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為替との戦いを避けた日銀

「為替市場には付き合わない」は基本
既報の通り、日銀は26日の金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決めました。事前に注目された国債購入規模の減額に関しても決定も無く、声明文も非常にシンプルな元来の姿に戻りました。円安対策としての金融引き締めを期待した為替市場では円売りが加速し、158円台で越週しています:

今次円安局面に入った2年前から筆者は「投機的な円売りによって円安対策としての引き締めが催促される」というのが最悪の状況だと常々警戒してきました。これは例えば以下のnoteにも書いた通りです。昨年8月です:

残念ながら懸念していた通りの展開になっているように見えます。

しかし、今回、現状維持で突っぱねたこと自体、私は前向きに評価しております。ここで引き締めをすれば「円売りで催促すれば引き締めして貰える」という前例を作ることになります。投機的な円売りを行う者にとって最高の利益確定機会であり、必ず6月会合でもリピートされるでしょう。その逆パターンで散々苦しめられた白川体制の前例を踏まえれば、ほぼ間違いなくそうなるはずです。

もちろん、このまま行っても6月会合で同じような円売り地合いに直面する可能性はあるでしょう。しかし、毎会合のように利上げを引き出されれば日本経済は持たないわけですから、スルーできる時にはスルーした方が良く、助け船(端的にFRBの利下げなど)が来るまで凌ぐしかありません。2022年、2023年はたまたま両年共に11月発表の米10月CPIが弱含みCPIショックという形で助け船がきました。2023年はSVBショックという助け船もきました。2024年も米国を筆頭とする海外のショックを待つよりほかありません。

「それでは他力本願ではないか」と言われることがあります。これに対しては敢えてこう答えましょう。「はい、そうです」と。そもそも変動為替相場制とは米国の通貨・金融政策を基軸とする他力相場が本質です。他力本願であること自体、特に恥ではないですし、日本に限った話でもありません。

いずれにせよ中央銀行として「為替市場には付き合わない」という姿勢を見せることは基本的に尊重されるべき姿勢です。為替市場との戦いは極力回避すべきであり、それが実弾が限られている通貨防衛戦であれば尚のこと、推奨される姿勢です
 
利上げの方便はいかに
とはいえ、今後の円売りペースによっては現状維持を貫くにも限度はあるでしょう。その際、どういった方便が用いられるでしょうか。強いて言えば、就任以来の植田総裁が連呼している「第一の力」、「第二の力」といったフレーズに照らして考えるのが妥当なのでしょう。

「第一の力」は円安や資源高などのショックを反映して輸入物価が上昇し、それが国内物価に波及する段階、「第二の力」はそれが賃金を押し上げ、値上げと相まった好循環が回っていくという段階を指しています。

今の日銀の診断は「第一の力」で止まっており、「第二の力」に及んでいない(ゆえに現状維持)というものです、しかし、現状、「第一の力」は円安と原油高によってこの上なく強くなっています。その結果が成長率の名実格差として現れているのは昨年10~12月期GDPでも確認した通りです:

「名目成長率>実質成長率」はデフレではない普通の経済状態の象徴ではあるものの、その乖離が大きくなり過ぎればいわゆるスタグフレーションに至ります。言うなれば「第一の力」が「第二の力」を食ってしまっているような状況とも言えます。もちろん、スタグフレーションに至る過程で個人消費が弱くなる段階を経るので、その時点では「利上げが難しい」という現在のような方便が使われるようになるでしょう。恐らくそれが今なのかもしれません。スタグフレーションが現実味を帯びればやはり利上げは必要になる。その際、スタグフレーションという言葉を使わずに決断するならば「円安による実質個人消費の低迷を受け、利上げによる日米金利差縮小を通じて円安圧力の緩和を企図した」といった方便はあり得ます。なんのことはない現在の市場参加者のみならず、日本社会全体が感じていることだとは思います。

いずれにせよ、今注目されているのは「通貨防衛としての利上げはあるか」という10余年前では想像だにしなかった苦境です。ちなみに年初来で実効ベースで見た場合、遂に円はトルコリラに負けてしまいました:

さすがにこの状況について投機的な円売りが無いとは思えないので、揺り戻しもかなり大きなものにはなるとは思います。

しかし、長く続いた円高時代でも円安局面というものはあったわけで、これから長く続くであろう円安時代でも円高局面というのはあるでしょう。円高になると「ほら、金利差で円高になったではないか」と批判めいた論陣を頂くことがあるのですが、そういった目先の話ではないところで今の円相場を勉強する時期に来ていると私は思います。それが昨今注目の集まる国際収支分析の話題なのでしょう:

前著「強い円はどこへ行ったのか」で議論した構造問題は執筆から2年以上(発刊から1年半)が経過していますが、今、非常に問い合わせが増えています。今後、視点をアップデートした上で類似の議論をウォッチして行ければと思います。また、構造的かつ長期的な視点に立った議論は毎月のメンバーシップだけで深掘りしている最中です。ご関心のある方は覗いてやってみてくださいませ:


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