新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症やコロナワクチンについては、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

感染症法の壁はあまりにも高すぎる

 新型コロナウイルス感染防止のために国民の行動が制約されるようになって2年が経過しました。大きな流行の波が来るたびに緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置などの対策が取られてきましたが、発生当初に比べてその効果は目に見えるものではなくなり、全く効果がないとは言い切れませんが少なくともデメリットの方が目立っているようにも感じます。その背景にあるのは法律のもとで就業制限、外出自粛、入院勧告などを知事が住民に対して発令されるところであり、社会全体からみて流行の波を抑え込む手段でもあるわけです。その一方で、積極的疫学調査や感染者の健康観察など感染者に最も近いところで感染拡大防止に尽力しているのは、我々診療する医師以上に地域の保健所に従事する方々であり、感染者が増加すれば業務量も莫大になることは周知の事実です。実際に感染症法の位置づけの見直しは昨年検討に入ったところではありましたが、第5波により滞ってしまった状況です。

 感染症法は感染力や致死率によって疾病をランク分けして対応を変えていますが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症は「新型インフルエンザ等感染症」(*2類でも指定感染症でもありません)であり、ウイルス性出血熱などが分類されている1類感染症以上の権限も行使できる位置づけとなっています。最近では濃厚接触者の隔離期間の短縮に関する議論もなされましたが、昨年8月に岸田総理は自身の経験を語っておられます。

自民党の岸田文雄前政調会長は18日、コロナの特性や感染症法の法的な問題について勉強会を開いた。「ゼロコロナはない。ウィズコロナの社会を考えないといけない」と周囲に語る。岸田氏は7月に家族が感染し、保健所に濃厚接触者と認定された。PCR検査では陰性だったが、14日間自宅待機を余儀なくされた。2週間もの行動制限は多くの健康な社会人にとって仕事や家庭生活への影響が大きい。
感染が拡大しても重症化リスクが低いのであれば、公衆衛生の厳格な措置は必要性が少なくなる。田村憲久厚労相は7月9日の記者会見で「コロナの感染症法上の位置づけをどうするか当然考えていかないといけない」と表明した。ところが7月21日、厚労省内の勉強会では「インフルエンザほど軽くないし、はしかの(ような対処の)道筋も見えない」との説明があった。菅義偉首相は17日の記者会見で「現在、隔離などの感染対策は十分にする必要がある」と法的扱いの変更について否定した。同時に「一連の対応を総括する中で、そうしたことも考えていく必要がある」との認識も示した。

 それでは5類相当に見直すことへの問題点はどこにあるのでしょうか?5類感染症には全ての医師が全ての患者の発生について届出を行う「全数把握」が24疾患あり、診断した医師は7日以内に(侵襲性髄膜炎菌感染症、風しん及び麻しんは直ちに)保健所を通して知事に届出をしなければなりません。季節性インフルエンザは5類感染症ですが、指定した医療機関が届出を行う「定点把握」であり週単位で届出するものとなります。定点把握は他にも小児科定点、眼科定点、性感染症定点、基幹定点などがあります。同類に位置付けられてる季節性インフルエンザの致死率は0.02~0.03%で新型コロナの1.4%よりずっと低く、麻しんは0.1~0.2%とされているものの子どもの予防接種率は全都道府県で9割台に達するなど同等とはみなされないという見解もあるようです。5類相当では保健所が感染者の把握、入院措置や外出自粛の要求ができなくなり、感染拡大につながることが懸念され、医療費の自己負担が発生することも感染者にとってはデメリットとなります。さらに海外での流行を受けて入国時の隔離や停留を求める水際措置を講じることもなくなるという見解も然りでしょう。

 ただ本当にそのような状況になるのでしょうか?最も危惧されるのは保健所が行っている疫学調査や入院調整などがなくなることによる感染拡大ということになるでしょうが、感染者が急増した場合は保健所だけすべてを行うことは不可能であることは第5波の時に経験していることですし、その際に疫学調査が行われなかったことが感染拡大の主たる原因ではないと考えます。当時、保健所の業務が逼迫して自宅療養者への対応が間に合わず、入院できないまま亡くなる人も出てしまったことから、現場の医療機関が協力して電話や往診などによる健康観察、接触者の対応などを行うようになったはずです。

 ところで私自身は、2020年2月頃から疑い患者さんの診療を行ってきましたが「何か困ったことがある場合には連絡をするように」との指示を出し、入院が必要と考えられる患者さんには自ら基幹病院に連絡をし、事業所や学校で感染者が出た場合には聞き取り調査をして接触者の検査を自院で行ったりと、保健所が行っている業務の一部を担ってきました。もちろん、これまでの経験とスキルがあるからこそできる業務であると言われればそれまでですが、少なくとも検査を含めて新型コロナの患者さんを診療している医師であれば難しい業務ではないと考えますし、わからなければ地域の医師会などで勉強会を開くなど、意欲があるかどうかの問題ではないかとも思います。しかし法律上の「新型インフルエンザ等感染症」が大きな壁となり、これらの業務ができない理由、あるいは行わない言い訳にもなっているのが現状とも言えます。

 昨年末に内服薬(モルヌピラビル)が特例承認され、来月には別の内服薬も承認される見通しです。地域の診療所でも戦える武器が増えてくる状況でありながら「検査で陽性になったらあとは保健所におまかせ!」ではいつまでたっても医療逼迫が起こる状況はかわらないのではないでしょうか。昨日も家族で陽性者が出た方からどうしたら良いかとの相談を受けましたが、診察医からは「保健所の指示を待つように」と言われたようです。しかし現状でそれを待っていたらおそらく数日は連絡が来ないかもしれませんし、待っている間にその家族の症状もなくなり、誰も検査をすることなく何事もなかったかのように日常生活に戻るか、ウイルスを保有していた場合に他の人にうつしてしまうか、こんな曖昧な状況が続くことになるでしょう。ちなみにこの方を含めたご家族全員は濃厚接触者として当院で検査をすることにしました。保健所の指示を待つべきであると指摘される方もおられると思いますが、私からみると保健所の指示もすべて正しいとは思えないのです。このようなことが日常茶飯事であるにもかかわらず法律上は「新型インフルエンザ等感染症」のままなのです。いつまでもこのままで大丈夫なのでしょうか。

#日経COMEMO #NIKKEI

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!