それでも資本主義は続く
日経電子版の大型連載「逆境の資本主義」。
一区切りとなる第9回のキーワードは「民主主義」です。
「資本主義の逆境の根底を探ると、民主主義のありように行き着く」という問題意識です。いち早く資本主義を開花させたイギリスで18世紀に起こった産業革命の歴史的な経緯からも、自由や多様性といった民主主義の価値観が資本主義を育んできたといえるからです。
香港とアメリカの異変
資本主義と民主主義。上手に二人三脚をしていれば問題ないのですが、呼吸が乱れるとギクシャクします。
資本主義が行き過ぎれば格差を招いて平等が危うくなり、民主主義が揺らげばポピュリズムを招いて市場原理に反した保護主義を生む。私たちが目にしているのは、両者のきしみが共振する世界だ。(本編記事より)
本編では「デモが続く香港」「トランプ政権下のアメリカ」の異変ともいえる状況が明快なデータとともに例示されています。
資本主義の優等生ともいわれた香港から、自由を求めて逃げ出す人が急増している一方、かつて多様性の象徴だったアメリカは人材の吸引力が低下しています。香港とアメリカを起点とする新たな人の流れは、民主主義の価値観が脅かされ、経済の基盤すら危うくなりかねない現実を映し出しています。
▶「そもそも」が知りたい方はこちら
「ポピュリズム(大衆迎合主義)」って何?
「香港デモ」どうして起こった?
識者はこうみる
社会思想が専門の京都大学名誉教授・佐伯啓思氏は「世界経済が底上げされない現在はただのパイの奪い合い。いまのアメリカと中国を筆頭に国家単位の競争が激しくなっており、これは自由貿易体制というより新帝国主義の状況だ」と指摘。「アメリカ型の経済学が世界で支配的になりすぎている」点を問題視し、「成長の形は一つではない」として、その国ごとの経済システムに合った成長の形を追うべきだと主張しています。
ニューヨーク大学経営大学院教授のアルン・スンドララジャン氏は、中国型の経済システムが機能している点から「資本主義と民主主義は共存する必要はない」とみる一方、「資本主義の適切な管理に民主主義の力が必要」と説いています。格差の拡大に対しては「民主主義の発展で平等への志向が生まれ、万人に最低限のリターンを保証しようとする動きが働きやすくなる」と民主主義の効用を述べています。
「見えざる手」を「見える化」
今後、資本主義はどうなるのか。どうあるべきか。その手掛かりとして、記事の最後でAIによる未来図が導き出されます。
近代経済学の父、アダム・スミスが「見えざる手」と表現した、経済や社会の原動力がAIによって「見える化」されたといってもよいでしょう。そこから浮かび上がったキーワードは……
資本主義と民主主義――とても大きなテーマですが、決して私たちから遠く離れた世界の問題ではありません。その課題と将来を考えることは、私たちの生きているこの社会の課題と将来、それはとりもなおさず私たち自身の課題と将来を考えることにつながります。
この連載シリーズが一つの道しるべとなれば幸いです。
「逆境の資本主義」まとめ読みはこちら
ビジュアルでわかりやすいグラフィックが豊富な本編と、多くの識者が登場するインタビューをまとめて読めます。
(日本経済新聞社デジタル編成ユニット 澤田敏昌)