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ミドル層が停滞している企業は成長が鈍化する?能力を生かし切る“役割”セットと“配置”が再生のカギ。

皆さん、こんにちは。今回は「ミドル層の生かし方」について書かせていただきます。

企業が成長し続けていくためには、若手からミドル層、ベテラン層に至るまで、あらゆる年齢、属性、スキルや経験を持った人材がそれぞれ能力を発揮してもらわなければなりません。特に、労働力人口の約半分が40代~60代となるというデータもあり、この層の活性化をどのように図っていくかは多くの企業にとっての経営課題の一つではないかと思います。

一般的には、「若手が活躍しやすい会社」もあれば、「ある程度年齢を重ねた人が活躍しやすい会社」もあると思います。比較的平均年齢が低い当社(社員の平均年齢が33歳)においては、「若手のうちから活躍しやすい会社」として認知いただくことも多いのですが、創業期と比べると仕事の複雑性や難易度が格段に上がったことで、「若手ではハンドリングが難しい案件」や「ミドル層やベテラン層の経験が生きる案件」が確実に増えてきました。

不確実性が高く先行き不透明な今の時代において、組織と個人が生き抜くためには、今後もますますミドル層活性化の重要性は高まっていくでしょう。

あらゆる企業にとって、重要な戦力となるミドル層を、どのように活性化し、どのようにパフォーマンスを高めてもらうかを考えることは、全ての企業にとって避けては通れないことではないでしょうか。

40代から50代前半の「中年」は労働力人口の3分の1を占め、組織の屋台骨を支える世代だ。日本経済新聞が「中年が幸せな企業」を調査すると、業績堅調な大手が上位に並んだ。企業の持続的な成長には中年の活性化が欠かせない。一段の活躍を促すには、中年が「充実感」「主役感」「安心感」を感じられる職場づくりが重要だ。

■なぜ、ミドル層の活躍が企業成長に不可欠なのか

こちらの記事に、

企業は初任給を上げ、配属先まで若者の希望をかなえるようになった。シニアに対しては定年を延長し、再雇用後の年収も上げている。ところでいまだに取り残されている世代はないだろうか。
就職氷河期世代は今や中年と呼ばれる年齢に達した。苦労して入った会社では年功序列が崩れ、上の世代よりもポストが減った。賃金は長く上がらなかった。リクルートの2023年の調査によると、働く喜びを感じる割合は40代が全世代で最も低く、4割を切る

とある通り、働く喜びを感じる割合が極端に低いのが40代くらいのミドル層。組織の中間層の「やる気の低下」や「会社へのぶら下がり感」が出てきてしまうとチームや組織全体に悪影響が出ることは間違いありませんが、その層の活躍を後押しすることが企業成長に必要不可欠な理由を、以下の通り挙げてみます。

●企業の中でミドル・シニア層のボリュームが大きくなっていくから。
→人生100年時代と言われる中、一人ひとりのキャリアは長期化しています。定年延長や再雇用制度の導入、または定年制の廃止など、雇用する社員の年齢を引き上げる企業も出始めていますが、そうなるとミドル層・シニア層のボリュームはどんどん大きくなっていき、この層の活躍状況が企業成長を左右するといっても過言ではありません。だからこそ企業はこの層の活躍を促し、組織の中核を担ってもらわなければならないのです。

●ミドル層、かつマネジメントに携わる人こそ、あらゆる負担が大きくなり離脱リスクが高まっているから。
→ミドルマネジメント層の負担が増大し、精神的にも肉体的にも余裕がない状態でマネジメントを余儀なくされているのが現状です。このままミドル層に必要以上に負荷をかけ続けると、キャリア形成に対する意欲や組織へのロイヤリティが低下し、離脱リスクが高まってしまいます。ミドル層に寄り添った課題解決、戦略設計、人材育成の仕組みが必要です。

●ミドル層のモチベーション低下やパフォーマンス低下を止めないと、若手世代の閉塞感や停滞感も生み出してしまうから。
→年齢とともに挑戦機会や成長機会そのものが減少し、意欲の低下が認められる一方で、年功序列により年齢が高い社員ほど給与が高いというアンバランスな状態が発生します。そうなると、若い人から見ると「働かない好待遇のミドル層・シニア層」が滞留しているように見え、閉塞感や停滞感につながってしまうのです。

●ミドル層にこそ、自律的なキャリア形成が求められているから。
→ミドル層になると、それまで積み上げてきたキャリアや自分のやり方に固執する傾向が強まっていきがちです。「今までこのやり方で成功してきた」「自分に合っていない方法では失敗する」などと、頑なに新しい領域に踏み込もうとしない人も少なくないはずです。変化が激しい情勢において、変化を拒む人が増えてしまうと、業績や企業の経営状況にも悪影響を及ぼします。変化に適応しながら自律的、かつ主体的にキャリアを形成し、達成感や充実感を得ながらイキイキと働けるミドル層が増えて会社全体の変化対応力が高まると、経営戦略上、変革が必要なタイミングで舵を切りやすくもなります。そして組織の変革や大きな変化のタイミングは、個人の新しいチャレンジを多く生み出す絶好の機会にもなります。

●ミドル層こそが戦略の実行における重要な役割を担っているから。
→経営戦略を策定後、実際に具体的な行動計画に落とし込み、現場で実行する役割を果たしていくのがミドル層です。現場での実践をリードしたり、経営層と現場の従業員との間のコミュニケーションの橋渡しをしたり、問題を迅速に察知し適切な解決策を見つけていくのもミドル層であることが多いです。さらに、部下の育成やイノベーションの推進においても大きな役割を果たしており、ミドル層の活躍は企業全体のパフォーマンスや競争力に直結するため、彼らの役割の重要性は非常に高いです。
 
記事によると、ミドル層が幸せに働く企業は、ROEもPBRも高く、業績も好調な企業が多いそうです。企業の中核を担っている世代が元気で活力があることが、企業成長を実現するための重要な要素と言えるのではないでしょうか。

■ミドル層の活躍を後押しするために必要な要素

冒頭で引用した記事の中には、

●主体的に学び、挑戦できる充実感
●企業成長の一旦を担う主役感
●心身の健康を維持できる安心感

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC28BEA0Y4A620C2000000/

の3つがミドル層を活性化するために必要とありました。他にも企業が意識すべきポイントを挙げてみます。

1、成長機会
●ミドル層自ら決断する機会が十分あるか
●新しいことに挑戦する機会が十分あるか
●新しいスキルや経験を習得・活用できる環境を整えているか

2、キャリア形成
●キャリアを主体的に作っていける風土や事例があるか
●ミドル層へのフィードバックの機会を作れているか
●ミドル層が自分に不足している点を理解し改善に向けて動く環境があるか

3、貢献実感
●ミドル層が企業の成長に貢献している実感を持ちやすいか
●ミドル層の役割の大きさ、期待値の大きさ、影響度の大きさが十分か
●企業の成長に必要不可欠な人材であると期待や信頼を伝えられているか

4、適材適所
●各々の能力を引き出すための役割をセットできているか
●今の配置において、能力に対してジョブサイズが小さくないか
●今の配置において、発揮すべき能力と仕事内容が合致しているか

5、エンゲージメント
●社員の熱量が高い状態を維持できているか
●ミドル層が「自分たちの世代が次の時代を作っていく」という使命感を持てているか
●ミドル層が「次の世代を育てていこう」という世代継承性があるか

6、心理的安全性
●仕事に集中するために障害となっていることを取り除くサポートができているか
●挑戦した結果、失敗した場合のフォローアップ体制が十分か
●後ろ向きなキャリア選択(消去法)ではなく、前向きなキャリア選択をアシストできているか

この中でも、ミドル層だからこそ発揮できる「経験」「知識」「勘」「人脈」「リーダーシップ」「メンターシップ」「戦略性」「問題解決力」などを生かした“適材適所”になっているかどうかを定期的にチェックしていく仕組みが最も重要ではないかと思います。能力を生かし切る役割セットと配置こそが、ミドル層の活躍の場を広げるための最重要テーマだと考えています。

全てのミドル層の社員に対して、最適なポストを与えられることが一番良いのですが、ポストだけを無駄に増やすわけにもいかず、また、一度重要なポストに登用しても、状況によってはポストオフしなければならない時期に直面することもあります。

つい最近のことですが、先日、当社の中で初の試みとして「ポスト版あした会議」というものを実施しました。
「あした会議」とは、当社が長きにわたって実施している大きな会議体(会社の未来を創るという意味で“あした会議”)ですが、今回は「ポスト」の創出にフォーカスをし、
①   重要なポストを新たに“クリエイト”する
②   既存のポストの“洗い出し”をする
ことによって、社員の抜擢や重要なミッションセットなど、若手やミドル層を中心とした人材育成につなげる目的で開催をしました。(※この取り組み自体はポストを生み出して終わりとするのではなく、この後に人とポストをマッチングさせていくフェーズに突入していきます。)
 
非常に独特な取り組みですが、「ポスト創出」に経営幹部の時間を割いてまで向き合ったことに一定の意味があると思っていて、経営戦略上必要な最適なポストを作り、最適な人を配置し、最適なミッションをセットし、最大限能力を思う存分発揮してもらうという取り組みは、業績に直結するだけでなく、中期的な企業価値向上にもつながるのではないかと確信しています。

■ミドル層の活躍を推進するために企業の人事がすべきこと

社員の中長期にわたる活躍を推進するために企業の人事がすべきは、経営層を巻き込みながら、競合優位性を高めるための施策を長期的な視点を持ってしっかりと実行していくことです。以下の通り、ポイントを4つ挙げます。

1、全社的な評価制度/報酬制度に不具合がないか確認する
→若手社員の早期離脱も会社に与えるダメージは大きいですが、あらゆる経験を身に着けて組織の中核へと成長したミドル層が抜けてしまうことの影響度はそれ以上に大きいです。ミドル層のモチベーション低下や退職などにつながりやすいような要素、たとえば「他社の給与体系との乖離が大きい(他社の同年齢の方が圧倒的に好条件)」「年齢を重ねると期待値が高まる(当たり前の水準が上がる)分、評価されにくくなる」などの実態がないかをよくチェックする必要があります。制度自体をブラッシュアップすると決めた場合においても、制度の再設計で終わらずに、それが組織全体に浸透するまでにやり切ることが何より大事です。あらゆる制度の「見直し」はしていても、それを「実行しきる」ところに手がまわっていない人事は多いかもしれません。

2、新しい視点や学びを導入する
→ミドル層の長期的なキャリア形成をサポートしていくためには、社内で座学を中心とした、研修などの育成施策を実行するだけでは不十分です。社員一人ひとりのキャリア意識に対して刺激や気づきを与え、実際に変化をもたらすために、社外のエキスパートとの接点や多様な経験を持つ人との交流による、新しい“視点”や“学び”を取り入れることが重要です。部署や会社の垣根を越えて、個人や組織にとって必要な要素を積極的に取り入れようとする姿勢こそが、ミドル層に求められるはずです。

3、ビジョンや目標を共有するだけでなく、権限も同時に委譲する
→ミドル層が企業の方向性や向かっていく先を理解することで、現場への指示やサポートに一貫性が生まれます。経営戦略はもちろん、会社全体のビジョンや目標をミドル層にしっかりと伝え、彼らがそれを理解し共感を得るような仕組みや風土醸成も必要です。と同時に、ミドル層に対して適切な権限を委譲し、意思決定の自由度を持たせることも重要です。そうすることで、彼らが主体的に判断し、行動できるようになります。自由度を渡すということは、その分責任も生まれるということですが、ミドル層の“自由”と“責任”をセットで適切に提供することが、企業成長の秘訣ではないかと思います。

4、ファクトデータをもって、キャリア資産を可視化する
→ミドル層に限らず、人間は自分の見たいように物事を見て、自分の捉えたいように物事を捉えてしまいます。客観的にこれまでのキャリアを通じて得たスキルや人脈、能力や経験などを数値化・ファクト化されると、初めて正しくメタ認知できるようになり、不足している能力を補おうとしたり、将来的に必要な経験を自発的に積もうとするなど、具体的な行動につながるはずです。経験を豊富に積めば積むほど、それまで身に着けた能力やセンスや勘で仕事をこなしていけることも増える分、ついついチャレンジすることが億劫になったり、変化対応力が低下していきがちですが、不足している能力や新たに身に着ける必要のある能力を具体的な数値で示すことは、本人だけでなく、育成責任のある上司側にとっても重要な配置やミッションセットなどの意思決定材料にもなり得ます
 
このように、企業の経営層や人事は、これらの取り組みを通してスポットの育成施策で終わることなく、ミドル層の具体的な行動変容に至るまで継続的な支援をし続けることが大事であり、社員に寄り添いながら伴走し続けていくことで初めて効果を実感することができるのではないかと思います。 

若年層のキャリア支援と、ミドル層のキャリア支援は確実に異なります。若手社員向けが「組織内や社内の様々な経験を通して、自分に足りない視点や能力を開発していく取り組み」だとすると、ミドル層向けには、より「組織外や社外にも目を向けて、自分に足りない視点や能力を取り入れていく取り組み」も必要です。
 
また、企業によって実態が異なる前提ですが、たとえば20代~30代前半の若手社員向けには、キャリア開発のための人事育成施策が厚く整備されているものの、30代後半~40代にかけては、研修制度などが薄くなり、キャリアを考える機会そのものから遠ざかる期間が一定期間どうしても生じてしまう企業が多いという印象を持っています。そのような場面で、自分の能力を生かせる仕事に関わることでの「挑戦実感」「成長実感」、チームや組織、会社、顧客、社会に対する「貢献実感」、そしてそれらを実現するために不可欠な「安心感」などを企業側が適切に与えられるかどうかが、ミドル層の活躍を推進する上でのカギとなるのではないでしょうか。
 

#日経COMEMO #NIKKEI

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