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SNSでの拡散に頼るメディア運営が難しい時代に、組織や個人のメディア運営や情報発信の際に気をつけるべきことは?

米新興メディアの苦境が深まっているとして、今年に入ってからヴァイス・メディアが経営破綻し、バズフィードは報道部門(バズフィード・ニュース)を閉鎖したことが話題になってます。読者のSNSへの接し方が変化したこと、そしてFacebookやTwitterのプラットフォームそのものがパブリッシャーとの関係性やアルゴリズムが変容してきたことで、インターネットの拡散力に頼った事業モデルは転機を迎えている、という指摘もされています。

英オックスフォード大学が22年に公表した報告書によると、米国でSNSを通じてニュースに接する人の割合は同年に42%となり、17年より9ポイント低下した。報告書は「ネットにはコンテンツが無数にあり、ニュースへの関心が下がった可能性がある」と指摘する。

5/28 日本経済新聞
Overview and key findings of the 2022 Digital News Report [2022/6/15 Reuters Institute for the Study of Journalism]

メディア業界の専門サイトであるプレスガゼットがSNSのデータ分析会社のChartbeat社のデータを元に分析した記事によると、世界の1,350のウェブメディアの読者・視聴者のうち、SNSや検索サービスからの流入が大きく減少していることが伺えます。
フェイスブックの場合は2018年初めの27%から11%(23年4月)に低下しています。

Facebook referral traffic to news sites: How it has plunged [5/4 Press Gaazette]

ツイッターの場合は特に小規模なパブリッシャーが大きな影響を受けているようで、Chartbeatのサンプルに含まれる486の小規模パブリッシャー(1日のページビューが10,000未満のパブリッシャー)に対する今年4月のページビューの数はわずか186,930で、2018年4月の1,010万ページビューから98%減少した、と報じられてます。

Twitter referral traffic for publishers: Five-year decline for platform [5/25 Press Gazette]

ドメイン単位でデータを取得できるSimilarwebによると(デスクトップからのアクセスの場合)、多くのニュースサイトへのTwitterトラフィックが激減していることが伺えます。調査した25の英語圏のパブリッシャー全体で、2021年4月から2023年4月までの2年間の平均減少率は30%とのことです。イーロン・マスク氏がTwitterの買収を完了させた2022年9月(買収の前月)から2023年4月までの間に、Twitter経由の流入は平均29%減少したとも報じられてます。

Twitter referral traffic for publishers: Five-year decline for platform [5/25 Press Gazette]

大きなニュースになっているのが米国の新興メディア企業や大手メディアであることから、こうしたトレンドは海外で起きていること、という印象が強いかもしれません。が、国内のメディア企業、そして規模の小さなメディア、そして更には、組織や個人としてオンラインコンテンツを配信している多くの人にとっても、対岸の火事ではなく、もっと注意を払うべきなのでは、と一連の報道を見て強く感じます。

国内においては圧倒的なトラフィックを持つYahoo!やニュースキュレーションアプリに記事を配信したり、国内では歴史的にツイッターでニュースが拡散されやすい傾向があったこともあり、海外で起きている「大変革」の重要度が十分に伝わってないのでは、という気がします。

SNS頼りだけでなく、読者との関係性を構築しエンゲージメントを高めるための施策として、国内外でニュースレター、ポッドキャストに力を入れているメディアも数多くあります。また、TikTokやYouTube等の(短尺)動画を活用するケース、SEO対策に今まで以上に力を入れる等、独自性のある優れたコンテンツ作成に力を入れることは大前提としても、メディアの特徴に応じて様々な試行錯誤を高速で進めていくことが求められていくことと思います。

大手メディアの運営と異なり、個人や小さな規模でのメディア運用の場合はビジネスモデルとして広告、サブスクリプション、コマース等、持続可能性を持たせるビジネスモデルを考える上で多くの収益獲得の選択肢(ツール)が利用可能になりつつあります。

今後ChatGPTに代表される生成AIにより多くの人が検索の仕方を変えることで、従来のSEO(サーチエンジン最適化)による流入が減少するということはすぐに直接的な影響はあるとは思いません。が、今後徐々に大きな変化をもたらすことは疑いのないこととのように思われます。

また、生成AIツールを活用することでビジネスモデル構築のためのリサーチやアイディア出しを行うことが可能です。サイトのアクセスや競合分析ツール等を活用することで国内外問わず成功や失敗事例をタイムリーに学習し、日々のメディア運営に活かしていくことが今後とても重要になることと思います。


バズフィードニュースの創刊編集長で現在は新興ニュースメディアSemaFor Semaforの共同設立者として活躍しているベン・スミス氏による著書「Traffic: Genius, Rivalry, and Delusion in the Billion-Dollar Race to Go Viral (トラフィック:天才、ライバル、そして妄想が渦巻く10億ドル規模の「バイラル」競争 )」という著書がちょうど今月上旬に出版されました。200年代後半のオバマキャンペーンを通じて米民主党の未来と希望と高揚感の中でソーシャルメディアとメディアの蜜月が始まり、その後トランプ当選を生み出し、フェイクニュースや憎悪でメディアや社会を分断に陥れた経緯が詳しく描かれているそうです。「バイラルメディアの時代の終焉」からの次の1手を考える際、バイラルメディアの時代の歴史をこうした書籍を通じて学ぶことで、ヒントが得られるかもしれません。私もまだ読んでないのですがAI翻訳ツールを活用しながらぜひ読んでみたいと思います。

またニュースレターやSmaret Brevity(スマートな簡潔さ)を売りに堅調に成長を続けている新興メディアAxiosの共同創業者もこのタイミングで「メディアの未来」と題したコラムを掲載しています。「直接的な関係」や「メールの受信トレイのプラットフォームの進化」等、とても示唆に富む未来予測がまとめられています。

cover image: Canva


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市川裕康 (メディアコンサルタント)
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