経験を積んでくると主語や目的語のサイズは小さくなる
国際会議の基準が国際会議協会と日本政府観光庁の間で異なるため、前者を基準にすると後者の実績数が8分の1になるようです。
慶應義塾大学総合政策学部教授の白井さゆりさんが、この記事に対してThink!欄に次のコメントを書いています。このなかで、ぼくが太字にしたところに注目してください。
日本とは直接関係のない領域やテーマで日本の人が発信力を高めていく大切さに言及しています。きわめてまともな意見ながら、そういえば、最近、こういう発言をあまり目にしていなかったと思い出しました。
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すべからく、「日本の海外での存在感をあげるために何かをやる」と「海外のどこかの国をベースに何かをやることで日本を刺激する」の2つが選択肢的に捉えられ、これらの2つを超えると国連のような国際組織が「据えられている」。「日本と海外の関係」と「国際」の認知の間にかなり距離があるのですね。
国際会議の基準を観光庁は下駄をはかせているという話も情けないですが、ぼくが気になるのは前述の前者、即ち、日本のためと言いながら「日本を意識する」や「日本文化を広める」という表現が使われ過ぎていることです。
日本のために何かをやるのは良いことでしょう。だが、主語や目的語が大きすぎるのは、残念ながら、往々にして経験不足に起因していることが多いです。
先週から今週はじめにかけてピエモンテ州ランゲ地方に滞在している時、日経新聞の本記事を読みながら、はたとこの点に思い至ったのです。
ランゲ地方を題材にテリトーリオのダイナミックな動きを実感するプロジェクトを準備していますが、今回、ランゲ地方で生まれ育ち、そのなかで重要な役職を担って仕事をしている人と話しました。
バルバレスコやバローロというワイン産地、スローフードの拠点で高等教育にも熱心な食文化の中心ということもあり、世界中から観光やリサーチがわんさかとやってくるオーバーツーリズムが頭痛の種になっているところです。
上記の彼と話していて心に残ったのは、「世界各国の人々に高い評価を受けているが、我々はそれで満足しているわけではない。このテリトーリオで我々がもっと良くすべきことはたくさんある」という言葉です。どちらかといえば、名声は十分だ、もっと実質的なところでやるべきことがある、とのニュアンスが感じられます。名声など薄っぺらいものだ、とも言いたげです。
ランゲ地方の中心都市はアルバ市です。およそ3万人の都市の歴史的地区に泊まり、レストランやカフェをかなりの数、サイトでチェックしました。そこで気づいたのは、飲食店のシェフのプロフィールが紹介されているサイトが多いのです。そして、実際に店に入るか、店の外観だけでも観察しました。
若い時から食への関心が強く、それが飲食店の経営に向かい、提供する料理が世界各国の美食家によってさまざまに評価をうけるーーそういう経験を積んできている人が街中にそれなりにいる。このような土壌では、「イタリアの文化を広めるべき」などと主語の大きな表現では出にくいのでは、と思ったのです。
また、スローフード運動の発祥地はアルバ市ではなく近くのブラ市ですが、1989年に開始したこの運動は、最初の10年間ほどはイタリア食材の輸出に力点をおきますが、その後、つまり今世紀になるとローカルでローカルの食材を使ってどうライフスタイルを確立していくか?とのコンセプトを世界に広げる活動に重心を移します。
こういう経験がローカルの日常生活のなかに浸透していると、主語や目的語はより小さく、話が具体的になってくる例がランゲにはふんだんにある、と気づきました。そして、このようなプロセスを経ると自分の領域や守備範囲以外のことでも逆に具体的な提言ができたりするのですね。
上述の白井さゆりさんの表現「日本のことがテーマになっていない国際会議で、国際的なテーマで日本人の発信力が高いのかが日本や日本人の存在感を高めていく上で重要だと思います」を参照すれば、小さなサイズで国際コラボレーションの経験を積むことで、日本の枠を超えて国際レベルに貢献できる方向を探る、ということになります。
ローカルの悩みは、かたちこそ違え、ある程度共通するところがあり、だから遠い距離にあるローカルの悩みにも勘が働きます。幅広い範囲で通用するロジックが身についていけば、自ずと行動原理も作り出せます。
国際的テーマとは抽象性の高いサイズの大きいものだけを指しているのではない、ということも分かってくるでしょう。そこが分かっていないと、「日本の文化が!」が大きな声になりやすいーー。
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冒頭の写真はアルバ市内からクルマで20分ほど行った丘の上にあるアートの公園です。ユネスコ無形文化遺産になっている葡萄畑という文化景観と彫刻が実によく合っています。Carten HöllerのVEHICLE (AMPHIBIAN)という作品です。
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