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「人材輩出」ということが企業にとってどんな意味を持つのか、考えてみる。

大企業で働いていた人材が、スタートアップ・ソーシャルセクター・地域・教育などの領域に飛び出していき、そこで価値創造や変革に取り組んでいく。

そういう動きが増えていけば、スタートアップの事業成長や、いろいろな社会課題の解決が加速するのではないかな。そのために、大企業がどんどん人材を輩出する機関になればよいのではないか・・・そんなことを考えることがあります。

でもそれは、大企業からしてみたら到底受け入れられない、自社の人材を手放すなんてできるわけない・・・普通に考えるとそうなんですけれど、大企業が「人材輩出企業」になったら、それはそれで大企業にもメリットがあるように思うのです。

ということで、今日はそんなことを考えてみたいと思います。

そもそも大企業人材は社外で活躍できるのか

そもそも、大企業に所属する人材は優秀なのか、本当に他のセクターに移動しても活躍できるのか、ということから考えてみます。

結論から言うと、結構な確率で活躍できるんじゃないかと思います。

私たちが取り組んでいる「レンタル移籍」という事業は、大企業人材に半年〜1年間ベンチャー企業で働く機会を提供するという仕組みなのですが、その仕組みを通じて人材を受け入れてくださったベンチャー企業のほとんどが、人材を高く評価します。(人材を受け入れたベンチャー企業へのヒアリングではなんと98%が「また人材を受け入れたい」と回答しています。)

このような結果になる要因は2つあると考えています。

まず、日本の場合はいまだに学歴の高い人は大企業に就職することが主流であるということ。学歴が全てではないけれども、学習能力や思考力の高い人が多い印象を持っています。

そして2点目は、大企業には、人材を育てる制度や機会が整っているということです。具体的に言えば、特に強いのは論理的思考力、ビジネス的なコミュニケーション、業務遂行能力や調整能力など。こういった側面において、大企業で働いていた人は高い能力を獲得していることは間違いなさそうです。この点については、下記の記事もご参照ください。

レンタル移籍という事業をやっていて、大企業から出てくる候補者の方とお会いするたびに、本当に大企業には優秀な人がたくさんいるのだなぁと感じます。(ちなみに環境を変える以上、マインドセットを変えるなどの事前準備が必要なのですが、その点は今日は割愛します。)

組織の中で人材が埋もれている

しかし、そんな彼らが大企業の中で持てる能力を十分に発揮できているかというと、そうではないケースも多く見受けられます。

組織や事業的な制約があって思うように動けない、事業が成熟しており持っている能力を発揮する余地がない、組織におけるポジションに限りがあるため順番待ちをしている・・・などなど理由は様々です。

このような問題は、多くの人材を抱えて事業を推進している以上、仕方のない側面もあるのだと思います。そうであるなら、持て余している人材に社外で挑戦することを奨励し、社外に輩出していけばいいのではないでしょうか。

これが「人材輩出企業」という考え方です。

大企業人材の強みの特徴である「論理的思考力、ビジネス的なコミュニケーション、業務遂行能力、調整能力」といったものは、事業の再現性を高め仕組み化をしていく、業務の効率化や改善をしていくときに大いに力を発揮します。

そして、スタートアップやNPO・地域や教育といったいかなるセクターでも、必ず必要となるものです。

ここに、大企業の社内で持て余している人材の能力や経験を存分に発揮するポジションがあるだろうと思うのです。

人材を輩出することにメリットはあるのか

しかし、大企業にとってみたら、せっかく育てた人材に対して、社外で挑戦することを積極的に奨励できるでしょうか。

現段階で社内に力を発揮してもらう機会はなかったとしても、数年後には出番があるかもしれない。だから企業は人材を囲い込みたいという思考に陥ってしまうのだと思います。

それを補ってあまりあるほどの価値が「人材を輩出する」ということにあるのでしょうか?

私は、以下5つのメリットがあるのではないかと考えています。

  1. 採用市場における企業のブランド力が高まる

  2. そこで働く人のキャリアに対する肯定感が高まる

  3. 出戻り人材としての可能性がある

  4. 卒業した人との繋がりによって、新たな事業機会が生まれる

  5. 社員一人ひとりの能力が高まる

以下、一つひとつについて考えてみます。

採用市場におけるブランド力

これはリクルートさんがまさに実現されていることだと思いますが、その会社の卒業生がいろいろな領域で活躍していると認知されると、新卒・中途いずれの領域においても、魅力度が高まることは間違いありません。さらにいえば、「何かを成し遂げたい」という意欲の高い人材にとって特に魅力的に映るはずです。

社員のキャリアに対する肯定感

一方で、そこで働く社員にとっても、自分が頑張って仕事を身につけていくことで、別の環境でも活躍できる力が身についているんだという証にもなります。「今の仕事をやっていてこの先も大丈夫なのだろうか」という不安は付いて回るものです。でも、卒業生の活躍を見ることで、仕事や自分のキャリアに対する肯定感を高めることができます。

出戻り人材としての可能性

もちろん卒業生が起業をしたり別のセクターに挑戦したりして、そこで成功をしてくれれば理想ですが、当然、うまくいくこともあればいかないこともあります。もし、うまくいかなかった場合に自社に戻ってきてくれるなら、挑戦をして一回りも二回りも成長をした人材を再び迎え入れることができます。一緒に働いたことがあるという実績があれば、採用によるミスマッチも心配がありません。

新たな事業機会

卒業した人材がいろいろな業界・セクターにいれば、そこから新たな事業機会が生まれるということも考えられます。スタートアップであれば協業や出資の可能性も生まれてくるかもしれません。DeNAさんのデライトベンチャーズというVCはそのような機能を果たされていますね。また、NPOや地域など異なるセクターに移動した人がいるなら、それらのセクターが向き合う社会課題と自社事業の接点を見出せる機会が増えるかもしれません。

社員一人ひとりの能力が高まる

そして最後に、ここまで紹介してきた4つのポイントによって企業全体の底上げにつながるということです。優秀な人材を自社に惹きつけることができるようになる。社員の意識が変わる。新たな事業機会が増えて、社員の能力が開発されやすくなるのです。

このようなポジティブな作用を起こせるのではないでしょうか。

つまり、人材輩出企業になることは、結果的に自社の成長に繋がる打ち手なのだというふうに考えることもできるのです。

辞めた人の存在を、自社の成長に繋げるために

ここまで「人材輩出企業」になることのメリットを考えてみましたが、それを実現するために、企業はどのようなことに取り組めば良いのでしょうか。

現時点で私が重要だと考えている点を2つ紹介します。

卒業生たちが発信したくなるような関係性の構築

卒業生たちが発信したくなるような仕掛けを作れるかどうか。これが、人材輩出のメリットを最大化する鍵になると思います。

卒業生たちが、自分は「●●社の出身で・・・」ということを常に口にしてくれるようになれば、社内外に認知されるようになり、採用市場におけるブランド力や社内のキャリアに対する肯定感が高まります。そういう発信をしてくれていれば、事業機会が生まれる可能性も高まります。

では、どうしたら卒業生たちが、そんな発信をしてくれるでしょうか。

まずは辞める時に、大切に送り出すこと、背中を押してあげることが大切です。会社に退職したいと話をしたら「お前にいくらかけてきたと思ってるんだ」「裏切り者」・・・そんなコメントをされたという話も聞きます。その気持ちもわかりますが、そんな対応をされたら「●●社の出身で・・・」なんて言いたくなくなっちゃいますよね。

個人的な話ですが、私は起業をするときに、当時の上司から「ダメだったらいつでも戻ってこい」と言っていただきました。この言葉にどれほど励まされたかわかりません。旅立つ方も不安、そのことを会社に残る側が理解してあげるということが大切なのではないでしょうか。

そして、もう一つ大切なのは、個人的な繋がりを持ちつづけること。アルムナイ(卒業生)のコミュニティなどを立ち上げる企業も増えていますね。コンサルティングファームなどで多く組成されているようで、そういったノウハウも少しずつ溜まってきているようです。

もちろんそういうやり方も大切だと思うのですが、大多数の中のコミュニティだけだとちょっと足りないのかな、という気がします。

一番大切なのは、会社に残った個人と卒業した個人がどこまで繋がっているか。そういう繋がりが、企業としての関係性を広くする。そんな意識を、社員つまり会社に残った人たちが強く持てると良いのではないかと思うのです。

内側から外と繋ぐことを積極的にやれる人の存在

これが2つ目のポイントです。会社に残る側の人材が、積極的に卒業生たちと関わりを持ち、社内外を繋いでいく。こういう動きをできる社員が増えていけば、人材輩出のメリットを大企業にもたらしていくこともできるのではないでしょうか。

そもそも、「人材輩出企業」になることを目指したとて、もちろん全員が外に出ていけば良いというわけではありません。大企業という組織の中にいるからこそ、力を発揮できる人もたくさんいます。ですからそういう人たちに、卒業生とのつながりを積極的に意識させるように働きかけると良いのではないでしょうか。

ここまで申し上げたようなことを実践していけば、人材輩出というものを自社のメリットに変えていくことはできるだろうと思います。

「人材輩出企業」というコンセプトから、企業の在り方を考える

ここまで思考をしてきて、やっぱり大企業にとって人材輩出企業になることにメリットはあり、時間はかかるかもしれませんが実現可能なものであるように思えます。

そして、それは起業したり転職をしたりするということに限らず、私たちが取り組んでいる「レンタル移籍」のように一定期間社外に出ていくや、副業兼業といった仕組みも人材輩出の一形態と見ることができます。

自社の人材が社内外を行き来できる選択肢を増やしていくことによって、結果的に「あの会社は人材を輩出する企業だよね」と呼ばれるようになっていくという流れはあり得るのではないかと思います。

と、まぁここまでいろいろ言ってきましたが、人が辞めちゃうのって寂しいですよね。

実際に私も小さな会社の経営者ですから、今一緒に働いている仲間が辞めるといってきたら、「そうかー、頑張ってねー」と口ではいうでしょうけど、顔が引きつるのをがんばって抑えることになるんだろうと思います笑

それでも、その人が意志を持って成し遂げたいことがあるのだとしたら、やっぱり応援したくなる。悲しさもあるけれど、やっぱり歯を食いしばって、背中を押してあげたいと思うんです。そうしたら、やめた後もつながっていられるんだろうと思いますし。

企業と個人の関係性というものはどんどん変わっていく。そうであるなら、会社に所属しているかどうかではなくて「繋がっているかどうか」で会社というものを捉え直してみてはどうでしょうか。そういう潮流も少しずつ出てきています。

「人材輩出企業」というコンセプトから企業の在り方を考えてみると、例えばみんなが繋がるハブとしての「企業」というような新しい企業の形が見えてくるのではないかと思うのです。

皆さんはどう思われますか?ぜひ感想やお考えを聞かせていただければ幸いです。

それでは。

追伸、ローンディールからのイベント情報です。ご興味がありましたらぜひ!


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