「転職回数」をどう見られる?エンジニア市場の最新動向
先の衆議院選挙の争点の一つに解雇規制がありました。解雇規制を見直すことにより、人材の流動化を促し、有望な企業に人が集まるようにしたいという議論が展開されていました。
地方の中途転職市場を見ると、転職がそもそもポジティブなものではありません。何かしらの理由で退職をしなければならなくなると、次に待っているのは「再就職」です。こうした環境下を想定した『人材の流動化』なのかなと捉えています。
一方、IT業界に関して言えば、すでに十分以上に人材の流動化が進み過ぎた印象があります。エンジニアバブルを経て、この流動化の傾向が見直されつつある兆候が見られます。今回はこの状況についてまとめていきます。
エンジニアバブル下のIT業界において人材の流動化が後押しされた背景
うまく転職すると年収が上がり続けた「バグ」
成功した場合に限りますが、エンジニアバブル下(2015-2022年)の後期、年収相場は候補者にとっては良い意味で崩壊していました。
各社が盲目的にITエンジニアの正社員採用人数を追いかけていたため、「転職するからには多少なりとも年収を上げないと来てくれないだろう」という観点から増額提示をすることが一般的でした。
私自身、予算が限られている企業で採用に携わることが多かったため、短期離職懸念についての申し送りや保守的な年収提示をしていました。しかし、役員の中には「私もこの人の年収は○○円くらいだと思うのですが、他社に負けそうだったので+100万円しました」といった決断をすることも多々ありました。
こうした背景を理解する人たち(人材業界出身の人事やCHROなど)も多かったため、転職回数についても「時代背景的に仕方ないよね」と軽く見られる傾向がありました。
若手の「タイパ」志向がキャリアに反映された
新卒採用とその後の定着に関わると必ず問題になるのが短期離職です。2022年には就活時から転職を視野に入れて企業を選ぶ「転職ネイティブ層」という言葉が登場しました(あまり流行りませんでしたが)。
配属ガチャに続いて「上司ガチャ」という言葉も出てきました。「この環境と自分は合わない」と考え、転職を選択する若手が増えています。
従来の日系大手企業では「人事異動は3年経過してから」というのが一般的でした。しかし、大手企業の人事採用マネージャーに話を聞くと、短期離職の増加を受け、「1年」「随時相談可」とするところが増えているようです。弊社顧客が公開している就活生向け動画で最も視聴されたコンテンツも、「1年で異動しましたが元気にやっています」といった内容でした。
エンジニアバブル後 選考上のネックになる転職回数
エンジニアバブルが崩壊した2023年以降、転職回数を理由にした不採用が目立つようになりました。2010年代中盤の転職回数への厳しい目が再び戻った印象です。
現在の選考基準には以下のようなものがあります。
1年未満の離職がない、もしくは1回まで
2〜3年未満の転職が続いていないこと
2010年代前半の状況と比べると40代の合格ハードルは下がっていることもあり、「合計経験社数」で絞るようなことは少なめな印象です(以前は合計3社までという縛りが非常に多くありました)。
転職回数を看過できない背景
事業貢献・ELTVの観点
2024年現在、事業貢献についての観点が強く見られるようになりました。入社後のバリュー発揮を意味するわけですが、円滑ではないオンボーディングと共に短期離職もまたELTVの減少に繋がるためネガティブ評価になります。
高騰する採用コスト
2010年代初頭のソシャゲバブルでは、ITエンジニア人材紹介費は一時的に高騰した後、バブル崩壊とともに収束しました。しかし、今回のエンジニアバブルでは紹介費が上昇を続けています。現在では基準値が40%から45%に引き上げられています。
特に即戦力層を多く抱えているという付加価値が追加されたわけではなく、むしろエンジニアバブル下で人材紹介業界内部の従業員数が増え過ぎたため、それを維持するために紹介費が高止まりしていると考えられます。
スカウト媒体の利用も増えており、生成AIによるスカウト文自動生成サービスが登場しています。しかし、これらの成果を享受しやすいのは大手企業や有名企業であり、一般的な企業にとっては採用コスト対効果が疑問視されています。
リファラルや直接応募では採用コストが低いですが、それが転職回数に対する審査基準を緩和するかというと、現状ではそういった企業は多くありません。むしろ、紹介者の「社内信用」を頼りに採用ハードルが下がるケースがあるものの、それでも短期離職しない覚悟が求められます。
スタートアップが気にする「運」
企業経営をしていると「運」を意識する場面が多々あります。特にスタートアップでは、過去に在籍企業が複数倒産している候補者が敬遠されるケースがあります。経営者レベルで「うちも潰れるのか…?」という不安が生じるため表には出ないお見送り理由になります。
人材の流動化を信じて職を重ねるリスク
新卒・第二新卒:「訳あり」求人に注意
未経験歓迎の求人は、その多くがヘルプデスクやコールセンターといった職種への誘導であり、優良企業は第二新卒ITエンジニアの受け入れを絞っています。また、人材紹介経由で案件が決まるまで入社できない派遣型採用も増えています。
もし現在、まっとうな企業に勤めているのであれば、安易な転職は避けるべきです。下手に動くと「訳あり企業」のターゲットになります。
社数の多い中途各位:極力長めの在籍を
レイオフされたなどであればやむなしですか、ちょっとした自身の態度変容や交渉で変えられる不満であれば『長期に渡って在籍できた実績』を作れるように舵を切ることを強くお勧めします。
おまけ:転職の目安にされる「3年」の意味
3年という期間が転職市場で評価の基準とされる背景については、以下の記事をご参照ください。