ファミレスからファミLess時代へ。「ぼっち」から「ソロ活」へ
独身市場なんて所詮マイノリティなんだからそこを狙ったって商売にならないとか言い出す人がいまでにいます。そういう人口動態に無知な方は放っておくとして、間もなく人口の半分は独身者になるのは必至です。
彼らの市場規模は、僕の試算では、もうすぐ100兆円市場になり、2035年には家族の市場規模を追い抜きます。それは、ソロ人口が増えるからという部分もありますが、逆に、家族人口が大きく減少するからでもあります。
今後、といっても今でも、もうソロの顧客を獲得できないと終わるのですよ。
ガストのソロ席が好評ですが、かつてのファミレス(ファミリーレストラン)はもはやファミ(リー)Lessになりつつあり、4人掛けテーブルはどんどんなくなっています。居酒屋もカウンター席に変わっている。
そもそも現段階でも日本の外食産業を支えているのは、独身者たち、しかも独身男性たちです。彼らは、消費実額で一家族分以上どころか、家族の1.7倍くらいの外食費を毎月使っています。家族がいるなら別ですが、一人で生活することを考えるなら、実はいちいち自炊するようり外食の方が合理的だったりもするからです。
独身者にありがちだと思うのですが、スーパーで野菜や肉をまとめ買いしても、結局は一食分しか食べず、残りは冷蔵庫の中でミイラ化させてしまった経験あると思います。
コロナ禍で外食産業は大きな打撃を受けていますが、下のグラフの赤部分がコロナによって失われた消費です。ご覧の通り、独身男性たちの外食費は一人月1.6万円も失われました。それでもなお、一家族以上の外食費を一人で払ってはいるわけですが、外食産業にとっては、家族が来ないことより、このソロ客が来ないことの方が損失が大きいわけです。何度も言いますが率ではなく実額比較なので。
ちなみに、総務省の家計調査では、世帯ごとの消費支出しか調べていないので、実は本当の消費についてはわかっていません。というより、欠けているのが、親元に住む独身者の消費支出です。忘れがちですが、独身者は別に単身者だけではないので。
そもそも、親元に住む独身者人口は、単純に国勢調査の独身人口(未婚+離別死別)から、単身者人口を引けば、おおよその数がわかりますが、単身者約1800万人に対し、親元含む一人暮らし以外の独身者は約2600万人もいます。この2600万人がすべて単身者のように外食比率が高いとは言いませんが、少なくとも単身者の3分の1くらい(1日1食程度)は外食費にかけていると思われます。すると、全独身者の外食市場規模はもっと大きいものになります。
※そうした正確な消費実態の把握のためにも、総務省統計局にはぜひ早々に「親元独身」の品目別消費調査を実施していただきたいものです。これ2015年上梓した「結婚しない男たち」にも書いたのですが、5年たってもやってくれない。
さて、ソロ市場は、外食だけではありません。旅行業界もソロ旅需要を当て込んでいる。
一昔前まで旅行会社のパックツアーは「最少催行人数2名」とか書かれていて、ソロ客は申し込めませんでした。ソロは、仕方なくく割高でも自分で交通費も宿泊費も別々に払って、旅行しなければならなかった。
ビジネスホテルではない、観光地の旅館も、「1人なんですけど…」というと断られる場合もありました。自殺でもされると思われていたのでしょう。その偏見もひどいものです。要するに「旅行などは家族や友達と大勢でするものであって、一人でこんな山奥の旅館に来るなんてきっと人生に疲れて自殺するつもりに違いない」と決めつけていたからです。
ところが最近、大幅に改善されています。パックツアーに関しても「1名からOK」というプランがかなり増えてきました。旅館も、一人での予約や利用もOKというところも増えていますし、むしろ「ソロ向けプラン」を出しているところすらあります。
僕自身も和歌山に旅行行った際に、一人で海の見えるプライベート露天風呂がある結構な旅館に一人で泊まりましたが、一人であることを怪訝がるでもなく、当たり前のように歓迎してくれました。ま、周りは家族連れやカップルばかりでしたが。
露天風呂はこんな感じでした。これを一人で満喫できるなんて、ホントうれしい限りでした。
図に乗って、ひとり由美かおる自撮りをしましたw
ソロ客だからと変な偏見もなく、当たり前のように扱ってもらえるのは、よくよく考えれば当たり前なんですが、ようやくそういう時代になってきたのだと実感します。
星野リゾートでもわざわざ「ひとり旅」プランを推しています。
こうした状態は、決して、旅行会社や旅館が時代を見抜く目があって、先駆けてこれに取り組んだというものではありません。メディアが「ソロ旅」を喧伝したわけでもありません。それより、ソロで旅行をしていた人達がある程度のボリュームで存在していたという事実の方が先なのです。
そのうち「一人で利用したい」という需要がに対してようやく対応されたというのが実情でしょう。ぶっちゃけ、旅館などは、平日限定でソロ客優遇プランなどを用意した方が売り上げ上がるかもしれません。
にもかかわらず、Gotoキャンペーンではどうしても家族重視になってしまっているようですが、そろそろソロ客の重要性に気づいてほしいものです。
いずれにしても、今後は、外食や旅行に限らず、ソロ客向けのサービスがどんどん広がることでしょうし、それに抗うところは衰退していきます。まさに拙著に書いた通り、ソロの消費が経済を回す「ソロエコノミーの襲来」時代に突入するのです。
日本のソロ消費カルチャーについては、以前イギリスBBCからも取材受け、記事になりました。ソロでしか入れないバー、ソロカラオケ、ソロ焼肉などが紹介されています。
こうした日本のソロ活は、イギリス人から見たら奇異にうつるのかと思いきや、「いいな〜」「うらやましい」「行きたい」というレスが国籍またいで多数あり、日本人だけじゃなく、ソロ活したい人は海外にも一定数いるようです。
コロナ禍でも何かというと、団結や同調性が強調されましたが、一方で、いつも家に家族くと一緒にいることでのストレスや、それに伴うDVの発生なんかも問題視されています。
いつも誰かと一緒でもそれはそれでつらいものです。
ソロ活の時間によって、一人の時間を大切に過ごし、自己と向き合う豊かな時間を確保するってことは、人類にとっても大事な視点なのではないかと思います。
同時に、ソロ社会とは一人で死んでいく社会でもあります。そういうとすぐ「孤独死の恐怖」を訴求する旧態依然脳の人がいますが、今後は家族に看取られず死んでいくく人達が普通になります。2040年には一人暮らしが全世帯の4割になりますし、その多くは夫と死別した妻です。子がいても、同居していない人達が多い。結婚しても当然誰もが孤独死の可能性はあるわけです。
「孤独死怖い」なんて子供だましのような訴求より、生きている間にどう始末をつけるかということを目を配るべきだし、そういう行政及び民間のサービスの充実が望まれます。
実は、2019年3月に日経新聞に取材受けて、この記事が一面で紹介されたことがあります。
一人でいることを揶揄する「ぼっち」という言葉から、それが日常の当たり前として認められる「ソロ活」へ、という話をしましたが、1年半をかけて、ようやくそういう風潮が根付いてきたと、個人的に感慨深いものがあります。