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働き方改革は、バブル崩壊から続く労働生産性をめぐるストーリーの一部【日経COMEMOテーマ企画 #この5年で変化した働き方_前編】

働き方改革の5年間

ちょうど、「働き方改革」という言葉が普及するようになってから5年が過ぎようとしている。2015年から、企業だけではなく、政府や行政でも数多くの取り組みが行われてきた。その一方で、現在の働き方改革の隆盛を一歩引いた眼で見ている人々もいる。しかも、長年、人事の世界にいた人事プロフェッショナルと呼ばれる専門家に多い。それは、働き方を変えようと新しい制度を作ったり、施策を講じても、働いている人々の意識を変えることは容易ではないためだ。

バブル崩壊以降、働き方の見直しは人事にとって継続的な課題である。そして、これまでの取り組みは失敗とまではいわなくても、華々しい成果を出したとも言い難い状況だ。中途半端に広まった成果主義や世界最低水準の従業員の幸福度、まったく改善されない低い労働生産性など、未解決かつ致命的な問題が山積している。

今回は、日経COMEMOのテーマ企画「#この5年で変化した働き方」に即して、前後編で働き方の変化について考えてみたい。前編では、バブル崩壊以降の働き方の見直しの歴史を整理する。そして、後編では、この5年間で取り組まれてきた働き方改革の意義について考えてみたい。

働き方の見直しは長年の課題

働き方を見直そうという動きは、バブル崩壊以降、多くの日本企業にとって継続的な課題だ。しかし、課題の内容は10年おきに変化し続けてきた。

90年代は、リストラや整理解雇、それにともなう中途入社の増大、女性の社会進出、非正規雇用の拡大など、雇用に柔軟性を持たせようという動きが主体だった。

00年代になると、ノー残業の徹底、有給取得の推奨、定年延長とシニア人材の活用など、職場での働き方を効率化しようという試みが数多く見られた。しかし、働き方の効率化と成果主義を同時に進めたため、過労死やパワハラ、職場のいじめ、躁鬱病に心身症などの問題が立て続けに表出した。

働き方を見直すことの目的は、労働生産性の向上である。労働生産性とは、生み出した付加価値と、その付加価値を生み出すために費やした労働量の割り算で求められる。

労働生産性 = 付加価値 / 労働量

00年代までは、分母(労働量)を減らすことが働き方を見直すことと同義だった。付加価値を変えずに、労働量を少なくすれば労働生産性は向上する。「残業を減らして成果を出せ!」という理不尽なことを言われた経験のある人は多いのではないか。

当然のことながら、理不尽な支持が成果を出すことはほとんどない。「社畜」という言葉が示すように、日本の働き方は世界最低の幸福度と低迷する労働生産性という不名誉な状況を作り出している。

分子を増やすための働き方改革

10年代からは、このような現状を改善しようと付加価値の向上にも力を入れ始めた。プレミアムフライデーや朝活、スキルアップ助成金、上司の事前承認が不要な社内公募制など、個人の付加価値を高める活動を後押しするような制度や施策が注目を集めている。

しかし、労働生産性を高めるための積極的な取り組みは「一部意識の高い会社だけがやっていること」であり、社会的なムーブメントにまでは至らなかった。ユニリーバや P&G のような外資系企業や、リクルートやサイバーエージェントのような先進的な取り組みに積極的な企業が実行しているだけで、多くの企業にとっては我がこととして考えるには遠いものだった。

働き方改革が一部の企業だけのことで、大多数の企業にとって自分事ではないということは、テレワークの実施率が最も端的に表していると言えよう。18年の厚生労働省『労働経済動向調査』ではテレワーク制度の導入はたったの8%しかない。コロナ禍で多少数値が改善されたものの、日本生産性本部の調査では18・9%(20年10月時点)しかない。最も高い数値を記録した20年5月時点でも41.5%であり、これらの数値はコロナ以前の欧米諸国よりも低い。

そのような中でも、世の中の空気感が変わる切っ掛けになったのが、2016年の働き方改革担当大臣の設置と、働き方改革実現会議を発足して政府主導で推進しようという動きだろう。特に、雇用と人件費の調整弁として経営者にとって都合の良い状態だった非正規雇用の格差問題には法規制という形で大きくメスが入れられた。

企業でも、育児と介護に関する働き方の見直しは比較的スムーズに進んでいると言えるだろう。厚生労働省の『雇用均等基本調査』によると、男性の育児休暇取得率も高いとは言えないものの、2005年度では0.5%だった数値が2019年度には7.48%と増加傾向にある。特に、2015年の2.65%からの5年間の伸び率が大きい。

働き方改革と企業の付加価値増加の連動が次の課題

国内市場が拡大傾向にあり、コストパフォーマンスの良さを競争優位の源泉としていた時代には、高度なマネジメントも働き方の柔軟性も必要のないものだった。しかし、バブル崩壊以降、企業が新しい事業戦略を模索するのに呼応するように、働き方の見直しも進められてきた。

そのような中、人件費をコストと捉えて、効率化と雇用の柔軟性を高めようという10年代以前の動きは比較的早いスピードで多くの企業に広まっていった。

反面、労働生産性を高めるために、分子にあたる付加価値を高めるための取り組みはなかなか浸透していない。積極的に取り組んでいる企業でも、まだ付加価値向上に至るまでの成功事例を出すことができているのは稀であり、試行錯誤している段階というのがほとんどだ。つまり、働き方の見直しで付加価値を高めるというストーリーの構築が難関になっている。

悩ましいのは、ストーリーの構築ができないからと手をこまねいていると海外との差が開いてしまうことだ。例えば、野村総研の8カ国調査(2020年7月)によると、日本が最もテレワークの導入率が低く、上位3カ国(中国、米国、イタリア)とは2倍以上の開きがある。差が開くということは、海外と同じルールでビジネスができないということになる。日本独自の仕事の仕方に固執してしまうと、グローバル市場で急速に存在感を失してしまうリスクが高い。

この5年間の働き方改革を活かし、20年代は働き方の見直しで付加価値向上を目指すというストーリーを創ることができるか否かが重要な争点となるだろう。

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