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アパレル業界を席巻するスタッフスタートに見る「DXの本当の意味」とは


DX(デジタルトランスフォーメーション)は、アナログなものをゼロにしてそれらを「中抜き」するのではない。そうではなく、DXはアナログなものの価値をデジタルによって再構築するのです。

店舗スタッフの評価を数値化する試み

好例をひとつ挙げましょう。アパレル業界でいまをときめくSTAFF START(スタッフスタート)というサービスがあります。バニッシュ・スタンダードという国内企業が提供しているもので、店舗スタッフが自分をモデルにしたコーディネート写真をECサイトなどに投稿でき、その写真経由で商品が購入されると、店舗スタッフの評価が上がるしくみになっています。

店舗スタッフの強みというのは、第一にコーディネートを提案できること。第二に、その提案をお客さんに魅力的に伝えられること。しかし従来のECサイトでは、この二つの強みを持ち込むことはできませんでした。

ところがスタッフスタートが普及したことで、店舗スタッフはECサイトで自分のコーディネートをお客さんに見てもらうことが可能になったのです。しかも「そのコーディネート写真を見てどのぐらい商品が売れたのか」という計測つきで。

LINEとの連携で店舗スタッフは「動画EC」になる

スタッフスタートはLINEとの提携も始めています。LINE STAFF STARTという新サービスで、お客さんはLINE上でお気に入りの店舗スタッフから商品やコーディネートのアドバイスを個人的に受けられる。これは中国などで爆発的に拡大している動画ECと店舗スタッフの強みを重ね合わせたような方向といえます。

スタッフスタートのようなサービスが定着すれば、店舗スタッフは「中抜き」されるどころか、逆にネット時代だからこそのパワーを持つことができるようになる。スタッフスタートは「スタッフ・オブ・ザ・イヤー」というアワードを開催しており、ECでの売上に加えてコーディネート写真やスタッフ本人への「いいね」数、インスタグラムなど外部SNSでのフォロワー数などを合算して上位者を選んできます。トップクラスの店舗スタッフになると、ひとりで月間一千万円近くも売り上げるすごい人もいるそうです。

「スタッフ・オブ・ザ・イヤー」の公式サイトを見ると、トップクラスの店舗スタッフさんたちの世界がどんなものかを垣間見ることができます。

「中抜き」ではなく、人の価値の再構築

スタッフスタートが実現しているのは、店舗スタッフの人たちをECで「中抜き」するのではなく、逆に彼ら彼女らの価値を再構築し、ECと融合させるという新たな地平です。これこそがまさにDX。

前に日立製作所フェローの矢野和男さんと対談させていただいた時、同社で開発した加速度センサーや通信機能などを搭載したウェアラブルデバイス「ハピネス・メーター」を使うと、従業員が業務にどのような貢献をしているのかという隠れた功績が可視化できるという話をうかがいました。

ハピネス・メーターを日立のたくさんの従業員に常時身につけてもらう実験を行い、従業員同士がどのようにオフィスで会ったり話したりし、どのぐらい身体を動かしているかによって、それらのデータと各チームの業績の上下との相関を見る。すると直接のチームの成果には関係なさそうに見える人でも、チームのメンバーたちと頻繁に接触していることで、チーム全体の売上向上に寄与しているケースがあるということがわかったのだそうです。

これも、従来は目に見えなかった人のパワーをAIで可視化し、「中抜き」するのではなくその人の価値を再構築しているケースと言えるでしょう。

書店など他の分野にも広がってほしい

こういう試みはこれから増えていくと思います。たとえばリアル書店は日本でも、AmazonのようなECに敗北して衰退しています。しかし書店の価値はただ「本が買える場所」ということだけでなく、素晴らしいセレクトや棚づくりをしてくれる優秀な書店員さんの価値があったはずです。新刊やベストセラーが並んでいるだけのAmazonの画面には、そういう魅力は希薄です。

だったら書店員さんの本の目利きのパワーだけをうまく可視化し、そこで新たな書店の意味を再構築するという方向も現れてくるでしょう。過去にはアメリカで全米書店協会(ABA)がそういう方向を目指して、グーグルと提携するなどといった試みをしていたこともありましたが、あまりうまく行っていません。いずれは書店という分野でも、スタッフスタートのような新しいサービスが登場してくることを期待してもいいのではないかと思います。


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