「SLAM DUNK」に学ぶリーダーシップと心理的安全性: 組織マネジメントとチームビルディングの極意
今年最大の映画のヒット作の1つ「THE FIRST SLAM DUNK」が先日ロングラン上映を終えました。SLAM DUNKは私が学生の頃から何度も読んできたバイブル的な存在でしたが、映画をきっかけに久々にSLAM DUNKを再度読み返す機会がありました。読み返してみると、SLAN DUNKからはビジネス的な視点で多くの学びがあったのです。
今回、日経電子版が #漫画から学ぶ仕事のヒント というテーマで意見募集企画を実施していたので、SLAM DUNKから私が学んだことを書きたいと思います。
SLAM DUNKからの学び
SLAM DUNKは、言わずと知れた90年代に連載されたバスケットボールをテーマにした漫画であり、1990年から1996年まで週刊少年ジャンプに連載され、湘北高校のバスケットボールチームの物語を描いています。海外でもアニメが放映されており、海外でも展開されている作品です。
『SLAM DUNK』は単なるバスケットボール漫画以上のもので、この物語の中には、成功するチームの結束、リーダーシップの本質、そして個々のメンバーが団体の成功にどのように貢献できるかなど、数多くの学びの要素が含まれています。ビジネスの現場でこれらの学びをどのように活用できるのか、本記事では『SLAM DUNK』から学べる心理的安全性やリーダーシップの重要性に焦点を当てながら探求したいと思います。
SLAM DUNKに学ぶリーダーシップ
湘北高校のバスケットボールチームは、最初はメンバー間で信頼関係が全然なく、それぞれが自分の道を進む個の集まりでした。しかし、わずか4ヶ月で、劇的にチームがまとまっていきます。その要因の一つとして、安西先生のリーダーシップが挙げられます。
メッセージングの重要性 & 目標設定
安西先生は、チームの状況に応じて、ストレートで伝わる数々の素晴らしいメッセージをチームに送っています。下記がその一部です。
「君たちは強くなる」 (コミック6巻 P.122) というメッセージはチームに自信をもたらします。
「相手の挑発にのって一人相撲のPG」「予想された徹底マークに意地になって無謀な攻めを繰り返す主将」「全国制覇とは口だけの目標かね」(コミック23巻 P181-182 豊玉戦) 個々のメンバーが強敵を相手に周りが見えなくなっている時に、ストレートに、そして課題ポイントを的確に指摘し、チームに冷静さを取り戻させてています。
「前半はいい出来だった そして忘れよう」「あと20分 技術も 気力も 体力も 持てるもの全て… 全てをこのコートにおいてこよう」(コミック26巻 P170-171 山王戦ハーフタイム) 強敵を相手に良いパフォーマンスを出すチームが浮き足立たないよう、しっかりと良い部分を認めつつ、地に足を付けさせるメッセージを送り、チームを鼓舞しています。
「桜木君がこのチームにリバンドとガッツを加えてくれた」「宮城君がスピードと感性を」「三井君はかつて混乱を のちにとっておきの飛び道具を」「流川君は爆発力と勝利への意志を」「赤木君と木暮君がずっと支えてきた土台の上に これだけのものが加わった それが湘北だ」(コミック30巻 P139-141 山王戦 残り2分) 山王戦の最終局面で、それぞれのメンバーが疲労困憊の中、メンバーの最後の力を引き出すメッセージを伝えます。
上記はほんの一部ですが、安西先生からチームへのメッセージがチームの結束や、試合の流れに大きな影響を与えるシーンが数多くあります。あるチームメンバーが緊張してガチガチになっているのであれば声がけにより緊張をほぐす。闘争心が強すぎたら少しブレーキをかける一言を。安西先生は直接的な指示を避け、代わりに視座の高い目標や逆説的な発言でメンバー自身が課題に気づくよう促しています。
伝えるメッセージによって、チームメンバーをフラットな状態にもっていくために、的確なメッセージを伝えるところが、リーダーシップの観点でもとても勉強になります。
そして、基本的にはチームリーダーである赤木にチームを任せていながらも、チームメンバーの特徴やコンディションが細かい部分まで見えています。あまり見てないような雰囲気でありながらしっかりととらえているところが、安西先生のすごいところだと思います。
多くの企業では役職があり、階層に分かれています。上のほうに行けば行くほど、チームのメンバーの顔が見えなくなったりしていきます。最近ですとコロナ禍が始まったとき、まさに会社全体で動かなければいけないときにメッセージが届きにくくなってしまう。そういった意味でも、ちゃんと「見えている」という状況は大事なのだということを安西先生から改めて気づかされました。
赤木剛憲のメンタリティ
チームのキャプテン、赤木剛憲は、メンバーに対して「海南は雲の上の存在と思うか?」と問いかけました。(コミック12巻 P21-24) この発言は、チームメンバーに対して「敵の背中は決して遠くない、超えられる存在だ」という自信を植え付けました。このシーンを改めて見た時に、WBCの決勝戦の直前に大谷翔平選手がチームに発した「あこがれるのはやめましょう。」という場面を思い出しました。これは、ビジネスにおいても重要なメンタリティになります。大手競合他社に対して相手が自分たちよりも優れているという気持ちを持っていると、超えていくことは難しくなってしまいます。リーダーのメンタリティがそのビジネスの伸びの限界点を決めてしまうことを意識し、動いていく必要があるのです。
SLAM DUNKに学ぶリーダーシップ心理的安全性が生む高いパフォーマンス
心理的安全性という観点でもSLAM DUNKは多くの学びポイントがあります。下記の赤木の発言からも分かるとおり、そもそも湘北高校バスケットボール部は心理的安全性が低いところからスタートします。
チームの心理的安全性が低い時代 にはこのような発言がありました。
「勝ちたくないのか!!」(コミック14巻 P22-23) これは、全国を真剣に目指しているメンバーがほぼいない中、一人赤木がチームに怒りながら発言し、孤立していくシーンです。この時代から、安西先生による導きや、赤木自身の変化もあり、物語後半の山王戦では「オレたちゃ別に仲良しじゃねえし お前らには腹が立ってばかりだ だが このチームは…最高だ…」(コミック30巻 P143 山王戦) というように発言の質が大きく変化しているのです。
また、普段一切弱音を吐かないクールな流川ですが、豊玉戦では、宮城に対し 「ジツは強いパスとりづらいんす」と自分のコンディションについてはっきりと仲間に伝えるようになっています。(コミック24巻 P52 豊玉戦)
私個人の中で最も湘北高校バスケットボール部の心理的安全性が高いことで、驚異的なパフォーマンスが出ているシーンがあります。それは山王戦後半の体力的にしんどくてもう無理だというような状況で、三井寿が気持ちだけで動き、3Pシュートを狙い続ける場面です。このシーンで、試合を見ていたライバル高の監督が「奴は今赤んぼのように味方を信頼しきる事でなんとか支えられている…」と発言します。そして三井はほぼ意識がない極限状態の中で動き続けるのです。
普段は衝突が絶えないチームですが、安西先生や赤木のリーダーシップのもと、4ヶ月間の濃密な時間を経て、チームの根幹に心理的安全性が生まれ、例え自分がシュートを決めれなくても必ずリバウンドをしてくれる仲間への信頼、自分がシュートを打ちやすいところにしっかりとパスを出してくれるという仲間への強い信頼がありました。その信頼、心理的安全性がチームが極限に追い込まれた時に限界を超えるパワーになっているのです。
この三井の山王戦でのシーンには心打たれましたし、ビジネスにおける心理的安全性においても大切なヒントがあります。心理的安全性とは決して仲良しクラブではなく、衝突を恐れず、伝えるべきことをしっかりと伝えられる状態が、チームの信頼を生み、イノベーションや結果を生み出していくということを教えてくれるのです。
SLAM DUNKに学ぶゲームチェンジングの判断
チームの中で決して目立った存在ではない安田靖春(ヤス)が、豊玉戦で「1本1本じっくり!!」とチーム全体に声がけするシーンがあります。(コミック23巻 P113 豊玉戦)
コートにいるチームメンバーが頭に血が上り周りが見えづらくなっているタイミングで安西先生がヤスを流れを変えるゲームチェンジャーとしてコートに送り出します。ヤスの声がけによって「一回クールダウンしなきゃ駄目だ」とチームに気づかせるのです。
スタートアップにおいて(大手企業もそうだと思いますが)、目の前のプロダクトに集中し過ぎて、大局を見失ったり、お客様の声が届かなくなることがよくあります。そのようなタイミングで、ヤスのような存在がチームに不可欠であると言えます。スタートアップでも、目の前の問題ばかりを近視眼的に見てしまわず、俯瞰してビジネス全体を捉え、流れを変える新しい視点や方法を持ち込むことは重要です。
まとめ
SLAM DUNKは単なるバスケットボール漫画以上の学びを提供してくれています。この作品から学べるリーダーシップやチームビルディングの観点は、ビジネスに携わる皆さまにとって重要な視点だと思います。
そしてチームの誰もが、それぞれ自分の役割を全うし、心理的安全性を高める動いていくことで、ビジネスも成功へと導かれると考えています。
初めての方も、既に読んだことある方も是非、「SLAM DUNK」を違った切り口で読んでいただければと思います。