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米国シリコンバレー投資家にみられる変化の兆し 〜経済的なリターン重視から、社会的に意義のある投資へ

一旦収束をみせたかと思われるコロナ禍ですが、デルタ種の感染力の高さにより、感染者数が徐々に増加傾向を見せている米国です。世界中の人々が健康で笑顔で過ごせる日々が一日も早く訪れますように。

価値観の変化〜経済的リターン目的投資から価値創造目的の投資へ

最近、シリコンバレーでは、 “Conscious Investment(コンシャス・インベストメント)”という言葉をようにするようになりました。これを直訳すると「意識の高い投資」。日本では「意識高い系」ということばが流行りましたが、こちらは「意識が高く行動力があることは結構だが、それが空回りしていたり、ポイントがズレていたり、自己顕示欲の高さが感じられるので、揶揄の対象となっている」(現代用語の基礎知識より引用)というネガティブな意味合いがあります。

一方、「意識の高い投資」というのは、効率や経済的リターンのみにフォーカスした投資から、社会的の課題を解決するような意義のある事業を手掛けるスタートアップへ投資を意味します。この動きは、近年のSDGsやESGへの関心の高さ、コロナ禍による価値観の見直しなどが影響していると思われます。

高まるSDGs/ESGへの関心〜学生の半数がSDGsを認知

SDGsとは、国連が提唱する「2030年までに達成すべき17の目標」を指し、17の目標は、社会・経済・環境の3分野の他に、それぞれの分野と横断的に関わる枠組みに分けられます。貧困や不平等、福祉や教育、環境問題、気候変動、クリーンエネルギー、平和と公正など、世界中の人々が直面し、協力して解決することが求められている問題ばかりです。



ちなみに、「電通」の社内プロジェクト「電通Team SDGs」が2020年に実施した「第3回SDGsに関する生活者調査」によると、学生(小学生から大学生までを含む)の約2人に1人(45.1%)が、「SDGs」という言葉を認知しており、将来を担う世代のSDGsへの関心の高さがうかがえます。とりわけ、10代男性は2019年の前回調査の28.9%から55.1%、20代女性は9.3%から31.7%と、認知割合が急激に上昇しました。年代別・職業別に見ても、日本の若者の関心度や認知度が高いということが、明らかになりました。この傾向は世界的にみられ、学校教育やSNSを通して、SDGsに対する意識の高い若者が増加しています。

エリート・キャピタリストにみられる「経済的リターン重視」から「社会への価値創造」へシフト

シリコンバレーでもっとも老舗のベンチャーキャピタルであるMayfieldのパートナーであるティム・チャン(Tim Chang)。

私がシリコンバレーにて日系のベンチャーキャピタルで働き始めた2014年に知り合い、それからお付き合いが続いています。成績優秀なベンチャーキャピタリストにのみ与えられるMidas Listを2度も受賞したティムは、出会った頃は成功したVCが纏う自信に満ち溢れたぎらぎらしたオーラを放っていましたが、最近は、VC勝ち組オーラというよりも物静かで温かなエネルギーが全面的に感じられます。それは、ティムの投資に対する意識の変化にも現れているように感じられます。

「我々のファンドは、従来テクノロジーがどのようにマーケットに変化をもたらすかに注力してきたんだよね。これまでは、テクノロジーは、いかに消費者、ビジネスパーソン、労働者の生産性を上げることが出来るのかーに注目して投資をしてきたんだ。でもね、今は、テクノロジーは我々を癒やすことが出来るか、自身をより深く理解することが出来るか、自分とそして他の人々との絆を深めることが出来るかーに注力するようになったんだ。

ティムは、コロナ禍が、利便さ、効率性、ビジネスの拡張を最大限にすることを主眼に構築した中央集権的な社会構造の弱みを露呈する結果となったと語ります。

「今は、休息する時ではなく、立て直しの時。シリコンバレー用語でいうなら、ファームウェアをアップグレードする時なんだ。スタートアップの利益やスケール、ユニコーン企業になる可能性についてのみで投資判断をするのは十分ではない。スタートアップは人類と地球にとって意味のあるものかどうかの問いをたてることが大切なんだ。我々は、仮に大きな利益を出せるスタートアップであったとしても、人類と地球にとって意味のあるテクノロジーでない限りは投資しないと決めたんだ。

Mayfieldは昨年USD750 million (約800億円)の資金調達をしました。その際に、リミテッド・パートナー(ファンドへの投資家)から「MayfieldのSDGsへの取り組みは何?」と聞かれたそうです。

「正直にいうと、僕はその時SDGsという言葉を聞いたことがなかった。でも、SDGsについて調べてみて、僕は大いなる希望をもった。これからは経済的なリターン目的の投資ではなく、社会に対するインパクトと価値創造をする投資をおこなっていくべきなんだと悟ったんだよね。これまでは、インパクト投資は経済的なリターンを生まないというのが定説だったのだけど、実際、Beyond MeatやTeslaなど、社会的にポジティブな影響を与えながらも株主に利益を還元している会社も出てきている。

孫泰蔵さんからの教え

孫泰蔵さんが東日本大震災を機にスタートされたMistletoeは、テクノロジーを駆使して人間中心の持続可能な未来を創造することを目指すコレクティブ・インパクト・コミュニティです。


近未来の人類が直面する大きな課題の解決に取り組みたいという志を持つ起業家、投資家、研究者、ビジョナリーなどのスタートアップ・コミュニティの第一線で活躍する人が集結しています。私は、2017年よりMistletoeのフェローとして、米国における投資活動や、ウェルビーイング・テクノロジーの世界最大のエコシステム、Transformative Technologyを通しての様々な活動に取り組んでいます。

もともと、米国大企業で勤務する経験が長く、その後ベンチャー・キャピタルに勤務していた私は、「企業は利益を出し、社会的に還元すべき」という資本主義の原理を信じていました。ところが、泰蔵さんから「社会の課題を解決することによる社会的リターンと経済的リターンは必ず両立する」といわれたときに、驚いたと共に感動、共感し、自分になにが出来るか考えました。数年かけて内なる問いを続けるうちに「今後はHuman-centric Technology(人間中心のテクノロジー)にフォーカスした投資活動をしたい」という思うようになりました。

アルゴリズム、AIなどのテクノロジーを通して、様々なものやことが自動化され、効率化されるデジタル・トランスフォーメーションが進んでいます。そのなかで、人とのコミュニケーションを円滑にし、コネクションを深め、自分のアンコンシャス・バイアス(無意識の差別意識)やスーパー・パワー(人に負けない得意分野)を理解する、自分の可能性を最大限に生かすなど、Human-centric Technologyはウェルビーイングにおいて重要な要素となっていくでしょう。


ティムは言います。

「人との円滑なコミュニケーションやコラボレーション、感情が安定してポジティブな状態でいること、自分の特性を理解しそれを生かした仕事をこころから楽しめること、などの実現を可能とするこそがNext Great Innovationなんだ。」

シリコンバレーをリードしてきた投資家の言葉に、経済的リターン目的の投資から社会的に意義のある投資へと流れが変わってきていることを実感し、私自身もConscious Investorとして活動していく思いを新たにしました。


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