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秋冬第3波に向けた菅新総理、小池知事、尾身会長の戦いの構造と文脈

「危機においてエリートは何故いがみ合うのか?〜経済(政府)と医療(自治体)と科学(専門家)のトリレンマ〜」では、政府、自治体、専門家がどうしてもトリレンマに陥りやすい構造と文脈について解説した。

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今回は、その構造の理解に基づいて第2波で何が起きていたかと、秋冬第3波に何が起きそうかについて、東京都と政府と専門分科会のケースで考えたい。

第2波において「医療現場」はどれくらい逼迫していたのか

7/22のGOTOキャンペーン開始前日の、東京都のモニタリング会議で杏林大学行員の山口芳裕高度救命救急センター長が

現状分析にあたった医療関係者からは「国のリーダーが使われている『東京の医療は逼迫(ひっぱく)していない』というのは誤り」

と指摘した。

そして引き続き「医療逼迫してないは誤り」という7/22発言の想いを補足している。


私自身は、以前にもnote「コロナ禍、緊急事態宣言延長へ〜救える命を救えない社会に日常は戻ってこない〜」で書いている通り、「ワクチンが開発普及されるまでは患者にとっての医療アクセスの担保が経済活動再開の大前提」という立場だ。

そのために、エピセンターが拡大しないためにも、不要不急の行動を控える、リモートワークの推進等、市民が行動変容することの協力は不可欠と思っているし、店舗やイベントの一部営業自粛も止むなしと考える。
また、特別なコロナ治療の体制を整える医療機関への公的援助も必要だと思う。

但し、このセンター長の発言に違和感を感じるのは、患者側ではなく医療提供者側の立場のみで半ば感情的に「医療体制は逼迫していないのは誤り」と公的会議で発言している点だ。

この長期化したコロナ禍において、医療従事者以外の市民(さらには全体の経済自粛が必要か判断するための政府・自治体)が知りたいのは「患者の立場」での通常の医療アクセスが担保されているか、否かの一点だ。

医療従事者や病院経営者には申し訳ないが、「医療機関が赤字経営状態である事」、「現場従事者の疲弊していること」までを含めて「逼迫している」と表現して医療の提供者・経営側の立場から発信すると一般市民の信頼を一気に失いかねない。

売上が激減し、従業員が雇い止めにあい、残った従業員も慣れない日々のオペレーション業務に疲弊し、倒産の危機に怯えているのは、(一部の業界を除き)ほぼ全ての市民共通だからだ。

このまま医療に負荷をおわせ続けると、この安心感は根底から瓦解(がかい)する可能性があります。「医療が逼迫していない」ということを経済を回す根拠にし、「大丈夫だから旅しましょう、遊びましょう」という根拠に使ってほしくない。”

旅をする人がいて、遊ぶ人がいて、観光業、飲食業、運輸業はじめとする通常の社会/経済が回り、事業収益の一部が納税され、医療を含めた社会保障の財源になる。

医療従事者と自治体が自分達にとっての「意味の場」だけから危機感を煽り国民経済を長期に萎縮させても回り回って国の医療予算に影響してくる。

この方の発言を聞いて、医療従事者も大変なんだろうと理解する人はいると思うが同情する市民はいない。むしろ、本当に医療現場が逼迫した時に、理解が得にくくなる可能性がある。

経済/社会と医療/生命が連携を取るための都の公式会議では医療現場の従事者だけの立場ではなく、医療を必要とする患者にとって社会に対して発言して欲しい。

”私は単なる現場の医師です。政策に異を唱えるつもりはありません。でも、想像力をもってほしい。新型コロナへの対応は短期間で終わりません。様子をみて制限したり、緩和したり。社会と医療がコミュニケーションをとりながら、対策をしていかねばなりません。国民と医療の信頼関係が必要だと考えています。”

最後には、山口センター長も「国民と医療の信頼関係が必要」と正しいことを言っている。

しかしながら、東京都と政府が逼迫状況を相互理解し連携していく上で重要な重症化の人数の定義ですらずれていた

国は、経済再開の目安となる「医療リソースの逼迫状況」を患者(受益者)の立場で把握したい。なので、ICUを使用していれば、その人が軽症であろうが逼迫状況をみるためには重症者として数えるように全国に指示を出している。

東京都は、医者(提供者)の立場で、正確に実際の重症者を把握したいと思っている。実際の重症者1人に対して医師・看護師、必要な医療装備等が決まってくるからだ。これも、それぞれのトリレンマの「意味の場」の違いによるズレだ。

そして科学者として東京都の対策に深く関わってきた特定感染症指定の国立国際医療研究センターの大曲先生は、指標の選択には関わってきたが、国、都どちらの立場の優劣を判断する立場にないと、猛反発している。

何故なら、大曲先生にとって政治的に利用されることは科学者としての先生への人格攻撃とも取れる許容できないことだからだ。

こういう危機的状況では、それぞれが自分の「意味の場」からの発信する事によるミスコミュニケーション多く生まれるが、その背景にある「構造と文脈」を正しく理解しておく必要がある。

7月の菅vs小池対立

菅官房長官が自民党総裁に選出され新総理になることが確実視されている。個人的には、自身が地方議会出身でかつ役所の全省庁のを知り尽くしている菅氏の手腕に期待している。

7月菅氏は明らかに東京都の対応に苛立っていた。

6月で完全に感染拡大を抑え込み、夏の観光シーズンに需要を回復させないと経済不況(特に地方)は一気に本格化する。5月に安倍政権が政治的リスクまでとって「断腸の思い」で延長した緊急事態宣言の意味がなくなる。

「この問題は圧倒的に東京問題と言っても過言ではないほど東京中心の問題になっている。北海道は知事、市長もお見えでありますが、その連携によって大部分を封じ込めているんじゃないでしょうか」(7/11 菅官房長官)

超巨大自治体東京都は、保健所は市区町村管轄で都が直接指示できなかったり、事務作業に不手際の申告漏れがあったり、(5/7のnote「コロナ禍をテーマにデータ分析の要諦を学ぶ〜数学、算数の基本的なミスと混乱〜」でも以前触れたが)陽性率の定義が違っていたり、都と市区町村の連携の悪さには組織上の構造問題がある。

「東京は、検査数もちゃんと把握できていないんだから、これでは議論にならない」。都では保健所からの新規感染者数の報告漏れや二重計上が続き、政府が求めた陽性率の公表に応じないこともあった。感染者増加で、保健所の人手が足りなくなったことが原因の一つだが、菅氏は「小池氏が23区と連携がとれていない」といらだちを口にしていた。

それらの問題は、地方議会出身の菅氏からみると、知事の責任であり、東京(=小池)問題だ。

小池知事も「東京問題」と売られた喧嘩を買わないわけには行かない。

GOTOキャンペーンについて

”「整合性を国としてどう取っていくのか、冷房と暖房と両方かけることにどう対応していけばいいのか。」”
”菅氏肝いりの政策の「急所」を狙い撃ったかのような発言。これを機に、各地の首長らからもキャンペーン実施への異論が続出するようになる。”

結果、GOTOキャンペーンは、時期尚早と答えた人が8割にも広がり、安倍内閣のコロナ対応を評価しないという支持率最低の世論形成につながった。

小池知事が作ったこの夏の流れを、安倍政権の継承をうたう新総理は忘れてはいないだろう。

秋冬第3波、菅新総理は東京都に相当切り込んでくる

霞が関の縦割りを崩せる官僚機構を知る尽くした実力派、そして首都圏の地方自治体の実務についても詳しい叩き上げ。

そして、この秋冬の第3波を無事乗り切り、経済が無事回復すれば、菅政権の評価は定着する。派閥談合推挙というハンディキャップを一蹴するためにも、年内解散総選挙に打って出る可能性は大いにある

そのためにも、この秋冬のコロナ第3波が仮にあったとした時にどう対応するか今の菅氏の頭の中はほぼ全てこの1点に集中していると思う。

菅氏自身、今はその状況でないと否定しているが、逆にコロナが収束できたと国民的コンセンサスができたとみるや、自らの政権に自民党総裁選挙以上の正統性を得るために国政選挙にでる。

菅氏は総務大臣の頃にNHK改革、携帯電話料金引き下げを推進する等、実は相当思い切った改革派だ。既にデジタル庁創設、遠隔医療のさらなる推進、不妊治療の保険適用、等、既に改革案を発信しはじめている。

横浜選挙区選出の新総理は、湘南選出の河野太郎氏を官房長官にすえ、従来から親しい黒岩知事と連携して、国と自治体がコロナ禍においてより緊密に連携する「神奈川モデル」を展開し、因縁の東京都小池知事に揺さぶりをかけるかもしれない。

いずれにしても秋冬第3波が訪れる10-11月頃、菅新総理が、自らの政権の長期安定化に向け政治生命を賭けた動きに打って出る。その時、最大の感染源になりやすい大都市東京都に相当切り込んでくると思われる。

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