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新常態で加速する業務自動化、官民で人材教育を急げ

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

近年の働き方改革やDX(デジタル・トランスフォーメーション)の流れの中で、業務効率や生産性の向上を目指す動きが広がっていました。そもそも慢性的な人手不足に苦しむ業界が多い反面、デジタル化は遅れています。そこにきて新型コロナウィルスにより、在宅勤務はもちろんのこと、対面が必要な業務でも人の接触をなるべく減らさなくてはいけない状況になりました。今後、さらなる機械化・自動化へと進んでいくと思われます。

実は、自動化されやすいとされる定型作業の多い事務職などでは、2019年ごろから求人の伸びが鈍化しはじめていました。

採用の手控えが広がる転職市場のなかでも「自動化されやすい職種」は求人減が目立つ。パーソルキャリアの転職情報サイトに掲載された約2200職種の求人(正社員と一部契約社員)を英オックスフォード大学の研究をもとに、自動化されやすい職種(約250)とそれ以外に分類。5月と6月の求人数は、自動化されやすい職種が前年同月より30%以上減り、それ以外は1割程度の減少だった。

自動化されやすいのは定型的な作業が多い事務職(35~37%減)や製造業の現場職(30~31%減)。19年から伸び率の差が目立ち始め、企業が自動化にシフトし始めていた可能性がある。さらに新型コロナでは、「密」を避ける手段としても重要になった。

このような話は「AIが仕事を奪う」という文脈でよく聞くようになりました。しかし、ちょっと誤解があるかもしれません。これの元になったのは2013年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士が発表した「雇用の未来」(THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?)という論文です。ここには各職業がコンピューターによって「自動化できる割合」がランキングされています。示しているのは「業務が自動化できる余地」であり、「その職業が消滅する確率」ではありません。とはいえ、50%が自動化できるのであれば必要な人員は半分になりますので、その意味では仕事が奪われるとも言えるのでしょう。

過去を振り返れば、技術革新により失われた職種はたくさんありました。1900年初頭の馬車から車へのシフトにより、馬の世話をする人は激減しました。電話交換手が手動でつないでいた時代は、ほんの40~50年前のことです。消滅した職種に代わり、新たな職種も生まれていきます。従来のスキルでは仕事が得られないのであれば、新たなスキルを身につけなくてはなりません。マイクロソフトによると、IT関連では2025年までに1億4900万人分の仕事が必要になる見込みだそうです。

経済活動の再開が進めば一時解雇者の職場復帰が見込まれる一方、飲食業や小売業を中心にネット通販に軸足を移すなど事業そのものを見直す企業も相次いでいる。接客スキルなどよりもIT技能を持つ人材を求める企業が増えており「コロナは『スキルの乖離(かいり)』を深刻にした」(ナデラ氏)。

今後も単純労働は減少傾向が続く半面で、IT関連では25年までに世界で新たに1億4900万人分の仕事が必要になる見込みだ。マイクロソフトの失業者向け再教育に限らず、多くの企業にとってコロナによる変化を見据えた人材訓練の重要性は増している。

日本でも新常態で必要となる「新たなスキル」の獲得をどうするのか。人材教育を誰が担い、コストを誰が負担するのかといった具体的な議論が必要になるでしょう。終身雇用が根強かった日本では、長い時間をかけて人材教育をする文化があります。しかし、暗黙知や「社内スキル」が中心であり、必ずしも市場で競争力のあるスキルが必要なときに獲得できていたかどうかは疑問です。「せっかくスキルをつけさせても、転職したらそのコストが無駄になる」と考えている経営者も少なくないようです。

コメント 2020-07-19 211843

ところが、雇用流動性の高い米国は人材投資に積極的です。GDPに対する能力開発費の割合は米国で2%強。欧州は概ね1%台で、日本は「0.1%」です(厚生労働省調べ)。しかも1995~1999年時には0.41%あったところから、連続して低下しています。

従業員向けの教育プログラムは、企業の雇用戦略として長期的な効果が期待できるというのが多くの米国企業の認識でしょう。採用面でも人材を惹きつける要素になりますし、再教育により最新の技術を使いこなせる人材が増えれば新しい事業にも対応できます。また、会社への忠誠心も高まり、優秀な人材のつなぎとめも見込めます。これらが、企業の国際競争力にも表れてきます。

人生100年時代を見据え、自費を投じてでも学び直しをする社会人も増えてきました。大学側もビジネススクールとは一線を画した「次世代リーダー育成プログラム」など、新たなコースを用意しています。

東京大学の柳川範之教授は、コロナ禍のオンライン講義の急速な広まりは、これまでの教育の概念を変える可能性が高いと指摘しています。

一つあり得るのは、オンラインで幅広く講義を提供して受講者のすそ野を広げ、その講義で良い成績を修めた受講者に、キャンパスに実際に来て少人数の討論型授業に出る許可を与えるという形だ。このような学校のあり方は、世界的にはコロナ禍の前から発想され、一部の大学では行われていた。それが、オンラインの経験によって、一挙に具体的な姿となって表れてきた。世界の主要な大学は、世界中の様々な境遇にある人々に対して無料でオンライン授業を提供し、そこで探し出された優秀な学生をキャンパスに呼んで学習させる。そういう方向性に変わっていくはずだ。

欧米では10年ほど前から、オンラインで学位が取れるコースが人気を増してきていました。その中にはハーバード大学やオックスフォード大学、スタンフォード、MITなどの名門大学も含まれます。オンライン学位を取得した従業員のパフォーマンスが向上したという調査もあり、外部の受講費用の補助をする企業もあります。

新常態で加速するDXを担う人材をどう確保していくのか。すでに待ったなしの状況の中、官民が連携しながらスピード感を持って進めていく必要があるでしょう。

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タイトル画像提供:Melpomene / PIXTA(ピクスタ)

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