東京オリンピックを迎える前に「いだてん~東京オリムピック噺~」を見てほしい理由
芸能ネタのようで恐縮です。
今年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」は、斬新さやテンポの良さなどがかえってあだとなったのか、大河ドラマとしては過去最低の視聴率だそうです。出演者の不祥事が相次いだことも影響したのかもしれません。確かにこのドラマは、日曜日の夜、夕食後にお茶を飲みながら何も考えずに画面を見ていて理解できる既定路線のストーリーではありません。それでも、というか、だからこそ、東京オリンピックを迎えるにあたって、ぜひ皆さんに見ていただきたいと思うドラマです。
日本が初めてオリンピックに参加したのは1912年のストックホルム大会。「運動会への参加に国費を出すなどできぬ」ということで、当時の渡航費用が選手の自己負担であったことには驚きました。1928年のアムステルダムオリンピックには、派遣費用を国から補助してほしいと、田畑政治が高橋是清に直談判するシーンも描かれていましたが、そうした苦労もありつつオリンピック参加の経験を重ねていき、1932年のロサンゼルスオリンピックではメダルラッシュの快挙を成し遂げます。競泳男子100m背泳ぎでは金銀銅を日本選手が独占したとのこと。当時米国に移民した日本人の方たちは、安い賃金の労働力として激しい差別を受け、貧困の中で暮らしていたので、勝てるわけがないと思っていた母国選手が大活躍する姿に、大いに勇気づけられたという史実が丁寧に描かれていました。移民の方たちの苦労や受けた差別などを描いたドラマはこれまでもいくつかありましたが、彼らにとってロサンゼルスオリンピックにおける日本選手団の活躍がどのような意味を持ったか、想像するに余りあります。
4年後の1936年に行われたベルリン大会では一転、ナチスドイツによってオリンピックがヒットラー政権のプロパガンダの場として使われたわけです。スポーツの祭典が政治利用されることに対する違和感や日本の軍国主義化を嘆く強い思いとともに、だからこそ平和の祭典をアジアで、日本で開催しようと呼びかけた嘉納治五郎や田畑政治の招致活動が、当時関係が悪化しつつあった中国のIOC委員からも支持されたというエピソードも盛り込まれていました。しかし残念ながら戦争へと突き進む流れは止まらず、残念ながら1940年に東京で開催されるはずだったオリンピックは幻に終わったわけです。
東京でオリンピックを開催するに備えて建設された明治神宮外苑が学徒出陣の壮行式の場となり、オリンピックのマラソン出場を目指していた金栗四三の愛弟子もそこから出陣していきました。家族に会いたい、好きなマラソンを思い切り走りたいといい続けていた彼は、戦争が終わったにもかかわらず満州でロシア兵に撃たれ、帰らぬ人となりました。
その後は、焼け野原になった日本が不死鳥のように立ち上がるさまも見事に描かれています。
敗戦国日本は1948年にロンドンで開催されたオリンピックには参加が認められなかったものの、日本水泳連盟はオリンピックの決勝と同日、同時刻に、神宮プールで国内大会を開催。そこで北島康介さん演じる古橋廣之進(下の写真)がオリンピック金メダルの記録を次々に塗り替えたという逸話は、今、どれほどの方が認識しているでしょうか?水泳連盟が世界に示した、不屈の精神と発信力の高さには驚嘆します。いまの私たちの暮らしがこれほど安定し、豊かなものになったのは、戦後復興を支えた先人の努力のたまものであり、改めて感謝と敬意を表したいと思います。
東京オリンピック開催という悲願に向けた招致活動がどのように行われたかはつい最近放送されました。時期尚早と国内からも強い批判があったのに対して、敗戦国だからこそオリンピックを開催し、復興に向けて国民を奮い立たせるとともに、アジア各国を中心とする諸外国との関係改善のきっかけにしようという田畑政治たちの思いが結実したものであったこと、恥ずかしながら全く知りませんでした。
長年にわたる嘉納治五郎や田畑政治の招致活動が掲げた明確なビジョンや強い思いを知ると、今回の招致活動が掲げるビジョンとは何だったのだろうかと問いたくなります。
改めて、今回の東京オリンピックのビジョンは何なのでしょうか?私が知らないだけかもしれませんが、今一つはっきりしません。「復興五輪」という言葉も使われましたが、お題目にとどまっていないでしょうか?今回のオリンピックに関わる方たちにはぜひこのドラマを見て、それを改めて考えていただければ、というのが私がこのドラマをお勧めする理由です。
1964年の東京オリンピックも開催が決定したとたん政治家が群がってくる様子が描かれていて、そこは今も昔も変わらないのかもしれません。
いずれにしても、学ぶべき近現代史が丁寧に描かれていますし、女性がいかにしてスポーツの道を開拓してきたのかといったことも描かれています。念のため申し上げますが、私とNHKとは何の関係もありませんが、このドラマは力いっぱいお勧めします。
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