DeSci(分散型科学)は新しい資本主義の形になるか
基礎科学と資金
基礎研究は長い時間が必要である。いつどこでマネタイズできるかもわからない。何の役に立つのか、という質問をされがちであるが、大栗先生が下記の記事でお話しされているように、たくさんの人に使ってもらえる汎用性の高い道具という一言に尽きるのであろう。それは抽象的であればあるほど汎用性の高さの表れでもあるし、役に立つまでの時間が長いということでもあると思う。(例外はある。)
やはり目先の課題解決や、役に立つこと、マネタイズが見えている方向の領域に投資が集中しがちであることは否めない。
新しい基礎研究発展の形 DeSci
1.Web3と科学
Web3やメタバースの話題が騒がれて久しい。とおもったらChatGPTなどのGenerative AIの出現により、話題がそちらにごっそり移ってしまったかのように感じることもある。
依然としてWeb3の話は興味深く存在し続けている。
個人的には、DAO(自律分散型組織 、decentralized autonomous organization)によるDeSci(分散型科学、DeSci: decentralized science)というのが、新しい基礎科学の発展の助けになるのではないかという話に非常に興味があり、注目していた。
特に昨年の今頃この記事をみて、非常にエキサイティングだと思ったのを覚えている。
この度、日本でもDeSci Tokyoが立ち上がり、MeetUpイベントに参加してきた。近いうちに実際のイベントも開催されるそうだ。
主催者の皆様の熱意すばらしく、今後の活動も楽しみである。
分散型科学(DeSci)とは
さて、ここまで書いてきていてDeSciの説明がまだであった。
分散型科学(DeSci)は、中央集権的な制御や統制を排し、より分散的で共同的なアプローチによって科学を進める方法のことを指す。現代科学における資金調達や出版、著作権所有などの課題を解決するためにブロックチェーン技術を活用して、研究者や専門家が協力し、データや知識を共有しながら、より迅速かつ効果的な科学研究を実現することを目指している。
科学研究の資金調達、創造、レビュー、クレジット付与、保管、普及に関する公共インフラストラクチャーの構築を目指し、オープンなエコシステムの構築を目指す。
DeSci(分散型科学)は、科学研究の進展だけでなく、社会や経済の分野にも大きな影響を与えることが期待されている。分散型のアプローチによって、従来の中央集権的な制御構造を打破し、イノベーションや社会的な価値創造を促進することができると考えられている。
また、分散型科学の特徴の一つは、透明性と信頼性の向上といわれている。研究者や専門家がデータや知識を共有することで、より正確かつ信頼性の高い情報を得ることができるようになる。さらに、データや知識を分散的に管理することで、情報の改竄や改ざんを防ぎ、より信頼性の高い科学研究を進めることができる。
科学研究に革新的なアプローチをもたらし、新たな可能性を切り拓くことで、より良い世界を実現するための重要な一翼を担うであろう。
というまさに夢のような記述ではあるが、実際の実装はハードルが高そうである。
DeSciの事例
DeSciプロジェクトはすでにたくさん存在する。その中には、VitaDAO、SCINET、AntidoteDAO、LabDAO、Moleculeなどがある。他にも、Longevity Review、Agora Labs、Planck、Atoms.org、Flashpub.io、Desci LabsなどのDeSciプロジェクトがある。これらのプロジェクトは、科学研究の資金調達、創造、レビュー、クレジット付与、保管、普及に関する公共インフラストラクチャーの構築を目指し、オープンなエコシステムを構築している。また、科学研究の資金調達の向上、隔離された知識の解放、出版社のような利益を追求する仲介業者への依存の排除、より透明で協力的な科学研究環境の創造を目指している。
VitaDAOについては、下記の記事が日本語のものは詳しい。
日本での事例
基本的に、どのような利用ができるか、マネタイズが比較的短期で見えるようなテーマが多いし、軽視されがちな基礎科学の新しい推進方法になるかはまだ未知数である。
少し前(2022年6月)の記事だが、こんな記事がある。
まさにこの部分である。→短期的に利益を生まない基礎科学でも活用できるかは未知数だ。
新しい資本主義の形となるか、実現までの課題
ちなみに、DeSciを普及させ、前進させるための課題をChatGPTに聞いてみたところ帰ってきたのが以下である。ChatGPTはよくまことしやかに嘘をつくが、下記の課題はかなり納得感がある。引用以降のコメントが私個人のコメントで、その前のものはChatGPTが打ち出した課題である。
1.認知度の不足
→ 認知度はこれからあがっていくであろう。
2.限られた導入
研究者がこのプラットフォームに入るかどうかということももちろん課題であろう。1の知名度の不足と関係する課題である。研究者だけで完結するものでもなく、どのような人を巻き込めるのかが、また、現在は個別テーマごとにDAOが立ち上がっているが、それぞれのDAOも相関していくような関係性が作れないとタコつぼ的にシュリンクしてしまう気もする。
3.技術的な壁
すべてのステークホルダーにとって納得感のある設計をデザインするのが非常に難しそうで、おそらく今も試行錯誤が進んでいることと思う。より導入しやすい設計や、納得感のあるトークンの設計の研究なども普及し、どんどんアップデートしていくに違いない。
4.法的および規制上の問題
本当に難しい。これはDeSciに限らず、DAO関連すべて関連してくるであろうし、今後法規制がどんどん適応してくる分野であろう。宇宙業界も、ビジネスの進歩によって法規制も行われてきた。同じようにこれからできていくだろう。
5.品質管理
これはクラウドファンディングプラットフォームなどでも同じであろうかと思うが、プロジェクトの目利きをどうするか、ということ。科学の専門知識がない人もコミュニティにいてしかるべきだと思うが、その分それぞれの品質保証があるかと思う。
6.資金調達
そもそもプロジェクトを走らせるために資金が必要となってくる。VitaDAOもファイザーから調達するなど、資金確保の努力は引き続き必要である上に、分配の設計などが悩ましい。分散型組織といいつつ、はやり普通の資本主義のお金が必要なのがなやましい。
7.ガバナンス
きっとこれも試行錯誤のうちに出来上がるんだろうなあ。今現在どうすべきか明確な答えが見えない。
これからのDeSciに注目である。