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候補者が求める『裁量』—企業はどう対応すべきか?

26新卒就活もサマーインターンの時期が終わり、本選考の期間に入りました。新卒や中途の場で企業選びの方向性(就活の軸)を質問する企業は多いですが、その回答の一つに「裁量がある企業」というのがあります。業種を問わず転職理由として待遇とともに数えられることが多いです。

「裁量がある企業が良い」と言われた時に歓迎する企業もあれば、難色を示す企業もあります。そして私が最近観測し始めた真逆の『裁量』を口にする候補者もいます。この『裁量』とは何なのかについて整理していきます。


一般的な企業と候補者が思う『裁量』

一般的な企業が「うちには裁量があります」という場合、大なり小なりの意思決定について個人の権限で意思決定できるという意味合いがあります。多くの場合、そこまでの裁量は持てないので、「施策などの意思決定について意見ができ、合意があれば加味されやすい」くらいの着地です。

また候補者の言う「裁量を持って仕事をしたい」というものも、「施策について意見をし、事業を自分ごととして捉えて運営したい」という人は少なく、「言われたことだけをやるような受発注の関係は避けたい」というくらいの温度感の人が多いことに注意が必要です。

一般的に『裁量』はすぐに貰えない

組織に即座に圧倒的なイノベーションをもたらすことを期待されている給与も経歴も輝かしいCxOクラスは別として、普通の新卒や中途転職者が入社後すぐに裁量を貰えるということは一般的には少なく、オンボーディング期間が必要なことが多いです。

手順を踏み、低めのゴールを企業と協力しながら達成し、その実績を持って『裁量』を得る方が、お互いにとって良いでしょう。このnoteや書籍でも紹介しているクイックウィンのように、入社後1, 3, 6ヶ月といった短期での目標設定を行い、その達成に対して企業も本人も達成していくということをお勧めしています。

リアルに『裁量』がある会社は覚悟が必要であり、今何かに全力でない人はまず厳しい

スタートアップやベンチャーでは「施策について意見をし、事業を自分ごととして捉えて運営してもらわないと困る」というところがあります。大きく2つの傾向があります。

1つは新卒中心に文化形成されており、地頭がよく元気な新卒があちこちにぶつかりながら邁進していくことで事業が拡大している企業です。

もう1つは人がいないので「あなたがやらないで誰がやるんですか」という状況のスタートアップです。このケースはセクショナリズムを嫌います。ややお金のあるスタートアップはハロー効果のある外資IT出身者が転職することが多々ありますが、ジョブディスクリプション以外のことをすると訴えられるリスクがあるような外資ITから来た人が入社すると、うまくアンラーニングできずに早期退職になることが多いです。

どちらのパターンの企業にも関わっていますが、総じて、今何かに全力でない人が入社するにはリスクがあります。特に「今、頑張れていないのは環境のせいだ。環境を変えれば頑張ることができるはずだ。次に入社するところは成長環境に入りたい」などと他責思考で考える方が入社すると、すぐに転職をするか、良くても裁量を発揮する他社員の決定に基づいて履行するだけの社員になります。後者については当初の想定とは違うものの、案外不満を言いながらも残る人がそれなりに確認できるので、それでも良いのかなとは思います。

類似の事象として、「自身のジョブディスクリプションに関わらず何でもやってほしい」というただそれだけの意味合いなのに、「プロダクト志向」と丸める組織については違和感を覚えるところです。

面接の場で観察されるようになった、180度違う方向の『裁量』

ここまでお話してきた『裁量』は、多かれ少なかれ事業へのコミットありきの話です。事業への興味共感を求める企業であれば、歓迎して良い水準でしょう。

ただ、ここに来て180度違う『裁量』が見られるようになりました。与えられた仕事に関して自分の労働時間を制限されずに働きたいという意味のものです。

初めて聞いた時、しばらく理解が追いつきませんでしたが、残業時間がない方向で適用された裁量労働制のようなことだと理解しました。そうした働き方をしたいという意味では、必ずしも誤用とは言えず、悪意もないように思います。

Xの就活アフィリエイターが何かインプットしているのかとも思いましたが、軽く調べた範囲では見つかりませんでした。YouTubeに何かあるのかもしれませんが、「自分の裁量で自由な働き方」というコンテンツがありましたが、再生数が100を切っているので影響はなさそうです。他にあるのかも知れませんが、多すぎて調べきれてはいません。

残業時間が0から∞まで広く存在する裁量労働制の玉石混交具合の方が問題なのではないかと考えるようになりました。(個人的には酷い目にあったことがあるので裁量労働制はお勧めしません。)

多様化する『裁量』

企業・候補者の双方が不幸にならないように

「裁量がある」という言葉には程度問題があるだけでなく、その真逆の意味も持つようになってきました。スタートアップやベンチャー企業への志望理由として「裁量があるところを探しているから能動的な態度に期待して合格にしよう」という単純なものではなくなりました。

候補者に対してはどの程度の『裁量』を求めているのか、企業に対してはどの程度の『裁量』を渡してもらえるのかといったことを、双方丁寧に確認しなければならないと言えます。

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久松剛/IT百物語の蒐集家
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