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海外で注目を集めつつあるグリーンジョブとグリーン人材:需要の増大と定義の難しさ

2023年も折返しを迎える中、今回は今月注目したトピックとして、気候変動、脱炭素関連の人材の需要が増えつつあり、そのための教育プログラムや求人掲載サイト等が増えつつある兆しについて触れてみたいと思います。日本国内でもグリーンジョブ・人材の必要性は指摘されているものの、その定義は世界的に見ても曖昧であり、今後より解像度を高めた議論が必要になっていきそうです。

欧州の気候変動野望とグリーンスキル不足

Green skills shortage threatens Europe’s climate ambitions ~グリーンスキルの不足が欧州の気候変動への野望を脅かす - 高炭素代替エネルギーと同等の賃金を得られる低炭素型雇用を創出することは容易ではない。[5/30 Financial Times]

5月末のFinancial Timesの記事によると、ヨーロッパが掲げる気候変動対策の目標の達成実現が危機に直面していると報じられてます。グリーンスキルを備えた人材の重大な不足、旧産業からの労働者の移行をためらう姿勢、そしてグリーン・ジョブが高収入の労働者にとって給与が低い可能性があること等がその理由として挙げられてます。海外の一部の研究において、職業の5分の1以上が「グリーン・ジョブ」として分類される可能性がある一方で、「グリーン・ジョブ」とは何かについての合意された定義はないことも問題視されているそうです。

LinkedInのグローバルグリーンスキルレポート2023年版公開

6月中旬に公開された『Global Green Skills Report 2023』によると、グリーンな分野のプロフェッショナルへの世界的な需要が増加しているにもかかわらず、労働力は持続可能で低炭素経済への移行に対して準備ができておらず、世界中で9億3,000万人のリンクトイン・ユーザーのデータを分析した結果、8人に1人しかグリーン・スキルを持っていないことが指摘されてます。

サステナブル・マネージャー、風力・太陽光関連の技術者やコンサルタント等の求人が増えているものの、人材プールはそれに追いついていないため、リスキリング、業界間の協力、および政府の支援を求める投資が必要とも指摘されてます。右下の図はそれぞれの国のエネルギー分野における再生可能エネルギー分野に従事する人の比率(縦軸)と石炭火力エネルギー分野に従事する人の比率(横軸)を示しています。欧州においては再エネ従事者が1~2.5%と高い水準にあり、アジアに置いては石炭火力エネルギー分野が多い傾向を伺うことができます。各国の円のサイズはリンクトイン利用者数の規模を示していて、日本はまだ利用者数が少ないからか調査対象国に含まれてないようです。とはいえ、いずれ国内でも具体的に課題が顕在化してきそうなテーマと感じます。

Global Green Skills Report 2023 / Linkedin

Linkedin「ならでは」と感じたのは、以下のLinkedinの求人情報として増加している求人情報と、登録会員が追加しているスキルのリストです。「サステナビリティ」というキーワードがいずれも一番に挙がっている点が印象的です。

Global Green Skills Report 2023 / Linkedin

以上のような背景と問題意識を踏まえてか、リンクトインが提供するオンライン講座リンクトイン・ラーニングの新規講座として「How to Get a Job in Climate (気候分野の仕事に就く)〜Growing demand for climate jobs」という名のコースが6月13日に公開されていることに注目しました。16章から構成されている約60分の講座で、私も早速受講してみました。気候関連の仕事に対する需要の状況解説、気候関連の履歴書の書き方、ネットワーキングの重要性、面接の準備、実践的なヒント・参考資料等、様々なトピックが取り上げられていてとても有益と感じられるものでした。9.3億人が登録している世界的なビジネスSNSであるリンクトインの学習プラットフォームにこうした形で講座が作られていることからも、グリーン分野の人材ニーズが高まっていることが伺えます。

How to Get a Job in Climate (気候分野の仕事に就く)/ Linkedin Learning

グリーンスキルと人材と定義の難しさ

また、6月1日のブルームバーグの記事では、『Growing Climate Tech Firms Need Engineers — But Also Sales and HR Pros(成長する気候テック企業はエンジニアを必要としている - ただし、営業と人事のプロも必要だ)』と題し、Climatebaseというグローバルな気候テック関連の求人サイトに過去2年間掲載された、1,500以上の組織からの46,000以上の求人情報を分析した結果が報じられてます。需要の高い求人情報としてソフトウェア・エンジニアが挙げられている一方で、営業、事業開発、オペレーション、マーケティングなど、一般的なビジネス・スキルが求められる役職も多く含まれるとのことです。気候テックのスタートアップが数多く生まれ、成長している米国と日本国内では状況は異なるかもしれませんが、示唆に富む内容でした。

先月に公開された『環境保護で脚光浴びる「緑の雇用」、希望と失望の現実』  と題したロイターの記事においても、クリーンエネルギー産業において今後10年間で平均で2500万人の新規雇用を創出する可能性があると、グリーンジョブの急増についての警鐘が鳴らされてます。そして、ここでもグリーンスキルの理解や定義が不十分であることが指摘されてます。海外においてすらこのような状況であることを鑑みると、国内においても同じような曖昧さを含んだ議論がなされるのでは、と懸念を感じます。

サステナビリティ関連のトレーニングを提供するAimHi Earthの創業者、マシュー・シュリブマン氏は、グリーンスキルの理解や定義が不十分であることが大きな問題だと訴えている。「ビジネスリーダーや政治家から求められているのに誰も実体を知らないという、奇妙な分断が起きている」と言う。
グリーンスキルは多くの場合、二酸化炭素排出量(CO2)の測定や太陽光発電設備の設置、建物の断熱改修などに欠かせない「ハードな」技術的スキルだと思われている。しかし、シュリブマン氏は体系的な思考や危機管理、自然とのつながりなど、はるかに幅広い「ソフトな」能力を提唱、グリーンスキルの需要はあらゆる分野で急速に高まると予測している。また、教育機関に対しても「機械になれ」「反復的な仕事をしろ」という従来の教育方法をやめて、部門間の壁を打ち破り、より広い関係を構築できるイノベーターや問題解決者を生み出すことが必要だと訴えた。

環境保護で脚光浴びる「緑の雇用」、希望と失望の現実』[5/5 ロイター]

「グリーン・スキル」、「グリーン人材」に関して、今後もしばらくはこうした「ふわっ」とした議論やデータを目にすることはありそうですが、気候変動対策、脱炭素、GXといったテーマの重要度が今後増えることは日々実感するところです。ことばの定義や理解がまだ曖昧さを持ちながら世界的にも語られている、という現実を踏まえ、本質を見極めていくことが大切であると感じます。

cover image: Canva


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