきと考えます。その一方で「検査を受けることの安心感」は一部の方の過度な恐怖を払拭する一つの手段となるかもしれませんが、「検査陽性=他人へ感染させる」わけではなく(すでに感染力がなくなっている場合もあります)「検査陰性=気を緩めても良い」(まだウイルスが増殖する前段階や検体量不足などの場合もあります)わけではありません。「陰性でも気を緩めることはしません」と言われますが、それなら検査はせずともこれまで同様に気を緩めなければ(=最低限の対策をしていれば)他の人に感染させる可能性はほとんどないと思うのですが・・。これまでの報告からも、多くの無症状検査陽性者は濃厚接触でもしない限り他の人へは感染させてはいません。ではどうしたら過度な恐怖を払拭できるのでしょうか?まだまだ議論の余地は残されています。

 今月に入ってコロナの話題を専門家を出演させて長時間取り上げるメディアがだいぶ少なくなりました(オファーもいきなり減りました)。またSNSなどの発信を見ると多くの方も毎日の感染者数の報告を冷静に分析しているようにも思えます。感染者ゼロを目指すことではなく、「ウィズコロナ」のスタンスがニューノーマルに浸透していくことを期待しますが、そのためには、コロナ診療現場の生情報の提供が大変重要であると考えますので、微力ながら発信し続けたいと思っております。

#日経COMEMO #NIKKEI

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